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backstage

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 翌日の放課後、重い足取りで梨加が体育館へ向かう途中、さくらと一緒になった。
「リカちゃん、お疲れ様」
「サフラン。……お、お疲れ」
 不機嫌に別れてしまい気まずい梨加に、サフランこと、さくらは何事もなかったように明るい。

「昨日、ツッチーが鍵閉めだったんだよね。一緒に帰った?」
「う、ううん。私もすぐ帰ったから」
「そうなんだ? もしかして残って作ってたのかな」
「作ってた?」
「ツッチー、すごく器用なんだよ。私、小学校から同じだけど、図工や美術はいつも賞を貰ってた」
 誰にでも特技はあるんだ、と土田の地味な顔を思い浮かべる。
「昨日も、プラスチック段ボール器用にくり抜いててさ、あれ、柚子のコンサートシーンの装飾だと思う」
「……柚子の?」
「うん。柚子はトップアイドルだから、どうやって輝かせて観客に見せるか、スタッフで話し合いしたんだ。その上、柚子はケンジを励ます救いの天使だし」
「ヒロインじゃないけどね」
 自虐的な梨加に、まぁまぁ、とさくらはフォローする。
「ツッチーのアイディアには、先輩達も褒めてるんだよ。次のは装置も完成してるから、期待してって。うちら音響も、昨日のキャストの動き見て、アレンジ直す予定なんだ」
「……サフラン。ごめん」
「え? いきなり、何どうした?」
「昨日、八つ当たりした。ごめん……」
「気にすんなって。キャストは大変だもん」

 さくらは明るく笑う。音響作業を早く始めたそうで、速歩きだ。
 土田と同じようにやり甲斐に溢れた横顔に、能天気に見えたさくらの笑顔を誤解していたと、梨加は恥ずかしくなった。

 部活開始後すぐ、シーンごとに練習すると指示が入った。
「ひとつずつ丁寧に作っていこ」
「ミント、たまにはいいこと言うね」
「一言余計!」
 柊も演出のミントも、昨日のことなど感じさせない。キャストの2年女子部員が「こうするといいよ」と梨加にアドバイスする。
 誰も梨加を責めてこなかった。
(ツッチーにも謝らなきゃ)
 土田にも八つ当たりしたのを思い返し、休憩中、梨加は装置フタッフ班へと向かった。

 舞台の脇で3名の装置スタッフが、金色のプラスチック板を器用に組み立てている。
 土田の長い指は、あっという間に立体の星を作り上げた。クリスマスツリーの頂点のオーナメントに似ている。
「すごい……」
「リ、リカ、ちゃん? どうしたの」
「どうしてこんなの作れるの?!」
 工作程度だろうと想像していた梨加の反応に、謙遜しながらも土田は「ちょうど良かった」と、出来上がったばかりのプラスチックの星を手に取り、白い筒の先端に針金で手速く留めた。
 少女が魔法を使うステッキに似ている。

「これ、柚子のマイクスタンド」
「……可愛い」
「練習から持ってたほうが、やりやすいかなと思って。良かったら」
 土田に差し出され受け取ると、マイクスタンドは梨加の手にしっくりきた。

 その時、「練習再開するよ!」と召集がかかり、慌てて梨加は立ち上がる。
「あ、ありがと」
「頑張ってね」
 可愛い小道具を前に、謝りそびれた梨加は、少しだけ楽しい気持ちが戻っていた。

 平日放課後の体育館は、運動部も使用するため照明を落とせない。明るい中でも、バミリの位置をを気にしつつ、なんとか梨加はステップを踏む。
 土田に渡された星のスタンドを握りしめると、梨加は心強くなった。いつもより透き通った声が、舞台で響き渡る。
「動きはちょっとぎこちないけど、OK。柚子、その感じ」
 演出のミントの声は穏やかだった。

 梨加はそっと胸の中で、願いをかける。
(この部で、足手まといになりたくない)
 
  
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