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本編
婚約破棄のその後 ~ side 第一王子ゲイルとマリア~ 1
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国内で領地を持つすべての貴族の代表が集う豊穣の宴での第一王子ゲイルのやらかしに、国王と王妃と国の重鎮、教皇と教会の上層部の全員が頭を抱えていた。
豊穣の宴に戻ってきた国王夫妻がことの成り行きを聞き、直ぐに人をベイリンガル侯爵家に向かわせたが、ベイリンガル侯爵家の王都内の屋敷は、すでにもぬけの殻であった。
庭園はそのままであったが、屋敷内にはカーペットも、シャンデリアも、皿の一枚も残っていなかった。
豊穣の宴の数時間前にエレノア・ベイリンガル嬢をベイリンガル侯爵家の屋敷に迎えにいった者たちからは、屋敷内には大勢の使用人がいて、屋敷内の様子も、調度品も含めてすべていつも通りであったとの報告が上がっていることから、事前に準備をしていたということは考えられず、まさかこれも大聖女の力の一端なのかと、逃してしまった魚の大きさに歯噛みする。
複数の早馬をベイリンガル侯爵領に向かわせて、今はその報告待ちである。
第一王子ゲイルは、大会議室の真ん中に立たされていた。
その周りには円卓があり、国王と王妃、行政・司法に関わる貴族の上層部、教皇と司教、王都教会の司祭ら集まれるだけの国の重鎮たちが集まっていた。
「其方の一存で、エレノア・ベイリンガル嬢との婚約破棄に、彼女の国外追放を命じたそうだな。」
「はい。私を立てることもできないような不出来な女は、国母に相応しくありませんから。」
その場にいる全員に睨みつけられているのに、ゲイルは自信満々に答えた。
「更にお前の一存で、ベイリンガル侯爵家を取り潰すと言ったそうだな。」
「あの家は、エレノアが聖女であると嘘をついて、長年王族である俺を騙していたんです。当然の処置です。」
ここで、司教の一人が口を開く。
「エレノア様が大聖女であることは、教会の適性検査で認められております。殿下は教会の適性検査が不正だとおっしゃっるのですね。」
「そうか、元凶は教会か。自分らの私腹を肥やすために、偽聖女をでっちあげて俺様に押し付け「黙れゲイル!!!」
国王がゲイルを制そうとするが、時すでに遅し。今度は教皇が口を開く。
「この国の考え方はよく分かりました。」
「教皇、お待ちください!!我が国はそのようなこと、まったく、考えたこともございません!」
「第一王子がそうおっしゃっているではありませんか。しっかりと王族としての教育を施された責任ある立場にいらっしゃる第一王子がです。」
教皇が立ち上がると、教会関係者も全員が立ち上がる。
教皇は穏やかな顔で、国王に告げた。
「大聖女を蔑ろにし、神をも冒涜するこの国のために、我々が神に祈りをささげることは金輪際ありません。今をもって、我々教会は、この国から撤退させていただきます。」
「そ、そんな・・・」
国王はその場にへたり込む。
「ああ、最後に一つだけ。神殿にある「適性検査」のための「鑑定水晶」は置いていきます。神の加護が完全に無くなった水晶はその力を失いますので、必要があるのでしたら、早めに使用されることお勧めいたしますよ。」
教会御一行様が去った大会議室では、第一王子ゲイルだけが上機嫌だった。
「自分たちの不正を認めて、自ら国外追放されるとは、あっぱれじゃないか!」
国王は思った。
ジョアンナが自分の求婚を受け入れていれば、こんなバカ息子など生まれなかった。
ベイリンガル侯爵家が取り潰されたのはいい。
ジョアンナが手に入らないのは気に入らないが、貴族で無くなって惨たらしく死んでいく奴らを笑う楽しみができた。
だが、大聖女であるエレノアを失ったのは痛すぎる。
教会は、いろいろうるさい存在ではあったが、治療や聖水のためには必要な存在だったのに、教皇の発言は覆せない。
大会議室内の貴族たちのざわめきがだんだんと大きくなる。
国王は、自分の息子である第一王子ゲイルに殺意が湧いてきた。
思わずゲイルを殴り殺しそうな衝撃に突き動かされそうになったとき、隣にいた王妃が口を開いた。
豊穣の宴に戻ってきた国王夫妻がことの成り行きを聞き、直ぐに人をベイリンガル侯爵家に向かわせたが、ベイリンガル侯爵家の王都内の屋敷は、すでにもぬけの殻であった。
庭園はそのままであったが、屋敷内にはカーペットも、シャンデリアも、皿の一枚も残っていなかった。
豊穣の宴の数時間前にエレノア・ベイリンガル嬢をベイリンガル侯爵家の屋敷に迎えにいった者たちからは、屋敷内には大勢の使用人がいて、屋敷内の様子も、調度品も含めてすべていつも通りであったとの報告が上がっていることから、事前に準備をしていたということは考えられず、まさかこれも大聖女の力の一端なのかと、逃してしまった魚の大きさに歯噛みする。
複数の早馬をベイリンガル侯爵領に向かわせて、今はその報告待ちである。
第一王子ゲイルは、大会議室の真ん中に立たされていた。
その周りには円卓があり、国王と王妃、行政・司法に関わる貴族の上層部、教皇と司教、王都教会の司祭ら集まれるだけの国の重鎮たちが集まっていた。
「其方の一存で、エレノア・ベイリンガル嬢との婚約破棄に、彼女の国外追放を命じたそうだな。」
「はい。私を立てることもできないような不出来な女は、国母に相応しくありませんから。」
その場にいる全員に睨みつけられているのに、ゲイルは自信満々に答えた。
「更にお前の一存で、ベイリンガル侯爵家を取り潰すと言ったそうだな。」
「あの家は、エレノアが聖女であると嘘をついて、長年王族である俺を騙していたんです。当然の処置です。」
ここで、司教の一人が口を開く。
「エレノア様が大聖女であることは、教会の適性検査で認められております。殿下は教会の適性検査が不正だとおっしゃっるのですね。」
「そうか、元凶は教会か。自分らの私腹を肥やすために、偽聖女をでっちあげて俺様に押し付け「黙れゲイル!!!」
国王がゲイルを制そうとするが、時すでに遅し。今度は教皇が口を開く。
「この国の考え方はよく分かりました。」
「教皇、お待ちください!!我が国はそのようなこと、まったく、考えたこともございません!」
「第一王子がそうおっしゃっているではありませんか。しっかりと王族としての教育を施された責任ある立場にいらっしゃる第一王子がです。」
教皇が立ち上がると、教会関係者も全員が立ち上がる。
教皇は穏やかな顔で、国王に告げた。
「大聖女を蔑ろにし、神をも冒涜するこの国のために、我々が神に祈りをささげることは金輪際ありません。今をもって、我々教会は、この国から撤退させていただきます。」
「そ、そんな・・・」
国王はその場にへたり込む。
「ああ、最後に一つだけ。神殿にある「適性検査」のための「鑑定水晶」は置いていきます。神の加護が完全に無くなった水晶はその力を失いますので、必要があるのでしたら、早めに使用されることお勧めいたしますよ。」
教会御一行様が去った大会議室では、第一王子ゲイルだけが上機嫌だった。
「自分たちの不正を認めて、自ら国外追放されるとは、あっぱれじゃないか!」
国王は思った。
ジョアンナが自分の求婚を受け入れていれば、こんなバカ息子など生まれなかった。
ベイリンガル侯爵家が取り潰されたのはいい。
ジョアンナが手に入らないのは気に入らないが、貴族で無くなって惨たらしく死んでいく奴らを笑う楽しみができた。
だが、大聖女であるエレノアを失ったのは痛すぎる。
教会は、いろいろうるさい存在ではあったが、治療や聖水のためには必要な存在だったのに、教皇の発言は覆せない。
大会議室内の貴族たちのざわめきがだんだんと大きくなる。
国王は、自分の息子である第一王子ゲイルに殺意が湧いてきた。
思わずゲイルを殴り殺しそうな衝撃に突き動かされそうになったとき、隣にいた王妃が口を開いた。
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