宿命のマリア

泉 沙羅

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第4章 片想いのジュリエット

第21話

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夜中、宏美は眠っている可憐を胸に抱きながら考えていた。
どうすれば啓一朗に一泡吹かせ、痛い目に合わせられるだろうか。
菫子の葬儀の後の手続きや相続関係の話し合いでしばらくは可憐も自分も、街の屋敷に泊まる。今がチャンスなのだ。しかし、方法が思いつかない。
悔しいが、力では敵わない。おそらく頭でも敵わないだろう。彼が正気でいる限り。


(………正気でなかったら? )


しかし、どうしたら啓一朗に正気を失わせることができるだろうか。それも身動きもできなくなるほどに。




「……ひろみ………」


名前を呼ばれ、可憐の顔をのぞき込む。
…寝言だった。
眠りながら可憐は宏美に頬を擦り付けてくる。
(由紀もこんなんだったな………由紀、どうしてるだろうか。由紀ももう19か……まだ暴れてんのかな。さすがに落ち着いたかな)
可憐に由紀を重ね合わせ、もう二度と会うことはないであろう妹を思う。
そしてもう一度可憐の顔を見た。宏美の腕の中がよっぽど安心するのか、安らかな寝顔をしていた。

(僕は君の兄じゃないから、ずっと一緒にはいられないんだよ、きっと)

「閉経して廃棄処分されるまで傍にいる」とは言ったが、実際閉経まで生き延びるFなど聞いた事はない。病気になって医療を受けられず死ぬか、アルファの機嫌を損ねて殺されるか、ある歳になったら「賞味期限切れ」と見なされて殺されるか、どれかだった。
その「ある歳」とはかなり個体差がある。歳をとっても美しければ処分は避けられる。
そもそも莉茉のように、あまり器量のよくないオメガや、歳をとったオメガは「売り物にならない」とFにすらなれず殺されてしまうことが多い。Fの平均寿命はだいたい25歳くらいである。早ければ18歳、遅くても30歳までには「賞味期限切れ」として処分される。宏美は今20歳。可憐と過ごせる時間は長くてもせいぜいあと10年なのだった。
(僕が殺されても、君はちゃんと生きるんだよ)
宏美は可憐を抱く腕に力を込めた。


次の朝、何故か屋敷中が騒ぎになっていた。
可憐たちの母である、詩織の部屋の前に使用人たちが集まり、何やら深刻な面持ちで話し合っている。
「何があったの? 」
可憐が尋ねる。すると一人のメイドが重い口を開いた。
「啓一朗様が……奥様に乱暴を………」
「えっ……」
詩織が目も当てられないような姿でおいおい泣きながら部屋から出てきた。彼女の体を執事が支えている。おそらく病院に連れていくのだろう。
「旦那さまが亡くなられたことで、奥様の発情期フェロモンがダダ漏れになってしまったみたいなんです。でも奥様は今まで、20年以上も旦那さまにしかフェロモンを発さなかったから……油断して薬を飲んでなかったみたいなんです。それで啓一朗様が当てられてしまったらしくて……」
詩織は菫子より15歳ほど若いのでまだ閉経するような歳ではないのであった。
「………」
可憐は真っ青な顔をして震えた。アルファのおぞましさを改めて感じたのだろう。もし母の発情期フェロモンに当てられたのが自分だったらと考えたら、想像するのも恐ろしい。さすがの兄もショックを受けているだろう、と可憐は思ったのだが……。
「ったく。あのババア、まだ閉経してないなら抑制剤くらいちゃんと飲めよな。自分の母親の発情期フェロモンに当てられちまうとか、本当に気持ち悪いわ。なんで出てきた穴にわざわざ入れなくちゃいけないのかねぇ」
啓一朗はしゃあしゃあとそう言いながら詩織の部屋から出ていった。
「…………」
可憐は言葉を失った。兄に罪悪感など期待した自分が馬鹿だったのかと。そんな可憐の肩を宏美が後ろからそっと抱く。
(……なんて野郎なんだ。生かしちゃおけん。………あ……… そうか…………そうだ!! )
宏美はこの出来事から何か思いついたようだった。


宏美はその日の夜中、そっと啓一朗の部屋に忍び込んだ。
(こいつ、母親を犯したっちゅうのに大いびきかいて寝てやがる。清々しいほどのクズだな)
そして物音を立てないよう、細心の注意を払いながら部屋の中を物色する。あるものを探して。
「………あった」
宏美は怪しげな箱に並んだ注射器を見て呟いた。探していたのは、以前啓一朗に打たれたドラッグだった。未だに性奴隷館に通い、オメガやベータ女を家に連れ込んでは遊んでいる啓一朗のことだから、絶対悪趣味な薬やら道具やらを所持しているだろうと思っていたのだ。


『あんまり打つと当てられる方の僕も動けなくなってしまうからね』


啓一朗のこの言葉も、宏美はしっかり覚えていた。
オメガの強烈な発情期フェロモンの前ではアルファは無力だ。ほぼ確実にオメガを犯してしまう。ゆえに、ただ発情させるだけではダメなのだ。啓一朗がヘロヘロになるほどの強烈なフェロモンを出さなくては。きっと自分も無事ではいられないかもしれない。
けど、それでも啓一朗を痛い目に合わせてやりたい。可愛い可憐を痛めつけるクソ野郎だから。そして傲慢なクソアルファだから。こいつを痛めつけれてやれば、きっと社会への復讐になる。
宏美は自分の血管に注射を1本、また1本と打ち続けた。1本打つたびに体が熱くなり、後孔が疼き出す。自身も固くなっていく。あのときは1本だった。それでも、吹っ飛ぶくらいに発情して、勃起も後孔の疼きも中々収まらなかった。
(熱い………熱い…………熱くて死にそう……)
合計3本打ち、これ以上はヤバいと感じる。ここまで打てば間違いないだろうか。
(でもこれじゃあ、僕まで吹っ飛んじゃう……)
宏美は強烈な疼きを感じながら思った。啓一朗を痛めつける前に自分がイカれてしまっては意味がない。
そこで手持ちのナイフを取り出し、自分の太ももを切りつけた。
「っ!!」
暗がりでよく見えないが、白い肌に血が滲んでいった。……だが、痛みが頭がはっきりさせてくれる。
また理性が飛びそうになったら、こうすればいい。
宏美は火照り、震える体を引きずりながら、いびきをかく啓一朗を見下ろすように上に乗る。そしてその形のいい顎を掴むと、少し口を開かせた。口を合わせ、唾液を流し込む。発情したオメガの体液には媚薬作用があるから。

「んっう…………ん? 」
強烈な甘い匂いに目を覚ました啓一朗。
「……お目覚めか? 」
宏美は妖しげに微笑む。彼の息も大分荒い。顔も真っ赤に紅潮している。
「んだよ、お前も発情期なのかよ。可憐だけじゃ物足りなくなったか?……ちょうどよかった。あんなババア抱いて気分悪かったんだ。口直しさせてもらうわ。………ん!? な、なんだこれ……」
啓一朗は苦しげにもがき始めた。薬で通常の発情期の何倍も強烈になった宏美のフェロモンに当てられている上に唾液まで飲まされて身動きがとれなくなってしまったのだ。
「ざまあみやがれ。マザーファッカーが」
宏美はケラケラと啓一朗を嘲笑った。
「僕に何をしやがったこの!! どういうつもりだ!! 」
もがきながらも啓一朗は目を金色にチカチカ光らせ、宏美を睨みつける。彼の香りも濃くなっている。兄妹なので香りもよく似ているが、可憐より啓一朗の方が主張の強い香りをしていた。
「心配すんな。僕はあんたと違って優しいからな。お手柔らかにしてやるよ」
宏美はそう言って啓一朗の寝巻きのズボンと下着を一気に下ろした。
「っ!! 」
啓一朗はもう悲鳴もあげられないようだった。
「残念だけど、今回はこっちは使わない」
宏美は啓一朗自身を手でギッとつかみながら言った。
「!? 」
啓一朗はもうわけがわからない。
「使うのはこっちだよ!! 」
宏美は啓一朗の細くはあるがしなやかに筋肉がついている脚をぐっと持ち上げてそう叫んだ。そして固くなった自身を啓一朗の後孔にグリグリと当てる。
「やめてくれ……やめてくれ……」
啓一朗がか細い声で怯えながら言う。
「あれぇ? 自分は散々人に突っ込んだくせに突っ込まれるのは嫌なのぉ? ワガママすぎない? 」
宏美は嫌味ったらしく、煽るような高い声で言った。
「僕が悪かった、悪かったから、やめてくれぇ!! 」
啓一朗は泣きべそをかいている。冷酷で傲慢なアルファも追い詰められるとここまで弱いのか。というより、アルファは攻撃する性であるゆえに、他の性から攻撃されることは想定されてないのだろう。宏美は可笑しくて笑ってしまった。
「なんなの、その態度。まるで僕が強姦しようとしてるみたいじゃないか」
……実際強姦だろう。宏美はそれをわかっていてわざとすっとぼけてるのだ。わざと「強姦」という言葉を口にすることで、啓一朗をおびえさせようとしているのだ。
「やめてくれぇ! やめてくれぇ!」
とうとう泣き出す啓一朗。
「うっせえな!! 優しくしてやるから騒ぐなって!! 」
そう言って宏美は啓一朗の後孔に指を入れようとしたが、アルファのそこは濡れない。
「痛い!! 痛い!! やめてくれ、無理に入れるのはやめてくれぇ!! 」
「あん? お前、僕に薬打って無理やりイラマさせたよな? 僕が断れないのをいいことにさ。母親のことも犯したよな? 使用人のベータ女たちのことも散々犯して妊娠させて捨てたって可憐から聞いたぞ。だったら僕がお前のケツ犯すくらいしてもバチ当たんねーよな? 」
「うっうっう………」
啓一朗は泣くばかり。
宏美は、また頭がのぼせてきたのでもう一発ザクッと太ももを切りつけた。
「っ!! はあ……はあ……」
シーツに血が飛び散る。
啓一朗に無理やり突っ込んで、痛い目に合わせてやろうとも思った。しかし、ここは快楽堕ちさせた方が啓一朗のプライドをズタズタにできるのではないかと。
痛みで少し冴えた頭で宏美はそう考えた。




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