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第2章

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「ねえ。あっちの方、すっごい人。いこーよお」
「うんうん」

 飽きるって言葉を知らない。
 なんて大河、はしゃぐ香葉来を見て、同調する真鈴を見て、思っちゃってるけど。自分もだ。
 水族館は楽しくて、時間を忘れて。足を止めず、目を閉じす。
 3人は館内をぐるぐる歩き回っていた。
  
 で。
 香葉来が興味津々だった場所へ。
 すっごい人がいっぱいあふれて、ずらずら並ぶあるエリアへ並んだ。
 
 ある海洋生物が展示されているみたい。がちゃがちゃじゃかじゃかって人の動きや声も騒がしくて、ぎゅうぎゅうでせまく感じるけれど、わくわくが何よりも強いので、大河たちは、待ち時間が苦痛じゃなかった。

 そして、人は流れていき。先頭になった。
 目の前に現れた水槽は、プラネタリウムだった。

「わあー!」

 香葉来は、ぺたんと、手のひらを水槽に引っつけた。
 釘付けだ。
 香葉来が夢中になっていたプラネタリウムの中には、天使がいた。

「クリオネだあっ!!」

 そう――クリオネ。

 米粒より、ちょこっと大きいくらい。
 半透明の――青。
 頭と体としっぽだけ――赤。
 ゆらゆらゆらり――翼のような足。
 ふわふわふわり――空を飛ぶように踊る。
 きらきらきらり――いっぱいのクリオネたちが放つ、光。

 不思議な、いきもの。
 すごい……なんだろう。クリオネって。言葉にできない。
 
 大河はあんぐりと口を開き、自然とプラネタリウムに張りついた。

「クリオネ。前にきたときはいなかったんだ。期間限定で公開されているみたいだね。すてき」
 
 真鈴、口元を綻ばせてささやいた。
 
 はしゃぎっぱなしだった香葉来は、声を出す余裕もなくなったみたい。目をきょろりきょろり、20匹近くはいるクリオネに、定まらない視線を向けていたから。
 真鈴も、うっとり見てる。

 大河は、カシャッカシャッ、シャッターを切る。
 フラッシュはできない。ううん、ないほうが自然でいい。
 深い青と赤い灯りが際立つから。
 
 ゆらゆらゆらり――
 ふわふわふわり――
 きらきらきらり――

 ああ、大好き。

 じっと、クリオネに魅了されているうちに……チクタクチクタク、時は進んでた。
 クリオネは大人気だけど水槽は小さい。
 うしろも詰まっていたから、写真を撮り終えたところで離れた。
 
 大河と香葉来はすっかりクリオネの虜になった。

「じゃあもう一度並んでみようよ」

 にこっとする真鈴がうれしい後押しをくれた。
 もう一度並んでクリオネを見た。

 何度見ても飽きない。単調な動きしかしないし、シロイルカのような芸をするわけでもない。

 だけど、心が。
 じんじんとゆさぶられた。
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