あの日の後悔と懺悔とそれと

ばってんがー森

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双葉のクローバー

重い想い

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雪見との出来事があった日の夜。お母さんの食事の手伝いをしている時、何故だか分からないが、僕はお母さんにこう言った。

「ねぇ、子供が女の子だとさ、やっぱり親からすると彼氏を連れて来られたりしたら複雑なもんなの??」

すると、お母さんは不思議そうな顔をした後、父を指さした後ニコッとした。僕は察した。

「なるほど。父ちゃんの方が複雑なのね(笑)。じゃあ、母親としては?」

「ほほう、此奴のタイプはこんな子ね……フフフフフってな感じ!」

とお母さんは親指を立てて、ドヤ顔をしていた。そして、人差し指で斜め上を指さした。斜め上の壁には兄と僕の小さい時の写真がいくつもあり、それらが一つの額縁に纏められている。それを見た後、僕は

「どういう事??それにしても懐かしいなぁ」

と呟くと、お母さんは手を下から上へ、下から上へを繰り返してさっきよりもニコニコしている。僕はいくつもの写真から素早くそれらしき写真を見つけた。それは祖父母の家で撮られた僕の小さい頃の写真で、今とは似つかない可愛い笑顔で丁髷をしている写真だった。

「何故丁髷……でもこれホント僕?可愛いから違うんじゃ……」

すると、母はムッとして「ア・ン・タ・だ・よ!」言って指を指さした。

「分かった分かった(笑)」

僕はお母さんの食事の手伝いを再開する前に、もう一度その写真を見た。それは可愛いからとかそういうことではなく、只、見覚えがある気がしたからである。
食事の補助を終え、自分の食事を終えた後、自分の部屋に入った。ベッドには頬を膨らませて怒っているザシコが。あの『出来事』をまだ怒っているらしい。

「機嫌直してくれよ。仕方ないだろ。あの状況で断れないよ。確かにザシコが注意してくれたけどさぁ、それを無視した訳じゃなくて違う意味で捉えちゃったし……、ね?頼むよ。おむすび握ってきたからさぁ。」

「誤魔化すでない。おむすびはもらう!マコが間違った解釈をしてしもうたのは分かった。じゃが……厄介じゃなあの娘」

「猫を被ってたってこと?本当は極悪人だとか?」

「違う!そういうことではない。人それぞれ『自分色』を持っておる。様々な経験からその人自身の『一つしかない色』を作り上げる。生きている限り『自分色』は常に変わる。当たり前じゃろ?塗り重ねていくのが人生なのだから。ただ、あの娘にはそれを無かったことにしたい、真っ新な状態にしたい願望がある様じゃな。それも強くて歪で重い想いじゃ」

「記憶を消したい的な事?」

「似とるの。じゃが、そう単純じゃない。それに、それと同じくらい取っておきたい物でもあるみたいじゃ。」

「矛盾してるでしょ。人間都合のいい動物だ。消せないなら改竄して良いストーリーに仕立てあげれば解決でしょうよ」

「はぁ、お主は何も分かっとらん。お主は、彼女から見て、私が『できない事』を『できる人物』として見られてるのじゃぞ?」

「誰が」

「お・ぬ・し、がじゃ!!」

「嘘~ん……」

「この娘も頑固者というか、一途な性格なのか。自分の気持ちを持っている事は自覚しておる。ただ、一人ではどうしようも無いと無自覚にでも理解しておるのだろう。そこで『契り』じゃ」

「あの~、何も約束してないんですが。」

「したじゃろうて。あの電車内で。条件は『本能的に救って欲しい相手』、そして『この想いを理解してくれる人物』、最後に『同じ想いを共有している人物』。正しくお・ぬ・し・じゃっ!」

僕の目は死んだ魚の目になっていた。あまりに一方的すぎる。

「拒否権みたいなものはないの!?」

「ないの。鎖がもう絡み付いている。無理じゃて」

僕は肩を落として呆然としていたが、直ぐに前向きに切り替えることができた。恐らく目の前にザシコがいたからだろう。


「と、とにかく整理していこう。まず、雪見は『謎の想い』を成し遂げるために三つの条件を契約条項に入れた。『本能的に救って欲しい相手』、『この謎の想いを理解してくれる人物』、『同じ想いを共有した人物』…….それが僕であり、鎖が絡み付いたという事は契約成立と。こんな感じで如何でしょう?」

「まあまあ分かりやすかったぞ!」

「僕無理です、ハイ」

「なんじゃとぅ??」

「だって彼女の『想い』って何なのさ?あと『同じ様な想いを共有』だぁ?共有した覚えがないぞ。それに『同じ様な想い』ってなんなの?」

「いや、その点に関してはクリアしておる。お主、あの電車内で早くこの場から立ち去りたくて苦痛じゃったろ?」

「……それは認めるよ。だからって」

「だからなのじゃ!あの時の苦痛は、次の駅に止まれば柔らぐか解消されるが、あのような苦痛を今も彼女が何かしらで苦しんでいるとするなら。際限のない苦しみ……それに似た状況下にある大切な人がおるお主が一番気持ちを汲み取れるじゃろ」

僕は黙ってしまった。

「ああ、それと……その鎖……下手をすれば娘を絞め殺す様なことになるぞ……もちろんお主も。それが意味することが分かるか!!」

ザシコはドスの入った声で僕に警告した。こんなザシコは初めてだ。僕は今回のことは軽くは見ていないつもりだったが、ここまで重いとは思っていなかった。

「じゃ、じゃあもう会う一択しか解決方法はないと」

「今の所はな。この『重い想い』を担いできた娘がほぼ無理な条件を満たしてできた契りじゃ。覚悟せいよ……!!」

腕を組み、鼻息を荒くするザシコを見て、僕は急にベッドに大の字になって天井を見つめた。解決方法が彼女の『何か』を『解決』するしかない……無理だ。色々考え過ぎたせいだからだろうか、頭から煙が……。

「と、とりあえず……寝る!!おやすみ!!」

と僕はモーフにくるまって寝る以外、現状から逃避することが浮かばなかった。僕は深い眠りにつくと夢を見ていた。そこには大人びた雪見が立っていた。

「どうか、私を救ってあげて……」

涙ながらに言う彼女。僕は只々彼女を視る事しか出来なかった。
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