My destiny

泉 沙羅

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「お母さん………」


千歳は母の墓の前で祈りを捧げ、さめざめと涙を流した。
真琴はその様子を背後から見守っている。
「私、本当に親不孝な娘よね。お母さん、まだ死ぬような歳じゃなかったのに。きっと私を恨んでたに違いないわ」
「お義母さんは最期まで千歳ちゃんのことを思っていたよ。……千歳ちゃんの気持ちわかってあげられなかったこと悔やんでたみたい。きっとお義母さんは千歳ちゃんのこと誇りに思ってるよ。親孝行って何でも親の言うことを聞くことじゃなくて、『この子はちゃんと自分の力で生きていける』って安心させることだと思うから。……まあ、親がいない僕がこんなこと言うのはおこがましいけどね」
真琴はそう言って千歳の隣に座り込んだ。墓の前に白い薔薇の花束を置き、手を合わせる。
「真琴さん……」
「じゃあ、そろそろ行こうか」


音楽フェスの会場では、宏美が "Through the rain"を熱唱していた。
その宏美の歌声に合わせ、白いロマンティックチュチュを着た明日果とヒラヒラとした男性用衣装を身につけたサラがペアになってバレエを踊った。
宏美が見事なホイッスルを披露したり、サラが明日果を軽々とリフトしたりすると、観客席から歓声や拍手が湧き起こった。




「すごい、あの子達。お人形みたいだったね」
「いや、人形はあんなクルクル動けんだろ。あのリフトみた?」
「男なのにこの曲、原キーで歌うってやばくない? 音域何オクターブあるのよ、あの人」
「それより選曲に驚いてるよ、俺は。だってこれ、駆け落ちの歌だろ……? 」

観客は口々にそのようなことを言った。


「……宏美さんね、こないだ会ったら匂いしなくなってたわ」
3人の出番が終わった後、千歳は観客席で隣にいる真琴に言った。
「えっ……あの可憐さんって人と番になったってこと? でも彼は……」
「恋愛感情あるにしろないにしろ、人生の伴侶は可憐さんしか考えられなかったんじゃないかしら」
「そうか……」
「まあ、私は彼じゃないし、本当のところはわからないけどね」
(いや、多分彼自身もわかってないわ。私も偏見はないつもりだったけど、正直アルファ同士なんて考えられなかったもの。真琴さんが奈都さんと愛し合ってたことや、宏美さんの性指向を知った時は何とも思わなかったのに。でも、ね……わかんないもんだわ)


最後のカーテンコール。
宏美に導かれ、ステージの前方に進み出る、明日果とサラ。
多くの人から歓声を浴び、明日果はサラと手を繋いで丁寧にお辞儀をした。


「……素敵な宝物をありがとう、真琴さん」
「その宝物は君が僕にくれたものでもあるよ」


真琴は千歳の手の上に、そっと自分の手を重ねた。

千歳はそれに応えるように真琴に微笑みかける。

真琴も千歳に応える。

これから本当の2人の時間、歴史が始まるのだ。





‪✝︎ fin.
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