上 下
42 / 43
エピソード

子供たちの秘密基地 10

しおりを挟む
エレノアが去った数分後、タクトとサムとミラが楽園ダンジョン内の転移の魔法陣に現れた。
タクトとサムとミラは、それぞれ自分がテイムしている魔物たちがいつもいるところに向かって走り出した。

カーロは最初にタクトを案内した、元は幻だった花畑の中にいた。
カーロの姿を見つけたタクトは立ち止まり、息を整えてから、カーロに向かって歩を進めた。
自分の倍以上背の高いカーロを見上げながら、タクトは口を開く。

「カーロ、ごめんね。ずっと一緒にいたかったんだけど、急に遠くに引っ越すことになっちゃったんだ。僕がテイムしたままだと、カーロが縛られたままになっちゃうから・・・僕とのテイム、解除してくれる?」

精一杯の笑顔でそう言うタクトに、カーロは頷くことしかできなかった。
タクトが大好きだった。
けれど、自分のように恐ろしい魔物をテイムしているタクトに、いつか誰かが危害を加えるかもしれない。
戦うことが嫌いで、ビビリで心優しいカーロは、ずっとそんな思いを抱えていたのだ。
だから、エレノアと準備してきた不確定な未来のことを、タクトに話すことができなかった。

テイム解除リリース。」

タクトが唱えると、カーロとタクトの間に、光る鎖が現れ、粒になって空中に霧散していった。

タクトはカーロに抱き着く。

「カーロ。今までありがとう。僕の大切な、最高の友達。」

テイムを切ってしまったため、もう2人は意思の疎通ができない。
戦いを好まないカーロが自分を襲うことはないと信じつつも、自分を見るカーロの目の色が変わったことを敏感に感じ取ったタクトは、直ぐにカーロから離れ、転移の魔法陣に向かって走り出した。

転移の魔法陣がある階層に到着すると、そこにはタクトと同じように、涙を流しているサムとミラがいた。
だが、その涙は、タクトの涙とは違った。

「ごめんよ、タクト~、おで、おでにはぶりだったあああああ・・・!!」
「ごめんなさい、タクト・・私も・・無理だったああああ~!!!」

サムとミラは自分がテイムしている魔物たちを抱きかかえ、大泣きしていたのだ。
タクトは自分に言い聞かせる。

(しょうがないじゃないか!サムとミラと僕とでは、テイムしている魔物の立場が違う・・!!)

「気にしないでいいよ。楽園秘密基地に来なかったら、2人がテイムしている子たちは、ずっと一緒に暮らしていたはずの家族なんだから。さ、早く帰って、開拓地に向かおう。」

3人とスライムたちとゴブリンは、転移の魔法陣でベイリンガル侯爵領に戻り、行方不明になっていたことをしこたま親に怒られてから、飛竜便に乗り込んだ。





開拓地に引っ越してから数十日。
引っ越しの後始末も落ち着いた頃、タクトはサムとミラに誘われて、強い魔物が闊歩するという森の中にいた。
タクトがテイムしたくなるような新たな魔物を探すためだ。

タクトは思う。
カーロを忘れることなんてできない。
友達はカーロだけでいい。
そうは思うのだけれど、カーロとの時間が楽しすぎて、大切過ぎて、タクトは寂しくて寂しくて、どうにかなってしまいそうだった。
そんなタクトを見るに見かねたサムとミラが、乗り気でないタクトを引っ張り出したのだ。

行く先は、サムとミラが聞いてしまった、エレノアの独り言に出てきた場所だ。

「開拓地のまわりの森は強い魔物でいっぱいのはずなのに、北の小径のまわりにだけは、森の中の他の場所で見られるような強い魔物が現れないのよね。その代わり現れるのは、ホーンラビットからフォレストウルフ、ゴブリンに至るまで、すべてが。身を守るために魔物もだいたい自然に合わせた保護色なのに、この緑と茶色の森に、青よ、青。なんなの?なの?」

長い説明文のような大きな独り言に、純粋なサムとミラは食いついた。

「「青い魔物なら、タクトが気に入るかもしれない!!」」



3人は、開拓地の北にある小径を進む。

そして、見つける。

あの、秘密基地に酷似した洞窟の入り口を。


そして、もう一度、出会う。

青い楽園ダンジョンの住人たちに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!

れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。 父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。 メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。 復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*) *なろうにも投稿しています

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

偽物の女神と陥れられ国を追われることになった聖女が、ざまぁのために虎視眈々と策略を練りながら、辺境の地でゆったり楽しく領地開拓ライフ!!

銀灰
ファンタジー
生まれたときからこの身に宿した聖女の力をもって、私はこの国を守り続けてきた。 人々は、私を女神の代理と呼ぶ。 だが――ふとした拍子に転落する様は、ただの人間と何も変わらないようだ。 ある日、私は悪女ルイーンの陰謀に陥れられ、偽物の女神という烙印を押されて国を追いやられることとなった。 ……まあ、いいんだがな。 私が困ることではないのだから。 しかしせっかくだ、辺境の地を切り開いて、のんびりゆったりとするか。 今まで、そういった機会もなかったしな。 ……だが、そうだな。 陥れられたこの借りは、返すことにするか。 女神などと呼ばれてはいるが、私も一人の人間だ。 企みの一つも、考えてみたりするさ。 さて、どうなるか――。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...