召喚され、あっという間に殺されることになった魔力ゼロの聖女。チート無双もできるけど、のんびり異世界で暮らすことにした。

SHEILA

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バラライド国脱出 2

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爬虫類独特の目と……しっかりと目が合った。

「ひゅっ」

声にならない声が出る。

『大丈夫か?』

頭の中に男の人の声が響く。

『昨夜は大変だったな。長い時間泣いていたようだが、大丈夫か?』

爬虫類独特の目から目を外さないようにしながら、声の主の気配を探す。

昨夜のご都合主義よろしく、ピロンと音がして何かしらのスキルが取得できる、なんて事象は起こらなかった。

( 異世界に召喚されたのは現実でも、ご都合主義は夢だったの?)

『念話は苦手か?』

声が聞こえてくると同時に、私を包んでいた黒いものが動いた。
馬くらいの大きさっだったそれが立ち上がると、見る見る2トントラック程の大きさの、黒いドラゴンになった。

『ニナ様。昨日協力してくれた神龍です。ご安心を。』

( ナビちゃん!よかった!ナビちゃんは現実だった!……ありがとうナビちゃん。すごく安心した。魔獣に食べられるかと思った。)

『我は神龍の黒龍である。恐れることはない。』

よく見ると、昨夜見たあの金色の目だ。
明るい所で見るドラゴンは、カッコよくて、とても美しいと思った。

「神龍様、昨夜はありがとうございました。助かりました。今も、私が魔物に襲われないように守ってくれて、温めてくれて、ありがとうございました。」

ぺこりと頭を下げて、お礼を言う。

『…なに、たいしたことではない。それよりも、これからどうするつもりだ?行きたいところがあれば、送っていくぞ?其方であれば魔の森を超えることに何の問題もなかろうが、その身で歩いて超えるのは厳しいであろう?』

行きたいところもなにも、この世界のことはなにも知らないし、生活するために必要な物は、何一つ持ってない。
いや、夢幻でなければ、昨夜マジックバックに取り込んだものがある。

肩にかけたままの大きな布のショルダーバックからマジックバックを取り出し、中に手を入れてみる。

(うん。いろいろ入ってる。昨夜のは夢じゃなかった。)

視線を感じて見上げると、神龍様がじっと私が持っているマジックバックを見ていた。
なにか言いたいことがあるのかと暫く待ってみたけれど、なにも言ってこない。

「…それではお言葉に甘えて。この世界のことを何も知らない私でも働くことができて、生きていけるところに行きたいです。このようなクズだらけの人間の国じゃなくて、真面な人のいる国へ。」

『働く、か。真面な人間の町ということであれば、我が守護する森の近くにある町に行ってみるか?其方の希望に合わなければ、別の町に送ってやろう。まぁ、この国はだからな。このような国は今はこの世界に2つとないから、安心するがいい。』

「はい。よろしくお願いします。」

神龍様は風魔法(?)で私を自分の背中に乗せると、翼を動かすことなく、ふわっと垂直に上昇した。
魔法で飛んでいるのかもしれない。
そんなことを考えながら下を見ると、瓦礫の山となったお城のようなものの残骸が見えた。

「あれ、結局破壊しちゃったんですか?昨夜はリザードマンが石を投げているだけだったのに。」

『リザードマンの攻撃で、あれから人族を追い出して、人族がいなくなったところを我が潰したのだ。』

「態々?」

『殺戮が目的ではなかったからな。あれは禁忌の術を使って異世界から聖女を召喚するためだけに建てられた城だった。二度と愚かなことを考えないよう、戒めのために破壊したのだ。もちろん、其方の救出が最優先事項だったがな。』

神龍様は、魔の森に向かって飛び始めた。
魔の森は、どこまで続いているのか分からない程広い、黒い鬱蒼とした森だった。
見ただけで嫌な気持ちになる気味の悪さだった。

『其方は穢れが濃すぎるのを感じられるのか。それではこの高さでも辛いであろう。高度と速度を上げる。具合が悪くなったり怖くなったりしたら、我慢せずに言うのだぞ。』

神龍様はそう言って高度を上げながら、ぐんっとスピードを上げた


こうして、私は神龍様の背中に乗せてもらい、バラライド国を脱出した。

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ニナは、バラライド国が神罰で魔の森に囲まれていることも、バラライド国の愚者たちが魔の森を超えられないことも知りません。
あんなに気持ち悪くて怖くて痛い思いをしなくても、潤沢な魔力を使って魔法やスキルを行使すれば、容易に国外に逃亡できたことに気付いていません。
けれど辛い思いをした分、たくさんの魔法とスキルが取得でき、神龍に出会えました。
この経験をすることは、神様の思し召し策略だったのかもしれません。
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