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第14話
しおりを挟む皆が固唾を飲んで見守る中、明日果は工具箱を開けた。
怪力の明日果のことだから、力技で引きちぎるのかと皆思っていた。しかし、違った。
明日果はドライバーや電動のノミを使い、器用に千歳の首輪の組織を分解していった。
その目つきはまるで熟練した職人のようだった。とても8歳の子どもとは思えない。
(この子が私の娘なんて………)
千歳もそんな明日果の顔を見つめてそう感じざるをえなかった。
明日果が作業を始めて約30分後……
「外れた!! 」
とうとう千歳の首輪を外すことができた。
それと同時に千歳の香りであるラベンダーの匂いがふわりと漂うのを明日果は感じた。
(ママの言っていたパパの香りだ……)
「やったー!! 」
リタとケイは手を取り合って喜ぶ。
「バンザーイ!! 」
サラも大はしゃぎだ。
「…ありがとう、本当にありがとう。明日果ちゃん。あなたにも今まで苦労かけたね……本当にごめんなさい……」
千歳も明日果を抱きしめる。
「自分の娘にちゃん付けするもんじゃないわよ、パパ」
そう言って明日果は大人びた微笑みを見せる。千歳は驚いて明日果を見つめる。
「え? パパと呼んでくれるの? ……私、今更父親面なんてできないわ。あなたにも、あなたのママにも何もできなかったじゃない」
「……パパがママをこの国に逃がしてくれたおかげで、私はママに愛されて育つことができたわ。……素敵な人にも出会えたしね」
明日果はそう言ってサラの方を見た。サラも明日果に微笑みかける。
「こないだだって、私たちを助けてくれたし、ずっと見守ってくれたじゃない。私はどこかでパパに父親を感じていたわ。私、パパみたいな勇気ある人になりたいの」
「明日果……!!」
千歳はもう一度娘を固く抱きしめた。
「真琴さん!!」
千歳はもう一度真琴の元へ向かった。
「千歳ちゃん……匂い……戻ったね……」
真琴は熱のせいか、激しく発情しているせいか、意識朦朧としているようだった。部屋の中のオレンジの匂いがますます濃くなっている。千歳はもう衝動を抑えきれない。
「明日果が外してくれたのよ。さすがあなたが育てただけあるわ。長い間苦しませてごめんね。もう大丈夫よ。これからはずっと私が守るから」
千歳は発情からか、息を荒くしてそう言った。そして真琴に口付けると、彼の下肢に手を伸ばした。
そこはもうシーツが湿気るほどに濡れていた。
「……もう前戯はいらない!! 早く入れて!! 君が欲しい!! 子種を注ぎ込んで!! 」
真琴はオメガの本能むき出しにそう叫ぶと、千歳のスカートをめくりあげ、再び口淫を始めた。
「……ちょっ……真琴さん……子種って……」
あまりにダイレクトな真琴の言葉と行動にとまどいつつも、結局されるがままになってしまう千歳。
もう彼女のアルファとしての本能を抑えるものはない。真琴がほんの少し愛撫しただけで、千歳のアルファの象徴は屹立し始めた。
「入れて!! 早く入れて!! 」
「……ちょっと待ってコンドーム……」
真琴の勢いに若干引き気味の千歳。
「いらない!! 中に頂戴!! 」
「……でも……いいの? 今発情期なんでしょ? 」
「………いいの!! 千歳ちゃんの子なら何回でも孕む!! 」
必死の形相で訴える真琴。
「真琴さん……」
千歳は真琴を押し倒すと、そのひくつく淫孔に自身を突き立てた。
「あああぁぁ!! 」
長年待ちわびた熱の侵入に、真琴は悲鳴のような声をあげて悦んだ。入れた瞬間にピシャピシャと淫水を漏らしてしまう。
「……すごい……真琴さんの中……ずっとずっと、こうしたかったよ……」
千歳はそう言ったが、真琴は応える余裕もなく喘ぎ狂っている。
「もっと奥まで突いて!! もっと!! もっと!!
ああっ!! もっと突いて!!僕をめちゃくちゃにして!! 」
入れた瞬間達したにも拘らず、さらに求めてくる真琴。
「真琴さんっ……」
千歳は真琴に求められるがままに、腰を振る。
「あぁっ!! 気持ちいい!! あぁっ!! またいく!!」
真琴は自身からダラダラと透明な液を垂れ流していた。
「私も気持ちいいよ、真琴さん……っ」
普段は温和で物静かな真琴の淫らな姿にますます興奮が高まる千歳。
「……ああっ!! もうダメえ!! 可笑しくなる!! 」
「……私も、もういきそう……」
「中に出してぇ!! 中に出して!! 」
「……っ!!」
千歳は真琴の中に精液を注ぎ込むのと同時にその項に歯を立てた。9年前と同じように。
その瞬間、噛んだところが金色に輝く。
真琴も一緒に絶頂を迎え、力尽きてベッドにばたりと沈んだ。
「千歳ちゃん、愛してるよ……」
息を切らし、顔を上気させつつ、愛おしそうにそう訴える真琴。その宝石のような琥珀色の瞳から涙が零れている。
「真琴さん……」
真琴からそんな言葉を貰ったのは実は初めてだった。千歳は言葉がなくても、真琴に愛されていたことは感じていた。それでも感激して泣きそうになる。
「私もよ」
真琴が眠ったのを見届けた千歳はリビングに向かった。先程騒がせたのを謝るために。
リビングでは宏美が独り、タバコを吸っていた。
「……他の皆は? 」
「……何時だと思ってんの、とっくに寝たよ」
宏美はそっぽを向いて言った。
「……そう、ごめんなさい、さっきは見苦しいところを見せてしまって」
宏美はタバコを吸うのをやめ、千歳の方を見る。そしてスンと鼻を鳴らした。
「………本当にアルファなんだな、あんた。……そりゃそうだよな」
宏美は複雑な表情を浮かべていた。
「ごめんね、頭のネジ飛んでるアルファで」
「いや、頭のネジ飛んでるのは僕も人のこと言えなかった。色々乱暴なこと言って悪かったよ」
目を逸らせてそう言う宏美に千歳は微笑みかける。いつもナイトクラブで見せていた美しい、女神の微笑み。
「真琴さんのこと、すごく思ってくれているのね」
千歳の言葉に宏美は「何を!? 」と目を見開く。そしてぷいっと顔を逸らした。
「………べっつにっ!! 」
「……ありがとう」
「なんでお礼を言うわけ? 」
「私は真琴さんを愛してるから、彼を愛してくれる人には感謝しかないわ」
綺麗に微笑みながらそう言う千歳に、宏美も顔を紅潮させる。
「はぁー、全くあんたら夫婦は……」
宏美は頭を抱えて首を横に振った。
「ふふふ、おやすみなさい」
部屋に戻った千歳は真琴の隣に横たわり、刑務所にいたころを思い出していた。
千歳は刑務所に入るまで、真琴以外の経験はなかった。だが、アルファの性欲はとても強い。おまけに刑務所では、まともに人肌を感じられる機会もない。さらに首輪でペニスも生えてこないように管理されたのでは、自慰もできない。色々爆発しそうだった千歳に、当時同室だった女囚が声をかけてきた。
彼女は「寂しいのでしょう? 私もです。慰め合いましょう? 」と誘いをかけてきた。
彼女は宝塚の娘役を思わせるような、清楚で麗しい容姿だった。その美しい言葉遣い、優雅な物腰から育ちの良さが伺いしれた。千歳のいた刑務所にはアルファしかいなかったのだから、当然彼女もアルファだ。彼女も首輪を付けられていたので匂いはしなかったのだが。聞けば同い年だとか。雅な容貌をしてなんてあからさまなことを言う人だ、と千歳は驚いた。
勿論、千歳は真琴に操を立てたかったので断った。
だがある日の夜中、悶々としていた千歳の寝床に彼女が潜り込んできた。
「お辛いんでしょ? 慰めてあげますよ。私とならペニスがなくても気持ちよくなれますよ」などと言いながら。千歳は「私には番がいるのよ」と凄んだが、「操立ててるおつもりですか? これはセックスじゃなくて自慰だと思えばいいでしょう。以前からあなたのこと、お綺麗な方だなと思ってました。とくにその黒い瞳と髪が。私には番はいないんですが、愛する人ともう会えなくて寂しいんです」などと言って千歳にキスをしてきた。千歳ももう発狂寸前まで性欲や人恋しさを堪えていたのもあって抵抗できなかった。何より彼女の、アルファでありながら柔らかな眼光、物静かな雰囲気、優しい口調、色の濃度は違うものの茶色い瞳、そして上品でありながら壊れそうな、儚い笑みは、千歳に真琴を思い出させたから。
だが、彼女のやることは真琴とは全く違った。お互いの器を合わせながら千歳が達しそうになると首を絞めてきたり、瞼を押さえて眼球を舐めてきたり……。
こんなお嬢様が、どこでこんなことを覚えてきたのだろうかとずっと不思議だった。
彼女の首には刃物で切ったような痛々しい跡があった。千歳が気になって見つめていると「訳の分からないところで銃殺されるくらいなら、愛する人の寝床の上で死のうと思って。だけど死に損なっちゃいました」と自嘲を込めて言っていた。
彼女も当初は銃殺刑の予定だったらしい。しかし、まだ若く、良家の子女であったので無期懲役になったのだ。
そして千歳同様、「あの女、美人だよな。伝説の宝塚トップ娘役にそっくりだよ。……でも男犯したことあるらしいぜ。そう思うとキモくて抱けねーわ」と看守たちに陰で罵られていた。
よくよく見ると彼女の体には、首の傷の他にも切り傷の跡が沢山あった。芸術品のような肢体に無数の傷がついているというのも、何だか倒錯的な美しさがあった。
彼女との関係が5年から6年くらい続いた。しかしある日、看守に2人の行為が見つかり、それぞれ独房に入れられることになってしまった。
独房に行くことになる前夜、彼女は言った。
「本当にごめんなさい。私のせいで。……でもあなた、私と同じものを感じたから……」
その後、彼女がどうなったかはわからない。
しかし、千歳は千歳で彼女に同志愛のようなものを持っていた。
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