婚約破棄された魔法が苦手な令嬢は、おとぎの国の王太子に求婚される。

SHEILA

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後編

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私がパーシヴァル様の手を取った途端、外からバラバラバラバラという、聞いたことのある音が響いてきました。

パーシヴァル様にエスコートされ会場から外に出ると、そこには懐かしいヘリコプターが、空中に浮かんでいました。

(記憶の中のヘリコプターそっくりだわ。)

パーティー会場内は騒然としています。
この国では、空を飛べるのは鳥だけだと思われているからです。
魔法でも、未だかつて空を飛んだ人など、この国にはいないのです。

ヘリコプターからは縄梯子が降ろされ、パーシヴァル様が私を抱きかかえながらそれに掴まります。

「パーシヴァル様!お、落ちます!スカートの中が見えてしまいます!!」

「大丈夫です。クルーム国は科学が発達した国ではありますが、魔法が使えないとは言っていませんよ?」

縄梯子はパフォーマンスのようです。
私たちは風魔法でふんわりと上昇していき、無事ヘリコプターに乗り込むことができました。

(この方は、ひょっとして魔法で空が飛べるのではないかしら?)

眼下にはこちらを指を指しながら、何かを口々に叫ぶ人々。

第一王子ライアンの横には、真っ赤な露出の高いドレスを着てライアンにしがみ付いているオルべリアが見えます。

「自分が浮気をしていたのに、貴女が魔法が使えないのを理由に婚約破棄をしようとしたんです。どうします?この国滅ぼしますか?戦闘用ヘリコプターなので、この国を焦土に変えられるくらいの爆薬は積んでいますよ?」

パーシヴァル様が笑顔で怖いことを言ってきます。

「婚約破棄できて、家から廃除されて、すべてのしがらみから解放されて、私は今幸せなんです。冗談でもそんな怖いことを言わないでください。」

パーシヴァル様が楽しそうにクツクツと笑います。

「冗談だと分かってもらえて、良かったです。」

その黒い笑顔を見て、ちょっと早まったかもと思いましたが、現物ヘリコプターを見てしまっては、科学のある暮らしやすい国があることを、信じるしかありません。

私はまだ見ぬ科学の国へ、思いを馳せるのでした。



そして、3年。

腹黒王太子パーシヴァル様に逃げ道を塞ぎ続けられた私は、明日、パーシヴァル様に嫁ぎます。
パーシヴァル様は国王となり、私は王妃になります。
王妃と言っても、名ばかりのものです。

科学が発達していて、魔法にも長けている国。

科学と魔法を組み合わせ、どこの国よりも平和で豊かな国。

万が一他国と戦争になったとしても、一瞬で勝利してしまうほどの戦力を持つこの国の名は、クルーム国。

国内には、私の記憶の中にあるコンクリートジャングルではなく、自然と調和した美しい街並みが広がっています。


おとぎの国と呼ぶことで、国、存在しない国として扱われているため、他国との国交はなく、優秀な部下が揃っているから王妃としての仕事も特にないと言われたので、主婦兼家事便利グッズの製作に励む、ごく普通のお嫁さんでいいのでしたら、という条件でプロポーズを受けました。

魔法が上手に使えなくても、1人の人間として私を認めてくれたこの国で、私は大好きな人に愛される喜びを知り、幸せになります。

ちなみに。
論理的に確立された魔法発動のノウハウにより、私も立派な魔法使いになれました。

― 終わり ―
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