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85章 「俺がドゥーレクを倒すから!!」

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 85章 「俺がドゥーレクを倒すから!!」


 スーガがスッキリしたような顔をしている。

「なぜか胸のつかえが取れたような気分だ。 俺たちはシークたちの加護を受けていたんだな」
「帰ったらさっそく兄さんに話します!」
「それでシークさんの近くにいると安心するのですね···フフフ······あっ!」

 そう言ったアニエッタの顔をマルケスたちが一斉に見た。

 アニエッタは何げなく言って、自分がのろけている事に気づいて顔を真っ赤にしてうつむくものだから、俺もつられて真っ赤になってしまった。

 ハハハハハ!! みんなが大笑いし、ザクトが「いいなぁ······」と、つぶやいた。



「コホン」と、俺は咳払いでごまかす。

「マルケスとフィンとヨシュアたちは国境に配置されたんだよな。 3日後に城に集合だって?」


 巨大昆虫は早ければ5日後にはドワーフ山脈に到着する予定だ。 3日後では遅いくらいだ。



「おう。 傭兵は国境に近づく虫を片付けろと言われた」

 最前線に行って暴れたいと言っていたから、国境では不満そうだ。

「俺の加護があって、虫たちは国境内に簡単には入り込めないだろうが、絶対ではない。
 マルケスたちが最後の砦なんだ。
 1匹でも国内に入れば道ができ、そこから次々に入り込んでくる。 虫たちは人間を餌にして、暴れまくるだろう。
 ある程度は統制を取られていても虫は虫だ。 あれだけの数がいれば必ず国境内に入ろうとする奴がいる。 いや、もしかしたら国内に入るのが優先の命令になっている可能性がある」


 ドゥーレクの言いようでは、国を壊すのが目的のようだった。 
 そうだ。 手前で戦う俺たちを必ず排除しないといけない必要などないのだ。


「よく聞け。 必ず国内に入る命令を受けているはずだ。 だから何としても国内に入り込もうとするだろう。 必ず止めろ! 1匹も入れてはいけない!」


 マルケスとフィンは顔を見合わせ、ゴクリと生唾を呑んだ。

「任せろ! 絶対に1匹たりとも入れない。 大丈夫だ」
「マルケスの言う通りだ。 俺の弓から逃げられる奴はいない。 傭兵の弓部隊もかなりの成長している。 安心しろ」

 ヨシュアたちも任せろ!と、口々に言う。
 みんなの本気の意気込みを聞いて嬉しかった。


「俺が必ずドゥーレクを倒すから、それまで何としても堪えてくれよ」

「「「おう!!」」」



 みんながワイワイと盛り上がっている中、アニエッタの顔を見ると泣きそうな顔をしていた。

 俺は大丈夫とうなずいてからニッコリと笑って見せた。



  ◇◇◇◇◇◇◇◇



 その日の夜、テラスの椅子に座って外を見ていた。 いつものようにレイは膝の上で気持ちよさそうに眠っている。

 そろそろ満月だ。

 虫は満月になると活発に動くと聞いた。 満ち欠けに関係しているのだろう。 わざわざそれに合わせて攻めてくるのか······周到な奴だ······

 
 そんな事を考えていると、手元にフワリとした感覚があった。 

 気付くとフェンリルが横に来て座っていて、物言いたげに俺を見つめている。

「フェンリル······」
「·········」


 俺は再び月に目を移す。

「〈俺が必ずドゥーレクを倒すから、それまで何としても堪えてくれよ〉か······ハハハ、笑えるだろう?······自信満々に言っているが、俺にドゥーレクを倒せるのかな······」


「·········」


「······奴は両親に毒を盛り······母を殺し、父を俺の目の前で殺し······俺に黙秘魔法をかけ······思惑通りにドワーフ山脈に道を作り······フェンリルが止めるのも聞かずに奴の所に行った俺の前で、沢山の罪のない人たちの命を無駄に奪った。 
 ······奴のいいように踊らされている気がする。
 ······この戦いも全て奴の思惑通りな気がするんだ」
「そんな訳がないだろう」

 フェンリルが即答した。

 俺はチラリとフェンリルの顔を見て、フッと笑う。


「あの時の黒雷魔法も、フェンリルがいたから助かった······コーマンの攻撃にしても、無事に済んだのは本当にたまたま運が良かっただけだ。
······結局一度もまともに戦ってもいない相手の実力は分からないが、奴の頭の良さは痛いほど分かっている······俺には勝てない」

「頭で勝つのではない」
「しかし戦いというのは力だけで戦うのではない! 頭脳戦だ!」


 レイが起きて俺の顔を心配そうに見上げている。 そんなレイの頭を優しく撫でた。


「天龍と黒龍の力は先の戦いでも分かるように拮抗しているのだと思う。 そうなれば頭のいい方が俄然有利になると思わないか?」



 フェンリルは俺の顔をじっと見つめた。

「本当にそう思っているのか? 自分の方が弱いと······自分の方が劣っていると思っているのか?······戦う前から負けると思っているのか?」


「······」俺は黙ってしまった。


「本心からそう思っているなら、戦うだけ無駄だ。 黒龍の目の届かないどこか遠くにでも逃げて隠れるがいい。
 だが······我から見た天龍の竜生神は機転が利き、決断力も度胸もある。 桁外れの力を持ち、桁外れの行動をする。
 ······そして天龍にしても、おっとりしているように見えるが、侮れないスキルを秘めていると思う」


 フェンリルが俺を褒めている?!


「それに護りたい者たちがいるのだろう? 沢山の人達を···友人たちを···アニエッタを···そして、この世界を護りたいのではないのか?
 ······きっとその護りたい思いの分だけ奴らより強いと思うぞ。
 ······お前は強い···お前は凄い···我の見立てに間違いはない」


 フェンリルにこれだけ褒めちぎられて、なんだか肩の力が抜けた気がした。


「なぁ、フェンリル······今、俺を思いっきり褒めてくれたのか?」

 しまった! という顔をしているフェンリルがこんなに可愛く見えたのは初めてかもしれない。



 俺はすぐ横にいるフェンリルの首を羽交い絞めに······そのくらい強く抱きしめた。






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