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三つ葉クローバー
スモーキングメモリー1
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「そんなことがあったんか……」
僕は少しトーンを落として彼の様子を見た。
「あったんだよ……あれは中学三年の時だったかな……」
川名は相変わらずタバコを吹かしながら遠くを見つめていた。僕は
「川名、別にそんな前のことを無理に思い出す必要はないと思うぜ?『殺した』のではなく『見殺し』にしたでしょ?言い方は悪いけど、自らの手で命を奪ったわけではないんだから、そこを履き違えると、とんでもないことになる気がするよ!ねっ?」
と本当に思ったことを川名に伝えた。すると川名は
「ありがとう、二木君」
川名はタバコをマイ灰皿に押し付け、煙を吐き出した後、僕の方を見て
「ごめん、もう一本だけ笑」
と指を立てて、タバコを咥え火をつけ、深く吸って煙を吐き出した。
「話の続きね、したい」
川名が静かに話の続きを語り始めた。
「中学三年の時、俺は電車通学だったんだけど、そこで飛び込み自殺をする女子中学生に会ったんだ。多分、同い年じゃないかな……今思えば。で、とても良い子でさ、名前は敢えて言わないとか言ってたっけな。俺も若かったからどうやったら連絡交換できるか必死な訳よ。俺のありったけの話術(テク)で、彼女は大爆笑して涙が出ちゃうほどでさ、『あれっ、俺いけんじゃねぇ?』って思っちゃうほどなのよ。でもさ、ニ時間くらい話してから腕時計見て、『もう時間だから』って。『これまで嫌なことばかりだったけど、嬉しかった事が二つから三つになったわ』って。だから、俺は『次会った時、もっと面白い話してやるよ!』って言ったんよ。彼女は黙って笑顔で手を振って後ろの方に行っちゃった。今考えてみれば同じ方面のホームなのに……。俺はもうすぐ電車が来るとアナウンスがあったから、バッグに入れていたゲーム機を探してたんだ。その時………」
川名はスーッとタバコを吸い、ため息混じりの煙をふぅと吐いて
「男性が『女の子が飛び降りたぁぁぁぁ!!』と大声で叫んだんだ。そこら中から悲鳴が聞こえ、皆パニックになったさ。俺も恐怖を感じたけど、それまで電車に轢かれた人を見たことがなかったから……興味本位で現場の方へ向かったんだ、周りと逆行して。そしたら死体は見れなかったけど、自殺したと思われる子のカバンと携帯と腕時計と髪飾りが綺麗に並んで置いてあったんだ。腕時計で瞬時に察したよ。自殺したのはさっきまで俺と話してた女の子だってさ」
川名の話に嘘は無い。話を大袈裟に盛りがちな彼だけど、この話は盛ってない。何となくそういう気がする。だからだろうか、『彼女は大爆笑して涙が出るほどだった』との言葉に、僕は複雑な気持ちになった。『涙』が出たのは、単に会話が面白かっただけではない、何か違った感情からくるものもあったのでは無いか。
川名は僕が黙って波を眺めているのを見て
「ごめんね、なんか空気がクソ重くなっちゃったね。コンビニで好きな物奢るよ!」
そう言って彼は急いでヘルメットを二つ取り出して、僕に一つ渡した。
「うしっ、またスカッと走りますか!」
彼のぎこちない笑顔が僕の胸を締め付けた。僕も彼も帰りは口数が少なかった。自宅近くのコンビニに着いて、カフェオレを奢ってもらった。
「ありがとう。ツーリングっていうのかな?とにかく楽しかったよ!」
「そりゃ何より!でさ、夏休みだし、また来て良いかな?」
「う~ん、時間帯と来る時には予め連絡をしてくれると助かるね!」
「わかった!」
「頼むね!あ、そうそう、初めてバイクに跨ったから股関節が(笑)だから少し歩いて帰りたいからここで別れない?」
「わかった(笑)じゃ、今日は楽しかったよ!!」
バイクはブゥオンブゥオン音を鳴らしながら走り去っていった。
ジャラジャラッ
何か聞こえた気がしたが、特に気に留めず歩き出した。やはりバイクで走っている時とは違い、ひたすら暑い。風は偉大だな。
「ザ、ザシコォ~。お前さんは大丈夫なのかぁ~?」
ザシコが肩掛けバッグからピョコッと出てきて、
「まぁ、幽霊みたいなもんじゃからな。暑い寒いの概念がないのじゃ!」
「ハァハァ……そーかい」
「それよりもあのバイク小僧。不味いな」
「……僕も少しだけそう感じたよ。川名は今までこんな話はしたことがなかった。それなのに、急にこんな話……違和感を感じるよ、やっぱり。バイク……自由……後悔……バラバラのワードのようで、なにか物語にしっかり食い込んでいる」
「ほう、貴様も少しは見る目を養ったみたいだな!」
「ははっ……養っていたつもりは更々無いんだけど……。それより川名は別に後悔する必要ないと思うんだよなぁ。自殺促したわけでもないし、止めるべきポイントすらないでしょ。なんせ、会って二時間位しか話したことない子なんだし。それに『見殺し』なんて……。自殺すると分かってたら彼はしがみ付いて引き止めてたさ。だから、『見殺し』という言葉に違和感を覚えるんだよね」
「甘いのぅ。貴様が『思う』『思わない』は関係ない。奴がどう『思った』のか、これが重要なんじゃて。そして奴は後悔している」
「う~ん、それは分かるけど、何でその事をあそこまで後悔してるような話し方だったのかな?」
「はぁ……一発引っ叩いてもいいか?」
「なんでよ!!」
「分かってないからじゃよ!バイク小僧は惚れてしまったのじゃ!一目惚れじゃて。そして、その相手が二時間で身投げしてしまった。その時の奴の気持ちは、ワシには計り知れないの。マコ、お主はどう思う?」
「……」
とても想像できない。言葉が見当たらない。するとザシコは
「まぁ、奴がどう思おうと知ったことではないがの」
と突然話をぶった斬るように言った。
「え~!!なんか川名について結構深刻に考えてるなぁって思ってたのに!?」
僕は面食らった。ザシコがよく分からない。
「だがの、奴が後悔してることは確かなのじゃ。」
「なんで分かるの?」
そう僕が問いかけると、ザシコは話を被せる様に
「このままだと『トぶ』な……恐らく」
と神妙な顔で言った。その直後、彼女は唐突に僕の右足を指差した。
「右足、見てみんしゃい」
そう言われて僕は右足を見ると、未だに右腕に巻かれている雪見と同じような鎖が巻かれているのを確認できた。
「えっ………?」
僕は絶句した。暫く固まっていると
「何故後悔しているのか、そう聞いたのぅ?その答えじゃ」
ザシコは背を向けたまま、先程の質問に答えた。
僕は少しトーンを落として彼の様子を見た。
「あったんだよ……あれは中学三年の時だったかな……」
川名は相変わらずタバコを吹かしながら遠くを見つめていた。僕は
「川名、別にそんな前のことを無理に思い出す必要はないと思うぜ?『殺した』のではなく『見殺し』にしたでしょ?言い方は悪いけど、自らの手で命を奪ったわけではないんだから、そこを履き違えると、とんでもないことになる気がするよ!ねっ?」
と本当に思ったことを川名に伝えた。すると川名は
「ありがとう、二木君」
川名はタバコをマイ灰皿に押し付け、煙を吐き出した後、僕の方を見て
「ごめん、もう一本だけ笑」
と指を立てて、タバコを咥え火をつけ、深く吸って煙を吐き出した。
「話の続きね、したい」
川名が静かに話の続きを語り始めた。
「中学三年の時、俺は電車通学だったんだけど、そこで飛び込み自殺をする女子中学生に会ったんだ。多分、同い年じゃないかな……今思えば。で、とても良い子でさ、名前は敢えて言わないとか言ってたっけな。俺も若かったからどうやったら連絡交換できるか必死な訳よ。俺のありったけの話術(テク)で、彼女は大爆笑して涙が出ちゃうほどでさ、『あれっ、俺いけんじゃねぇ?』って思っちゃうほどなのよ。でもさ、ニ時間くらい話してから腕時計見て、『もう時間だから』って。『これまで嫌なことばかりだったけど、嬉しかった事が二つから三つになったわ』って。だから、俺は『次会った時、もっと面白い話してやるよ!』って言ったんよ。彼女は黙って笑顔で手を振って後ろの方に行っちゃった。今考えてみれば同じ方面のホームなのに……。俺はもうすぐ電車が来るとアナウンスがあったから、バッグに入れていたゲーム機を探してたんだ。その時………」
川名はスーッとタバコを吸い、ため息混じりの煙をふぅと吐いて
「男性が『女の子が飛び降りたぁぁぁぁ!!』と大声で叫んだんだ。そこら中から悲鳴が聞こえ、皆パニックになったさ。俺も恐怖を感じたけど、それまで電車に轢かれた人を見たことがなかったから……興味本位で現場の方へ向かったんだ、周りと逆行して。そしたら死体は見れなかったけど、自殺したと思われる子のカバンと携帯と腕時計と髪飾りが綺麗に並んで置いてあったんだ。腕時計で瞬時に察したよ。自殺したのはさっきまで俺と話してた女の子だってさ」
川名の話に嘘は無い。話を大袈裟に盛りがちな彼だけど、この話は盛ってない。何となくそういう気がする。だからだろうか、『彼女は大爆笑して涙が出るほどだった』との言葉に、僕は複雑な気持ちになった。『涙』が出たのは、単に会話が面白かっただけではない、何か違った感情からくるものもあったのでは無いか。
川名は僕が黙って波を眺めているのを見て
「ごめんね、なんか空気がクソ重くなっちゃったね。コンビニで好きな物奢るよ!」
そう言って彼は急いでヘルメットを二つ取り出して、僕に一つ渡した。
「うしっ、またスカッと走りますか!」
彼のぎこちない笑顔が僕の胸を締め付けた。僕も彼も帰りは口数が少なかった。自宅近くのコンビニに着いて、カフェオレを奢ってもらった。
「ありがとう。ツーリングっていうのかな?とにかく楽しかったよ!」
「そりゃ何より!でさ、夏休みだし、また来て良いかな?」
「う~ん、時間帯と来る時には予め連絡をしてくれると助かるね!」
「わかった!」
「頼むね!あ、そうそう、初めてバイクに跨ったから股関節が(笑)だから少し歩いて帰りたいからここで別れない?」
「わかった(笑)じゃ、今日は楽しかったよ!!」
バイクはブゥオンブゥオン音を鳴らしながら走り去っていった。
ジャラジャラッ
何か聞こえた気がしたが、特に気に留めず歩き出した。やはりバイクで走っている時とは違い、ひたすら暑い。風は偉大だな。
「ザ、ザシコォ~。お前さんは大丈夫なのかぁ~?」
ザシコが肩掛けバッグからピョコッと出てきて、
「まぁ、幽霊みたいなもんじゃからな。暑い寒いの概念がないのじゃ!」
「ハァハァ……そーかい」
「それよりもあのバイク小僧。不味いな」
「……僕も少しだけそう感じたよ。川名は今までこんな話はしたことがなかった。それなのに、急にこんな話……違和感を感じるよ、やっぱり。バイク……自由……後悔……バラバラのワードのようで、なにか物語にしっかり食い込んでいる」
「ほう、貴様も少しは見る目を養ったみたいだな!」
「ははっ……養っていたつもりは更々無いんだけど……。それより川名は別に後悔する必要ないと思うんだよなぁ。自殺促したわけでもないし、止めるべきポイントすらないでしょ。なんせ、会って二時間位しか話したことない子なんだし。それに『見殺し』なんて……。自殺すると分かってたら彼はしがみ付いて引き止めてたさ。だから、『見殺し』という言葉に違和感を覚えるんだよね」
「甘いのぅ。貴様が『思う』『思わない』は関係ない。奴がどう『思った』のか、これが重要なんじゃて。そして奴は後悔している」
「う~ん、それは分かるけど、何でその事をあそこまで後悔してるような話し方だったのかな?」
「はぁ……一発引っ叩いてもいいか?」
「なんでよ!!」
「分かってないからじゃよ!バイク小僧は惚れてしまったのじゃ!一目惚れじゃて。そして、その相手が二時間で身投げしてしまった。その時の奴の気持ちは、ワシには計り知れないの。マコ、お主はどう思う?」
「……」
とても想像できない。言葉が見当たらない。するとザシコは
「まぁ、奴がどう思おうと知ったことではないがの」
と突然話をぶった斬るように言った。
「え~!!なんか川名について結構深刻に考えてるなぁって思ってたのに!?」
僕は面食らった。ザシコがよく分からない。
「だがの、奴が後悔してることは確かなのじゃ。」
「なんで分かるの?」
そう僕が問いかけると、ザシコは話を被せる様に
「このままだと『トぶ』な……恐らく」
と神妙な顔で言った。その直後、彼女は唐突に僕の右足を指差した。
「右足、見てみんしゃい」
そう言われて僕は右足を見ると、未だに右腕に巻かれている雪見と同じような鎖が巻かれているのを確認できた。
「えっ………?」
僕は絶句した。暫く固まっていると
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