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第16話 返事

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 意識は薄っすらとしていた。
 気絶してはいないみたいだけど、体に力が入らない。
 一気に頭に血が上ったせいだろうか、酷い立ち眩みだろうか。
 とにかく情けない、貧弱過ぎる。
 だけど、この周りが敵だらけな状況では、もう立ち上がるのも億劫だ。

 「しっかりしろ」
 「柊山さん、とりあえず保健室に運びましょう」
 「わかった」
 柊山は僕の体を躊躇なく背負って、ゆっくりと歩き出した。
 とても大きな背中だ……。

 なんだよイケメンで長身で頭も良くて優しいのかよ。
 くそう、後でちゃんとお礼を言わなきゃな……。


 はっ、ここは?
 「おはよう、気が付いた?」
 ゴワゴワのシーツと全然頭にフィットしない枕、学校の保健室か?
 なんということだ、僕は柊山の背中で安心して眠ってしまったということか? 憎くむべき柊山の背中で、いや別に憎むとかはないけども。

 ありがとう柊山。

 ちゃんと心の中でお礼を言ったからな、これでチャラだ。

 「じゃあ、私は教室に戻るから、あんたもちゃんと戻るんだよ」
 「あ、ありがとう秋川、診ててくれたんだね」
 「保健委員だからね、ただの疲れか寝不足だろうってことだったし、保険の先生が急用で頼まれただけだよ」
 秋川(あきかわ)琴葉(ことは)、黒ぶち眼鏡で黒髪おかっぱ、いやボブカットって言うべきか。僕の家の近所に住んでいて親同士も仲が良い、だからなにかと顔を合わせる機会が多い。そういうのを幼馴染と呼ぶ声もあるが、そんな雰囲気もないし興味もない。
 向こうもそうだろう、そんな関係だ。

 「珍しいよね、あんたが他の人のことで熱くなるなんて。しかも姫嶋さんだし、いつの間に仲良くなったの? もしかして付き合ってるの?」
 秋川の「しかも姫嶋さんだし」が、まるで僕と姫嶋さんが不釣り合いみたいな言い方で、また少し頭に血が上ったけど。
 「つ、付き合っているとかあるわけないじゃないか、女子はすぐそうやってなんでもかんでもそういう方向に持って行きたがる、まったく理解できない」
 「ふ~ん」
 「ふ~んってなんだよ」
 「別に」
 まったく、僕と同じで読書好きな大人しい隣人だと思っていたのに、これだから中学生は。

 「まぁいいよ、それよりも先生がスマホ返してくれてるよ。それとさっき「アクア」って人からメッセージが来てた。見るつもりはなかったけど、丁度通知が来てたからゴメンね」
 「え? ほんとに?」
 僕は急いで確認する。

 【体調悪くて寝坊したよ、心配してくれてありがと。したくなったらまたよろしくね】

 良かった。
 いや良くない、なんだこの返しは、確かに僕は「転生しちゃダメだよ」と送ったけども、その主語を抜いて返信したら卑猥な内容にしか思えないのだけど。

 「で? あんたその人とシたの? というか私たちまだ中学生だよ、何考えてんの? しかもアクアって姫嶋さんでしょ? 信じらんない、軽蔑するわ」
 「ちょ、ちょっと待ってよ秋川、これは違くて」
 「だいたいあんたそんな感じじゃなかったでしょ、本が友達で根暗で大人しかったでしょうよ、だから私は……ほんとイライラなんですけど」
 何を怒っているんだよ。
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