あの日の後悔と懺悔とそれと

ばってんがー森

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四葉のクローバー

景色は変わらない変わるのは……

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今日は病院に午前中に来たはいいものの、検診の時間帯と被ってしまい、少し暇を持て余した。そこで親父は近場のホームセンターで電池などを買ってくるとスタスタと行ってしまった。僕は外は暑いから病院内をぶらぶらする事にした。ボソッと

「ザシコッ」

と呼ぶと、前の方にかけていたショルダーバッグからピョコッと

「なんじゃ」

と顔を出した。

「母さんの検診まで病院内をブラブラしようと思うんだ」

「趣味悪いぞ貴様」

「いや、外は暑いっての」

いつもは3階の病棟だから7階から行ってみようと思った。7階からの景色は、普段下から見上げた事がない建物が見えたり、すごーく綺麗には見えないけれど、一応海が見える。こんな景色でも、病院から出られない人からすると格別に見えるのだろうか。

「マコ、綺麗な景色じゃと思うか?」

ザシコは一度も顔をこちらに向ける事などなく、その景色を見ながら言った。

「綺麗だと思うよ。雨の日でも曇りの日だろうとも。なんでだろうなぁ。その時の心の余裕みたいなものもあるのかも。そして今、『一緒に見たい人』と見てるからかも!」

「そうか……。ひとりぼっちは寂しいものじゃて……。ワシも綺麗だと思うぞ?この景色」

暫く眺めた後、6階に降りた。そこは少し異質だった。目の前が何もないただの壁で、矢印の方向に「透析室」と書いてあった。

聞いた事はある。しかし実際見た事はない。本来なら興味本位で覗き見しに行ったりするのだろうが、この時は何か怖くて直ぐにエレベーターに戻った。

「今の判断、賢明じゃ」

ザシコが言うが、考えての行動というよりも、本能的にヤバいと感じたからだ。いつもの3階のボタンを押してついた瞬間ホッとした。病院に着いてホッとしたなんて感情はこれからの人生、何回感じる日が来るのだろうか。想像できなかった。

(一階のコンビニで何か買うかな)

そう思ってもう一度エレベーターに乗った。するとある事に気が付いた。一階のボタンの下にB 1Fというボタンがあった。それを押してみようとすると、ザシコが優しく制した。

「まだじゃよ。まだ」

「まだ?」

てっきり叱られると思った。でもこの時のザシコは色っぽく、それでいてとても悲しそうで儚げで。暫く固まってると一階にに着いた。

「さて、美味しそうなのでも食べさせて貰おうかのぅ」

先程とは違う。いつものザシコだ

「任せとけって!ここの自販機のヴァン○ーテンのアイスドリンクは美味いぞ~?」

「なぬ!?それはそれは」

それを購入して一口だけ貰ってザシコにあげた。うまうまとゴクゴク飲んでいたのを見て、少しホッコリした僕であった。
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