My destiny

泉 沙羅

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第13話

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「……嫌!? 」
真琴が今にも泣きそうな顔でそう訴えてくる。
「え、いや、その、嫌とかじゃなくて、アルファの私が抱かれるって、考えたこと無かったから……」
千歳は動揺のあまり、言葉が上手く出てこない。
真琴はそんな千歳をベッドの中に引きずり込む。
「ちょ……真琴さん! 」
そりゃ相手は真琴だが、経験したことのないものは怖い。
「大丈夫、優しくするよ」
真琴の儚く、綺麗な笑顔は今も昔も変わらない。
「真琴さん……んっ……」
真琴が熱い唇を重ねてきた。濃いオレンジの匂いが千歳を包む。甘い唾液が流れ込んでくる。発情期のオメガの唾液には媚薬作用がある。オメガの真琴でさえ、宏美の唾液を飲まされたときは身動きが取れなくなった。だから、アルファの千歳には一溜りもないはずだ。千歳の視界が霞がかってぐるぐる回る。体も燃えるように熱くなる。
(何これ……ただでさえ真琴さんのフェロモンにやられてるのに……首輪がなかったら痛いほど勃ってただろうし、真琴さんのことめちゃくちゃにしてただろうな……)
真琴は千歳のワンピースのスカートをまくると、下着を脱がせた。
「っ……」
千歳は羞恥から目を固く閉じ、顔を逸らせる。
すると、真琴も恥ずかしげに笑ってこう言った。
「初めてのときみたいだね……」
そう、10年前、2人が旧聖堂の地下室で交わったときもこんな感じだった。2人ともお互いのフェロモンに当てられ、事故のような交わりになってしまった。
その後も、真琴がFであることが発覚して絶望しながらやけくそのように交わったり、番成立させようと切羽詰まった状態で交わったりと、2人に平和なセックスはなかった。今だって……。
真琴が千歳のそこに顔を埋めようとした。
「だめ! 汚いから……」
「汚くないよ、君の体だもの」
そう言って真琴は千歳のそこに舌を這わせた。
「……っ…」
アルファの千歳としては、一方的にされるだけなのはなんだかムズムズする。
「……真琴さん、私もしたい……」
すると真琴は、千歳の体を横向きにした。そして自分も下衣だけ脱ぐと、千歳とは反対向きに横になった。
……さすが、経験が少ない千歳とは違って慣れている。
千歳も真琴自身を咥えて愛撫する。もう既に固くなって熱を持ち、甘い液体をだらだらと垂れ流している。千歳はそれを夢中で啜った。
(熱い……口の中焼けそう……発情してるからかな……)
正直、真琴のそこを愛撫するのは初めてだった。彼の後孔なら昔、指を入れたり舐めたりしたことがあったが……。
しかし、今は生えてなくても、自分にもあったものであるから、どうすれば気持ちいいのかくらいは知っている。真琴の昂りを増すため、後孔にも指を入れる。真琴のそこはもう愛液で溢れてドロドロだった。……犯してあげられないのが気の毒になるくらいに。
「ああ……千歳ちゃん……」
真琴が涙声で喘ぐ。
(……アルファ女性って……ここまで濡れが悪いの? )
千歳を舐めながら、真琴はそう思った。
とりあえず欲情すればドバドバ濡れ出すオメガと違って、アルファの体は異物を受け入れるようには出来ていない。
真琴はそれなりに経験は豊富である。性奴隷館ではアルファ女性を相手にすることがそれなりにあったが、常に自分が挿入される側だった。というより、客との行為では常に自分が抱かれる側だった。抱いた経験は奈都と宏美しかない。しかも2人ともオメガ男性だから、アルファの体が如何に受け入れに適してないかということを知らなかった。
「……ごめんね、あまり濡れなくて。気持ちよくないわけじゃないのよ」
千歳が察して言う。
「ローション使う? 」
「……もっといいのがあるでしょ」
そう言うと千歳は真琴の溢れた愛液を指にまとわせた。
「千歳ちゃん!?」
「これ使えばいいじゃない」
千歳が無邪気に微笑みながら言うものだから、真琴は紅潮している頬をますます真っ赤にする。綺麗な琥珀色の瞳も潤んでいる。
「……千歳ちゃん……」
千歳は真琴の淫液を自分の陰部に塗る。
「………真琴さんの……はあ……」
もうそれだけで感じるのか、千歳は夢中でそれを自分の中にねじ込み、指で内部を解す。
「千歳ちゃん……」
自慰を思わせる行為に真琴の理性は切れた。
「………千歳ちゃん!! 」
真琴は千歳を押し倒し、千歳の中へ自身を挿入した。
「ーーーーっ!! 」
千歳は今まで経験したことのないような、激しい痛みを感じた。オメガである真琴のペニスなど、お飾り程度の大きさだ。しかし、千歳の膣は今まで男性器を受け入れたことなどない。おまけに挿入されることをあまり想定されてないアルファ女性の体には耐え難い苦痛だった。いくら下準備をしていても。悲鳴を上げそうになったが、おそらくリビングには宏美たちがいる。大声を出すわけにはいかない。死にものぐるいで耐える。
「千歳ちゃん……ごめんね……痛いよね……でも止められないんだ……」
真琴は申し訳なさそうにそう言って千歳に口付ける。本当は千歳をいたわって、ゆっくり動きたかったが腰が勝手に動いてしまう。
「ーー!!!」
痛みが強すぎて返事もできない千歳。苦痛のあまり涙が零れる。その涙を真琴が唇で拭う。
「あっ……もう出ちゃう……」
真琴の体が痙攣する。
(……立ち位置的に逆でも、いけるのかな……)
痛みに支配されながらも、千歳はそう思って真琴の項を噛んでみる。……だが、何も起こらない。やはり無理か。
千歳の中に体液を注ぎ込んだ真琴が彼女の上にくたりとなる。ぜいぜいと息を荒くし、滝のように汗を流していた。茶金色の髪が白い肌に張り付き、実に扇情的な光景だった。どんな形であれ、千歳と交われたからだろうか。少し顔色は良くなったが、熱は下がらない。
「……ちょっと真琴さん、大丈夫? もう……こんなときに慣れないことするからでしょ……」
「……こっちこそ、痛がらせてごめんね……おまけにゴムつけてなかった……」
「大丈夫よ、これくらい。今まであなたが味わった苦しみに比べたら。それにアルファ女性が自然妊娠することはほぼないわ。……できたらできたで構わないし……」
「……千歳ちゃん……僕が死んだら、明日果のことお願いね……。君に似てすごく賢くて大人びてるけど、まだまだ子どもだから……」
昔と同じ、壊れそうな笑顔を見せる真琴。
「………」
千歳はある覚悟を決め、ベッドから降りた。さっきの痛みが少し残っているが、そんなことを気にしている場合ではない。軽く身なりを整え、部屋の外に出る。



「ちょ、ちょっと、あんた!! 何しようとしてんだよ!! 」
リビングにやってくるなり、なぜか台所から包丁を取り出した千歳。
驚いた宏美が声を上げる。ケイもはっと立ち上がる。リタも心配して自分の部屋から様子を伺った。
「………」
千歳は答えない。そして包丁を持ったままフラフラと玄関へ向かう。
「おい!! 」
宏美は千歳の肩を掴んで壁に叩きつけ、ダンっと壁に両手をついて彼女を閉じ込める。
すると千歳はボロボロと泣き始めた。
「!? 」
宏美は全く状況が読み込めない。
「……この首輪がついてる限り、私は真琴さんを抱くことはできないわ……。なら、方法は一つしかないじゃない。私が死ねば彼は助かるの。止めないで」
千歳の言葉を聞いて、宏美の頭に再びカーッと血が昇る。そして苛立ちから、そのか細い体をわなわなと震わせた。
「……アルファって、みんな『こう』なのか?………優秀で見た目もいいくせに、わけのわからんことばかり言ったりやったりしやがって……」
宏美はうなるような低い声で、そう言った。
「だ、だって……」
千歳が絞り出すように、何かを言おうとする。
「だってじゃないよ!! なんでもかんでも死んで解決しようとするな!! 」
宏美が千歳の両肩を掴んで揺さぶりながら叫ぶ。
「じゃあ、他に方法があるの!? だいたいあなただって私のこと殺したいって言ってたじゃない!! あなたがそんな手間をかける必要はないわ。自分の命くらい自分で絶つから!! 真琴さんのためだったら私死ねる!! 」
「はあ!?  あんたらアルファは揃いも揃って『ココ』のネジ5、6本くらい飛んでるんじゃねーの!? 」
宏美が大袈裟なジェスチャーを混じえながら、怒鳴る。
「じゃあ、どうしろって言うのよ!! 」
言い争う2人を見てリタとケイが止めに入る。
「やめなさい、2人とも。喧嘩してる場合じゃないでしょ」
「そうだよ。今は真琴くんが大変なときでしょ」
「ちくしょう!! 」
宏美が千歳の首輪を掴んで、引きちぎろうとする。
だが、刑務所から出たばかりのときにも、結城に散々引っ張ったり叩いたりしてもらったのである。アルファの結城の力を持ってしてもかすり傷一つ付かなかった首輪だ。オメガの宏美が力いっぱい引っ張ったところでどうにかなるわけあるまい。


「どーもぉ。頭のネジ飛んでるアルファでえす」
「さっきから何なんですか。いい大人が。こんなときに……。ギャーギャー、ギャーギャー」
「そうよ。ママの具合が悪いのに」

明日果とサラがリタの部屋から出てきた。

「2人とも!! 部屋から出てきちゃダメって言ったでしょ!! 」
リタが2人に注意する。

だが、明日果とサラの表情は真剣だ。


「私、外せる。それ」


明日果はそう言って千歳の首輪を真っ直ぐに指さした。



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