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双葉のクローバー

二人の野次馬根性

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いつからだろうか、「病院」という場所がもう一つの我が家になっていたのは。問題があればナースコールを押せば数分、運が良ければ数秒で看護師さんが来てくれて、数日に一回は担当医の方が来てくれる。そして何かあった時はとても安心できる。なぜならそこは「病院」だからだ。
しかし、「入院」があれば「退院」があるのであり、病院にも規則のようなものがある。それは患者が「生きていよう」が「死んでいよう」が関係はない。病院的にも軽症患者ではない分、退院してもらうのに気がひけてしまうのは分かる。でも、もう少し居させてくれても良いじゃないか!いや、ここは「病院」。家でできないような治療ができる場所。

(母の病は良くなりつつあり、家でも治療ができる状態に良くなりつつあるから「退院」させようとしてるのか?)

しかし、必死に良い方へ良い方へ解釈するがだめだった。

(仮に「退院」の方向へと持って行くなら、家より病院でもっと良く治療してもらって、完治に近い状態で「退院」させた方がいいのではないか?「退院」して家で病状が酷くなる可能性や万が一の事が起きたらどうする!?分かってる、分かってるんだ。向こうにも事情があるって。でも……でも……)

一人で葛藤していると頭の中からもう一人の僕が現れ、耳元で更に僕を混乱させる。

「本当は家で介護できる自信がないんじゃないの?よくテレビで介護疲れで殺人ってあるよね?ボクはどうかな?可能性は?なくはないよね?いつまでもつんだろうね?というよりいつまで続くんだろうね?ね、ボク?親父や兄貴がいるとはいえ、キミは見えない三等分の負担を分担できるのかな?無理だね。ボクの性格だ。自分より他人の粗に目がいき易くなって口煩くなるんじゃない?やれる?ボク?ねぇ、自分の事ばかり考えてるけど親父や兄貴は持つかな?ね?ね?ボク?ね?ボク………ねぇ……?)

「やるしかない」という至極明確な回答が僕の喉元に刃となって突き立てる。現状よりその先々のことを考えるだけで足が竦む。顔面蒼白な僕の顔をザシコが覗き込む。それに気づいた僕は

(ああ、呆れているか怒っているのだろうな)

そう思って目を合わせると、ザシコの表情はとても柔らかく

「心配するでない」

思いがけない一言とポンっと掌を肩に当てた。あの一瞬だけは不思議とこれから何が起きても大丈夫だと思った。

病院に着くと珍しく親父が先についていた。どうやら病院側と退院に向けての話し合いのため、仕事を早退してきたみたいであった。そして、

親父(以下父)「お宅らが早く退院して欲しいってのはよく分かっておりますけど、訪問介護や、自宅で介護するために必要な機材、役所への書類提出、ヘルパーさんの手配、諸々調整段階中なのは何回も申し上げているでしょ!!」

病院(以下医)「い、いえ、別に二木様に出ていって欲しいとは……ただ入院日数に付きましてですね……」

父「だ・か・ら、そちらも言い辛いのを承知の上で退院の手続きを進めてるのでしょうが!!ただ、家内がああいう状態な以上、はい退院します!で終われないでしょうと。退院するのなら、病院までとはいかないまでも、必要最低限の設備や対応マニュアルや連絡網など必要でしょうと!何回同じこと言わせるんですか!!」

医「いえ、私はその点につきましては、私共には判断しかねると……」

父「!?じゃあ今まで何のために……」

医「ですからちゃんと伝えておきますから」

父「……どちらに伝えるんですか?」

医「え~……上に………」

父「ふざけるのもいい加減にしてくださいよぉ!!!」

廊下に響き渡る怒声。僕は

「ああ、ザシコ。やれそうにねぇ」

パイプに深く腰掛けた。そんな中、母とザシコはニヤリと笑った。
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