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準備 4

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何もない洞窟で長い情報交換と話し合いをしてから、少し仮眠を取り、キースさんとは別れた。

町の近くまで送ろうとしたが、必要ないと断られた。

彼はかなりの手練れだ。
冒険者でいえばSランクに届いているかもしれない。

3週間も時間ができた。

けれど僕は世間知らずだ。
慣れないことをして、失敗すれば命に係わる。

やはりここを拠点にして、町を出る準備をしよう。

一番近い低級ダンジョンに向かう。

中に入り、予知を視ながら、一直線に隠し部屋に向かう。
まずは1つ目のマジックバックを手に入れる。
最初に手に入ったマジックバックは、パーティーの物より数倍は入りそうだった。
試しにその辺にある岩を詰め込んでみたのだ。

ついでにこのダンジョン内で僕が安全に到達できる宝箱をすべて開けてしまおう。

今居るのは低レベルのEランクダンジョン。
いくら予知があっても魔物と戦う術を持たない僕は、1人では低級ダンジョンにしか入れない。

ここは洞窟型だが通路は広く、光岩のおかげで視界が確保できる。
所々に植物があるので、それほど閉塞感はない。
植物のほとんどが雑草だが、稀に低効能の薬草がある。

あまりお金がないので、可能であれば装備やマジックアイテム、ポーションも手に入れたい。

未来で自分がそれらを手にしているところは視えるけれど、宝箱には認識阻害の魔法でもかかっているのか、何が入っているかまでは視ることができないのが歯痒い。

わずか3階層で各階層が狭いダンジョンだったので、翌日の昼前までに宝箱の中身をすべて回収することができた。

宝箱も価値があるのだけれど、際限なく湧いてくる魔物と違って、宝箱は一度持ち去ると二度と現れないため、宝箱を持ち帰ることは禁忌とされている。
宝箱を残しておけば、暫くするとまた何かが入っているのだ。
まぁ、闇のルートでは取引されているらしいけれど。

マジックバックにはまだ余裕がある。
拠点に向かいながら、日持ちのする食料や、乾燥しても価値の下がらない植物や実の採取を続ける。
拠点への安全な道程だけ予知しながら、まわりの景色や森の植生を楽しみながらのんびり歩く。

珍しい実を見つけた。

5色の実を付ける低木。
色によって魔力や体力の向上、状態異常回復、軽い傷が治る治癒、解毒の効果がある実だ。
非常に珍しく、市場に出回ることはない。
珍しいどころか、伝説と化していると言ってもいいくらい、レアな存在だ。

「時間停止機能のあるマジックバックが欲しいなぁ。」

独り言ちながら実を丁寧に摘んでいく。

効果については、この色がこの効果であろう、と推測されているだけで定かではない。
僕は低レベルだけれど素材鑑定のスキルがあるので、どの実がどの効果かなんとなく分かる。
なんとなく、だけだけど。
予知で視れば確実に分かるのだけれど、それはなんか味気ない。

徹夜したので、体力向上と思われる実を口に入れる。

「うわぁ、甘い!」

瑞々しくて、とても美味しい実だった。
飲み込むと、見る見る力が溢れてくる。

でも美味しいからと食べ過ぎてはいけない。
過度な摂取は体を壊す、危険な実でもあるのだ。

『あっ!主様の木に何をする!』

土の精霊がわらわら現れた。

敵意がないので、予知に引っかからなかったか・・・
もぐらのモグと違って、今出てきたのはみんな、土でできたコロンとした人形のようなフォルムだ。
可愛い。

「大切なものだったのか。無断で採って済まなかった。お詫びにこれをあげよう。」

そう言って、モグに渡したものと同じ珍しい果実の種を渡す。

精霊たちは種を手に取ると、近くに植えて踊り始めた。
みるみる芽が出て、若木になり、数分で花が咲いて実が生った。

さすが、食いしん坊の精霊。
必死すぎだ。

『主様、主様、珍しい果物ができました。是非食べてください!』

精霊が声をかけると、茶色い丸々とした大きな狸が現れた。
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