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隠し事は卒業する
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桜舞い散る三月の中旬。神奈川県のとある高校では、卒業式を迎えていた。神奈川県立塵炭(ちりたん)高校、通称「ちん高」。一学年に一クラスしか無いこの学校は、この代で廃校になる。そのことも相まってか、式中は先生、生徒、保護者、泣いていない人を見つける方が難しいほどだった。卒業証明書を筒に入れ、生徒それぞれ思いを胸に抱き、式は無事に終了した。式後は三年間慣れ親しんだ教室へと戻り、生徒は自分の席に着席した。教室内は式とは打って変わりソワソワしていた。そんな中、教師「寺田」は教室のドアを開けた。教室に入った寺田の視界は幸せで満ち溢れていた。左手には三年間教えてきた生徒達の笑顔。右手には何日かけて製作したのであろうか、立派な黒板アートが書かれていた。いわゆる「サプライズ」というやつだ。寺田は目から溢れ出る涙を止めることができなかった。
「あ、あれっ……メガネかけ忘れちゃったかな……ははっ、視界がぼやけやがる」
この発言にクラスのムードメーカー的存在だった「永峰君」が
「先生!今度からコンタクトした上でメガネかければいいんじゃないっすか?笑」
と茶化し、クラスで笑いが起きた。
「全く、サプライズをやるとは思ってなかったよ。でもな、先生には先生なりのプライドってものがあるんだ!」
クラスがざわつき始めた。サプライズを「仕掛ける側」の事しか考えていなかった生徒達は、「仕掛けられる側」に回る事になるとは誰一人思ってもみなかった。
「先生!先生もサプライズを……」
生徒会長兼学級委員長の『吹咲さん』は先生に尋ねた。その返答は
「あぁ、クラス二十人分………用意してきた!」
その瞬間、クラス中が湧き上がった。やはり卒業式でしんみりして終わるより楽しく終わりたい、生徒達はそう思っていたようだ。
「落ち着けお前ら。一応授業中だぞ……最後のな!!」
「はい!!」
「じゃあ早速始めるか」
みんな先生からどのような言葉を言ってもらえるのかワクワクしていた。
「出席番号一番、相沢!」
「はい!」
相沢は立ち上がった。別に立ち上がる必要はないのだが、緊張と興奮で立ち上がってしまったのだろう。
「相沢、お前は一年の時から出席番号が一番だったな」
『相沢君』は何も言わず、照れ臭そうにしていた。その光景を他の生徒も微笑ましく見ていた。
「お前の出席番号が一番だったから最初に覚えたよ。名前と顔が一致するのに苦労する中、体のデカイ相沢は印象深かった。ありがとう」
自然と湧き上がる拍手に、『相沢君』はさらに照れ臭そうにしていた。
「次、出席番号二番、天野。特になし。次、出席番号三番、上野。お前は陸上で女子5000mの県大会に行くなど功績を残した。先生の誇りだ!」
『上野さん』は勝気な性格でも知られており、県大会に出場した事よりも、県大会であと一歩のところで負け、関東インカレに出れなかったことが悔しくて不機嫌になるほどだった。そんな彼女は寺田の発言で急に恥じらいを見せ始める。
「お前が自己記録を更新した大会あったよな」
「はい、ありましたね」
「あの時のユニフォーム上下一式、先生の家に飾ってあるからな!もちろん、洗わないでだ!」
クラス中、先程打って変わって気まずい空気が漂い始めた。顔を赤らめる『上野さん』は
「……あの、シューズもなかったんですが……」
と、若干答えを知りつつも寺田に尋ねた。寺田は親指を立て、自信満々で答えた。
「安心しろ。ちゃんと十円玉を中に入れて保存してあるから!」
その瞬間、『上野さん』は泡を吹いて倒れた。そんな事をお構いなしに寺田は「サプライズ」を続ける。
「あ、あれっ……メガネかけ忘れちゃったかな……ははっ、視界がぼやけやがる」
この発言にクラスのムードメーカー的存在だった「永峰君」が
「先生!今度からコンタクトした上でメガネかければいいんじゃないっすか?笑」
と茶化し、クラスで笑いが起きた。
「全く、サプライズをやるとは思ってなかったよ。でもな、先生には先生なりのプライドってものがあるんだ!」
クラスがざわつき始めた。サプライズを「仕掛ける側」の事しか考えていなかった生徒達は、「仕掛けられる側」に回る事になるとは誰一人思ってもみなかった。
「先生!先生もサプライズを……」
生徒会長兼学級委員長の『吹咲さん』は先生に尋ねた。その返答は
「あぁ、クラス二十人分………用意してきた!」
その瞬間、クラス中が湧き上がった。やはり卒業式でしんみりして終わるより楽しく終わりたい、生徒達はそう思っていたようだ。
「落ち着けお前ら。一応授業中だぞ……最後のな!!」
「はい!!」
「じゃあ早速始めるか」
みんな先生からどのような言葉を言ってもらえるのかワクワクしていた。
「出席番号一番、相沢!」
「はい!」
相沢は立ち上がった。別に立ち上がる必要はないのだが、緊張と興奮で立ち上がってしまったのだろう。
「相沢、お前は一年の時から出席番号が一番だったな」
『相沢君』は何も言わず、照れ臭そうにしていた。その光景を他の生徒も微笑ましく見ていた。
「お前の出席番号が一番だったから最初に覚えたよ。名前と顔が一致するのに苦労する中、体のデカイ相沢は印象深かった。ありがとう」
自然と湧き上がる拍手に、『相沢君』はさらに照れ臭そうにしていた。
「次、出席番号二番、天野。特になし。次、出席番号三番、上野。お前は陸上で女子5000mの県大会に行くなど功績を残した。先生の誇りだ!」
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「お前が自己記録を更新した大会あったよな」
「はい、ありましたね」
「あの時のユニフォーム上下一式、先生の家に飾ってあるからな!もちろん、洗わないでだ!」
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「……あの、シューズもなかったんですが……」
と、若干答えを知りつつも寺田に尋ねた。寺田は親指を立て、自信満々で答えた。
「安心しろ。ちゃんと十円玉を中に入れて保存してあるから!」
その瞬間、『上野さん』は泡を吹いて倒れた。そんな事をお構いなしに寺田は「サプライズ」を続ける。
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