あの日の後悔と懺悔とそれと

ばってんがー森

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一葉のクローバー

二つの始まり

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母が倒れてから約一年、学校に行って帰ってきて病院へ行き、親父の車で再び帰宅するという生活に慣れ始めた。学ランも、成長期だからとサイズに合わずブカブカを購入したのに、いつのまにかピッタリに。背も少し伸び、学校にも慣れてきた。だけど唯一、母の病は良くなる兆しもなく、逆に急激に悪くなっている感じもなかった。そこだけが僕たち家族をヤキモキさせた。ザシコとはというものの、相変わらず鞠で遊んだり一人で散歩したり、でも食事の時とお見舞いの時は付いてくるのであった。そういえば、ザシコと初めて会った時、近くにもう一匹妖怪がいた様な……まぁ、ザシコが見えた時点で動揺していたのだから、見間違いかもしれないし、それ以降出てきていないのだから、気にしなくて良いのかもしれない。
四月になり、二つの試練を迎えた。一つは「学校のクラス替え」であり、二、三年生の二年間を過ごすことになるクラスを決めるのである。これはハズレを引けば残りの学園生活は二年間地獄。当たりを引けば二年間安心!天国!当日、ザシコが

「ワシも行く」

と自信満々な顔をしてバッグに腰掛けた。恐らく僕の喜怒哀楽を楽しむ気であろう。そんなことはどうでもいい。もうクラス替えの結果は決まっているのだ。それを見に行く、ただそれだけ。目は見開いているはずなのに視野が狭い。歩く速度は早歩き。呼吸をしているかどうかの確認すら惜しい。桜の花びらはまるで目眩し。ただ、そこから動くことのない学校の、覆ることのない結果を見に行くだけだというのに。まるで急がなければ見ることができないようなこの焦燥感はなんなのか。電車に乗ってる時でさえ遅く感じる。これが楽しみで楽しみで仕方ない結果なら気持ちは分かる。だが、嬉しい結果かもしれないし残念な結果かもしれない。むしろこの不確定さが僕を前へ前へと駆り立てる。学校に着いてクラス表の紙を見る。そこには知らない名前もそこそこだが、一年間連んでた友達がちらほらいた!!

「はぁ~」

ここでようやく全身の力が抜けた。

「ワシは知っておったぞ。聞かれなかったのでな(笑)ジェットコースターみたいでスリル満点だったじゃろ?できればもう一回お願いしたいところだろう?(ニヤリ)」

僕はスカッとした顔で

「はいはい」

と返答した。もう怒る気もしなかった。人間、機嫌の良い時は大抵受け流せるものだから、席の前後も一年の時と同じで妙な安心感がある。すると一年生の時から同じクラスだった前の席にいる五牧の知り合いで、ガタイの良い人が彼と話した後、僕に手を差し出してきた。

「チワーッス。俺川名。君の名前は?二木君?ヨロシク~、帰る時、横須賀方面のいつもの場所で電車待ってたり、五牧達といるところを見てたからさ!よかったら帰ろうよ!!」

(僕とは違って気さくな人だなぁ……ん!?この顔と声……ザシコと一緒にいた妖怪に……いや、妖怪な訳が……)

引き攣りそうな顔で、

「よ、よろしくね~。ち、因みにお酒とか飲みます?」

と訳の分からない挨拶をしてしまった。

「ははっ!何それ!ビールしか飲まないよ!」

とこれも訳の分からない回答。さらっと飲酒してます宣言!何なんだ……。ハッ、と思い、ザシコの方を向くと親指を立ててキランと目を輝かせていた。

(どういう意味だよ……)

とにかく今日は悪いけど一人でパパッと帰ろう。そう決めた時、携帯が鳴った。宛先は親父からだった。

「母さんの退院日が決まった。だから今日からちょこちょこ家のものを持って帰るぞ」

というものだった。

「退院」

これが終わりなき二つ目の試練になるのであった。
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