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エピソード
ディックとドラゴンの卵 1
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この世界では、魔犬という種族が存在する。
犬とは似て非なるものだ。
魔犬は縄張りの中で、複数の小さな群れを作って暮らすことが多い。
出産は年1回。
1匹の母魔犬から生まれるのは、2~5匹。
そのほとんどが雄。
縄張り内に仔犬を産める雌がいなくなると、すべての魔犬が雌を求めて移動する。
魔犬は減ることはあっても、増え過ぎることがない。
そして犬との大きな違いは、人に慣れることがほぼ無いことだった。
ディックの父親であるマイクは、ベイリンガル侯爵領の狩人で、魔犬のテイマーだった。
この世界には食べられる魔物もいるが、一般人のほとんどは、野生動物を食肉としている。
ディックの父親もそうだった。
ディックの家は肉屋兼食堂で、狩りは父親と叔父が担当、肉屋兼食堂は2人の家族が切り盛りしていた。
料理の主導権は、祖父にあった。
ディックは物心ついた頃から、父親がテイムしている魔犬達と一緒にいることが多かった。
5歳になって、初めて父親が狩りに連れて行ってくれた。
連携を取り、次々と獲物を追い詰めていく魔犬達の賢さに、夢中になった。
そんな魔犬に指示をする、父親のカッコよさに憧れた。
絶対自分もテイマーになって狩人になるんだと、その日の夜は興奮して眠れなかった。
父親がテイムしている魔犬の中で、雌は1匹だけだった。
年に一度生まれる魔犬の仔犬達は、ディックの良い遊び相手だった。
人に慣れないはずの魔犬達が、ディックにはよく懐いた。
父親からは「もし仔犬達をテイムすることができたら、お前にやるぞ。」と言われていた。
しかし、毎年生まれてくる魔犬の仔犬達は、ディックと遊んではくれても、テイムさせてはくれなかった。
ディックが10歳になったある日、その年生まれた4匹の仔犬達が、最近できたばかりの頑強な壁の下を掘り始めた。
元々魔犬は穴掘りが好きだ。ディックにはそれが仔犬達の遊びに見えた。
穴はだんだんと大きくなり、仔犬達だけでなく、ディックが通れるくらいの大きさになった。
すると、仔犬達は穴に飛び込んで塀の中に入ってしまった。
ディックは慌てて仔犬達を追いかけて、穴の中に入って行った。
塀の下から這い出ると、そこには大きな白いドラゴンがいた。
白いドラゴンは、卵を産んだばかりの母ドラゴンだった。
魔犬の仔犬達と10歳のディックに、母ドラゴンはまったく警戒をしなかった。
自分が卵を温めている腹の下にみんなが入り込んで暖を取っても、何も言わなかった。
それどころか、卵と一緒に慈しむようにそっと抱え込んだ。
ディックは、今までに感じたことの無い心地良さというか安心感というか、なんとも不思議な感覚に囚われていた。
犬とは似て非なるものだ。
魔犬は縄張りの中で、複数の小さな群れを作って暮らすことが多い。
出産は年1回。
1匹の母魔犬から生まれるのは、2~5匹。
そのほとんどが雄。
縄張り内に仔犬を産める雌がいなくなると、すべての魔犬が雌を求めて移動する。
魔犬は減ることはあっても、増え過ぎることがない。
そして犬との大きな違いは、人に慣れることがほぼ無いことだった。
ディックの父親であるマイクは、ベイリンガル侯爵領の狩人で、魔犬のテイマーだった。
この世界には食べられる魔物もいるが、一般人のほとんどは、野生動物を食肉としている。
ディックの父親もそうだった。
ディックの家は肉屋兼食堂で、狩りは父親と叔父が担当、肉屋兼食堂は2人の家族が切り盛りしていた。
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ディックは物心ついた頃から、父親がテイムしている魔犬達と一緒にいることが多かった。
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連携を取り、次々と獲物を追い詰めていく魔犬達の賢さに、夢中になった。
そんな魔犬に指示をする、父親のカッコよさに憧れた。
絶対自分もテイマーになって狩人になるんだと、その日の夜は興奮して眠れなかった。
父親がテイムしている魔犬の中で、雌は1匹だけだった。
年に一度生まれる魔犬の仔犬達は、ディックの良い遊び相手だった。
人に慣れないはずの魔犬達が、ディックにはよく懐いた。
父親からは「もし仔犬達をテイムすることができたら、お前にやるぞ。」と言われていた。
しかし、毎年生まれてくる魔犬の仔犬達は、ディックと遊んではくれても、テイムさせてはくれなかった。
ディックが10歳になったある日、その年生まれた4匹の仔犬達が、最近できたばかりの頑強な壁の下を掘り始めた。
元々魔犬は穴掘りが好きだ。ディックにはそれが仔犬達の遊びに見えた。
穴はだんだんと大きくなり、仔犬達だけでなく、ディックが通れるくらいの大きさになった。
すると、仔犬達は穴に飛び込んで塀の中に入ってしまった。
ディックは慌てて仔犬達を追いかけて、穴の中に入って行った。
塀の下から這い出ると、そこには大きな白いドラゴンがいた。
白いドラゴンは、卵を産んだばかりの母ドラゴンだった。
魔犬の仔犬達と10歳のディックに、母ドラゴンはまったく警戒をしなかった。
自分が卵を温めている腹の下にみんなが入り込んで暖を取っても、何も言わなかった。
それどころか、卵と一緒に慈しむようにそっと抱え込んだ。
ディックは、今までに感じたことの無い心地良さというか安心感というか、なんとも不思議な感覚に囚われていた。
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