社会人が異世界人を拾いました

かぷか

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異世界人てやつは 

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 只今廊下でやまとの儀式練習が終わるのを護衛三人と並んで待っているフィグ。腕を組み目を閉じじっと待つ。

そんな中、護衛は王とこんな間近で時間を過ごす事が無くこの上なく緊張しながらフィグの隣に立っている。勿論会話など無いしできるはずもない。

一瞬やまとの声が聞こえた。

振り返りドアを開けようとするが鍵が閉められカチャカチャとするが開けられない。仕方なくまたじっと待つ。

「むーーり~!」

今度はハッキリと聞こえ眉間にシワを寄せドアノブをこじ開けようとしたがまた声が。

「フィグ~」

その声と同時にドアノブを引きちぎる。ノブがなくなったドアを見ながら護衛に右手を出した。

「その槍よこせ」

その声の鋭さにすぐに護衛は持っていた槍を差し出すと手にしたと同時にドアが蹴り破られた。

やまとが吹雪く中に消えて行くのが見える。フィグは迷いもせず前方に槍を投げると槍がやまとの行く先に刺さる。

「王!」
 
声をかけるクラムなど見向きもせずに一直線に槍の落ちた方向へ進む。

 二人の王は背後に迫り来る恐怖に悪寒が走り、ギギギと首だけを向けて後ろを見る。
とそこには魔物…フィグが向かって来ていた。

槍が道を塞ぎ前には進めず仕方なくやまとを抱えたまま振り向いた。向かってくる悪魔の様な男に見覚えが。

「フィグ?」

やまとを確認すると少し顔が和らいだがそれもつかの間。

「やまとを返せ」

この上なく恐ろしい顔と声で二人の王に言い、やまとを脇からひょいと持ち上げた。

「大丈夫か?」

「うん。でも練習失敗した、ごめん。怒ってたりする?」

「いや、やまとは悪くない」

顔に付いた雪を払い、やまと抱え部屋に戻ってしまった。取り残された三人。

「クラム……」

「わかってます。言いたいことは痛いほど」

「アイコンタクトが……」


【動いたら殺す】


「「「はぁ~」」」

「あれじゃ練習も儀式もできない!」

「これは予想以上に問題です」

三人は壊れたドアを見ながらまた頭を抱えるのだった。

「やまとさんが寒さに弱いのは知っていましたが困りました」

「そうだな、当日はあいつがやまとをすぐ抱えながら魔石を取るでいいかもな」

「それならそこまで寒さに震える事無くできるかもね。後は服装を要検討だな」

「「問題は次だな」」

「はい…」

儀式はあと2つ。先が思いやられる三人は次の対策を練るのだった。


「フィグ、ごめん」

「謝らなくていい」

「でも、怖い顔してた」

「あれはやまとにじゃない。やまと冷えたからお風呂に入れ」

「うん…」

俺には根性が無いんだろうか?我慢もたりないのだろうか?儀式をなめていた…俺でもできると言って期待してくれたフィグに何だか申し訳ない。

ちゃぷん

やまとはすっかり自信を無くしてしまった。ため息をしないようにお湯に顔をつけ気合いを入れ直すが実際は回復はしていなかった。

「フィグありがとう。フィグも入って…」

「わかった」

着替えるととぼとぼと歩いてベッドに横になりぼーっとした。前回の事もあり、できないことだらけの自分に嫌気がさしていた。

お風呂もご飯も全部一人じゃ無理、フィグの相談相手も儀式もできない。

「情けない…」

ゆっくり目を閉じるといつの間にか寝てしまった。起きると部屋は暗く布団がかけてあるがフィグはいなかった。布団を被りクローゼットの中へ移動しドアを閉めふて寝をした。

翌日クローゼットを開けられ起きるとフィグとクラムさんがほっとした顔で覗いている。

「やまとさん良かった」

また、心配をかけてしまった。

「ごめん…」

「謝る必要ないですよ」

フィグはやまとを抱えベッドへ。クラムをすぐに追い払いベッドへもたれ自分の座る前にやまとを座らせた。

一番初めにやまとが部屋で寝た時も狭い所で寝ていた。今回も同じように狭い所で寝ていたのは不安や気持ちを押し殺しているのではと気がついた。

「フィグ?」

「やまと」

アイコンタクトをされるのかと思ったが違った。

「練習はしなくていい。儀式もしない」

「でも、しないとだめなんじゃ?」

「必要ない」

「それじゃ王妃になれないんじゃ?」

「そんな事はない。それは重要ではない」

「でも…」

「やまとがいればいい」

「うーん」

「納得できないか?」

「周りの人が納得しないんじゃない?」

「大丈夫だ、納得してる」

「うーん」

「やまとの不安は何だ?」

「……。」

「やまと」

「何もできない事」

「やまとは何もできなくない」

「魔法使えない、儀式もできない。何もできない」

何だか自然と涙か溢れてしまった。泣きたくないのに。一生懸命拭うけど止まらない。

「やまとはいろんな事ができる。俺にはできない事が沢山できる」

「例えば?」

「俺より話せる。よく笑う。楽しませてくれる。知らないことを知っている。優しい。一生懸命。まだある」

フィグはいつの間にか俺をぎゅっと抱きしめてくれた。

「いろいろあるが俺の事を好きなのはやまとだけだ」

「そんな事…」

「その好きではない。愛してるの好きだ」

フィグはわかってたんだ。

「うん」

「やまと」

「うん」

「婚儀ではなく今日が二人だけの婚姻の日にしよう」

「やまと、愛してる」

「俺も愛してる」

不安だった気持ちはどこへやら。
俺がいてくれればいいって言ってくれて嬉しかった。それに俺の事そんな風に想ってくれてたなんてフィグの男前な行動に惚れてしまった。

「フィグ、イケメン」

「何だそれは」

「格好いいって事」

「そうか、やまと……その…」

アイコンタクトをした。

文字が浮かぶ「やまと好きだ」の連続。
まるで念仏のよう。

「フィグ、怖いから止めて」

「わかった」

すると手スライドさせキラキラした文字を見せてくれた。


 『やまと、大好き』

「俺もフィグ大好き!」


抱きつく俺は一瞬最終回ではなかろうかと思った。この後、手でイかされて普通にぬきっこしたから違うな…。

□□□

 王が昨日夜に来て儀式は全部しないと言ってきた。勿論練習も。やまとさんに何かあったのか聞いても答えてくれなかった。

配慮にかけていたのか…。

王は前から婚儀に反対していた。それに、もしやるならできるだけ簡素で質素にと。なんなら二人だけでいいぐらいの勢いでした。なぜかは今もわかりません。

 ずっと話し合っていたがその日は答えがでず平行線で終わった。


 次の日の朝、王と昨日の話しの続きをしていると使用人が仕事場にあわてて入ってきた。

やまとさんがいなくなったとの事。私は焦りを感じ王と一緒にやまとさんの部屋に走った。

部屋にはいない。護衛も出た形跡がないとの事。
王は冷静に辺りを見渡すとクローゼットへ足を進めた。開けると中にやまとさんが寝ていた。

良かった~!

だけどやまとさんは申し訳なさそうに謝りました。なぜ謝ったかはわかりませんでした。

王はすぐに抱き抱え私に引くように命令を出しました。後は王に任せます。

やはり、配慮にかけていたかもです…

念のため儀式二の準備を進めながら、やはり王がやらないと決めたらやめにしましょう。
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