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束の間のやりとり

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「髙城先生、ICお疲れさまでした」

患者からの質問もほとんど無く、IC※が終了。
予定していた時間より早く終わった為、今はPCに説明内容の入力作業中。
彼女も書類整理の為、まだ残っている。
今現在、部屋に二人だけだ。

「藍川さんは、まだ掛かりそう?こっちはもう少し掛かると思うんだよね」
ICの他に、退院までの指示も出す為だ。

「私も、サイン頂いた書類のチェックもあるので、もう少し掛かります」
彼女は書類に目を通すと、数枚の書類を手に俺の隣にやって来た。

「先生、この2枚にサイン頂けますか?」
隣に並んだ彼女の腕が、俺の肩に触れる。
キーボードの横に置かれた書類に、サインすると直ぐに戻ろうとした為、俺は書類の上に手掌を拡げる。
「藍川さん。今日、仕事終わってから時間あるかな」
直ぐ側にある、彼女の瞳を窺う。
「はい。大丈夫です」
今日はお互いに残業は無さそうではあったので、誘ってみたのだが……快諾されたようだ。

「それじゃあ、俺は車にいるから声掛けてよ」
医師の駐車場は限られている為、見つけやすいと思ったからだ。
「わかりました。髙城先生のお車って……」
「あぁ、青のセダンだよ」
他の医師で青の車はいない為、そう伝える。
「青ですね。あと、何かあるといけないので連絡先聞いておいてもいいですか?」

彼女から連絡先を聞いてきたため、驚いたがSNSのIDと番号をメモに書いて渡す。
一瞬動きを止めた彼女だが、大切そうにメモを手帳へ挟んでいた。


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 IC:インフォームド・コンセント
医師と患者との十分な情報を得た上での合意
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