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第七章 弟切草
決意
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「分かったから、落ち着いて、ね。誰もエミリーの傍を離れたりしないから」
取り乱すエミリーの背中をさすって声を掛けるハナ。
「ちょっと疲れているんだね……きっと僕のせいだ。こんなところまで付いて来てもらって、お母さんとも離れてさ。ごめんね、寂しいよね」
「そんなんじゃないです」
「そうかそうか」
「止めて下さい。子供扱いしないで」
ゴツッ。
「イタッ」
「こらエミリーちゃん、あんたはまだ子供だよ。しっかりお兄ちゃんに甘えなさい」
見かねたマーノリアさんがエミリーの頭を小突いて続けた。
「今日はもう良いから、2人とも奥で休んでなさい。ちゃんと話し合うんだよ。うちの旦那のことは放っておいても死にゃしないんだからさ」
「マーノリアさん……」
今まで厳しい教育は受けてきたが、母はもちろん、父にも手を出されたことはなかった。
頭はジンジンと痛むが、マーノリアの優しい顔を見ると、なんだか暖かい気持ちになる。
そして、マーノリアの旦那のことを想い、胸を締め付ける強さが増してゆくのを感じた。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
エミリーは、泣きながら謝ることしかできないでいた。
「ちょっと休んでくるね、ジェルベーラちゃん、あとお願い」
「任せて、まったくエミリーったらおこちゃまなんだから」
ジェルベーラは、慣れた手つきで花の手入れをしながらハナとエミリーに手を振った。
「凄いよねジェルベーラちゃん。もうあんなにお手伝いできるようになっちゃって。僕も見習わなきゃ」
そう言いながらハナはエミリーの手を引き、台所の椅子にエミリーを座らせ、お茶を入れてあげた。
「これね、マーノリアさんが作ったハーブティーなんだよ、カモミールが原料なんだって。僕も昨日飲んだんだけど凄く美味しくてさ。まずはこれを飲んで休みなよ、今のエミリーって誰が見ても頑張り過ぎてるからさ」
頑張り過ぎている……エミリーは思いもよらなかったハナの言葉に大きく息を吐いた。
自分は頑張ってなんかいない、自分のせいでマーノリアの旦那が弟切草の刃に倒れるかもしれない、それどころかターリー国民の命が……。
やはり今ここで全てを打ち明けるべきではないのか?
晴頼を生み出したハナならば、たとえ遠く離れた場所でも、願えば魔法を解除できるかも……。
エミリーは、決意を固めハーブティーを一気に飲み干して立ち上がった。
「おやつもあるから、待っててね」
「あっ、ちょっと、そんなのはいいですから」
エミリーの呼び止める声も聞かず、ハナはマーノリアの所へ走り去った。
「まったく、すぐにそうやって先走って……」
エミリーは溜め息をついた。
それは、ハナに打ち明けると決めたからなのだろう。
なにか胸のつかえが取れそうな、そんな安心感を覚えた。
「そういえば、小さい頃もそうだったな。私のことになると、いつも先走って怪我をしてた。私が悪いのに上級生と言い合っていたら必死に味方してくれてたっけ……」
エミリーは昔を思い出し、テーブルに顔を埋めた。
それは、少し自分の顔がほころんでいるのが分かったからだった。
そして、エミリーは、そのまま眠ってしまう。
「持ってきたよ、これエディブルフラワーのお菓子なんだって……ってエミリー? 寝ちゃったの?」
ハナは、薄手の毛布を取り出し、そっとエミリーにかけてあげた。
そして、ゆっくりと忍び足でマーノリアの所へ向かう。
「マーノリアさん、僕、やっぱり一人でもターリーに行くよ」
マーノリアはハナの言葉に怪訝な表情を浮かべたが、その強い決意を持った表情に、鼻から深く息を吐き
「無茶はするんじゃないよ」
と、笑顔で返した。
「実はね、護衛隊に常連の客がいてさエーテルって名前なんだけどね、その人に依頼はしていたんだけど向かわせる人が居なくてね。私が行けばいいんだけど、店を空けると旦那は怒るだろうし、ジェルベーラを向かわせるのも考えたんだけど、途中で消えるかもしれないだろ? そうなったらやっぱりハナくんか、エミリーちゃんにと思っていたんだよ。もちろん、こんなこと言うのは、エーテルが腕っぷしも強くて信頼に足る護衛隊だからってのもあるんだよ。あの人ならハナを任せても大丈夫だって、だからねわたしは凄く嬉しい、ほんと助かるよ」
それからマーノリアは護衛隊のエーテルに
“ハナになんかあったら、ただじゃおかないからね”そう念を押して依頼料をたっぷりと渡した。
「偉いぞチビ助、男は旅をしてなんぼだからな」
「よろしくお願いします」
ハナは筋骨隆々な護衛隊のエーテルを見てかしこまった。
エーテルの他にも2名の護衛がつくことを知り、ハナは意気揚々と荷馬車に乗った。
「これを持っていきな」
マーノリアが花を形どったピンブローチをハナに手渡した。
「エーテルは旦那を知ってるけど、ハナは知らないだろ? これは私と旦那の思い出の品だからね、それを帽子にでも付ければ旦那も気付くだろうさ」
「分かった、ありがとねマーノリアさん。あとエミリーをよろしくお願いします」
「任せな」
「行ってきます」
ハナとマーノリアは大きく腕を振って別れた。
_____________________
花のよもやま話
ご存じの方も多いと思いますが
カモミールティーには
【リラックス効果】
【自律神経を整える効果】
【安眠を促す効果】
などがあります。
取り乱すエミリーの背中をさすって声を掛けるハナ。
「ちょっと疲れているんだね……きっと僕のせいだ。こんなところまで付いて来てもらって、お母さんとも離れてさ。ごめんね、寂しいよね」
「そんなんじゃないです」
「そうかそうか」
「止めて下さい。子供扱いしないで」
ゴツッ。
「イタッ」
「こらエミリーちゃん、あんたはまだ子供だよ。しっかりお兄ちゃんに甘えなさい」
見かねたマーノリアさんがエミリーの頭を小突いて続けた。
「今日はもう良いから、2人とも奥で休んでなさい。ちゃんと話し合うんだよ。うちの旦那のことは放っておいても死にゃしないんだからさ」
「マーノリアさん……」
今まで厳しい教育は受けてきたが、母はもちろん、父にも手を出されたことはなかった。
頭はジンジンと痛むが、マーノリアの優しい顔を見ると、なんだか暖かい気持ちになる。
そして、マーノリアの旦那のことを想い、胸を締め付ける強さが増してゆくのを感じた。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
エミリーは、泣きながら謝ることしかできないでいた。
「ちょっと休んでくるね、ジェルベーラちゃん、あとお願い」
「任せて、まったくエミリーったらおこちゃまなんだから」
ジェルベーラは、慣れた手つきで花の手入れをしながらハナとエミリーに手を振った。
「凄いよねジェルベーラちゃん。もうあんなにお手伝いできるようになっちゃって。僕も見習わなきゃ」
そう言いながらハナはエミリーの手を引き、台所の椅子にエミリーを座らせ、お茶を入れてあげた。
「これね、マーノリアさんが作ったハーブティーなんだよ、カモミールが原料なんだって。僕も昨日飲んだんだけど凄く美味しくてさ。まずはこれを飲んで休みなよ、今のエミリーって誰が見ても頑張り過ぎてるからさ」
頑張り過ぎている……エミリーは思いもよらなかったハナの言葉に大きく息を吐いた。
自分は頑張ってなんかいない、自分のせいでマーノリアの旦那が弟切草の刃に倒れるかもしれない、それどころかターリー国民の命が……。
やはり今ここで全てを打ち明けるべきではないのか?
晴頼を生み出したハナならば、たとえ遠く離れた場所でも、願えば魔法を解除できるかも……。
エミリーは、決意を固めハーブティーを一気に飲み干して立ち上がった。
「おやつもあるから、待っててね」
「あっ、ちょっと、そんなのはいいですから」
エミリーの呼び止める声も聞かず、ハナはマーノリアの所へ走り去った。
「まったく、すぐにそうやって先走って……」
エミリーは溜め息をついた。
それは、ハナに打ち明けると決めたからなのだろう。
なにか胸のつかえが取れそうな、そんな安心感を覚えた。
「そういえば、小さい頃もそうだったな。私のことになると、いつも先走って怪我をしてた。私が悪いのに上級生と言い合っていたら必死に味方してくれてたっけ……」
エミリーは昔を思い出し、テーブルに顔を埋めた。
それは、少し自分の顔がほころんでいるのが分かったからだった。
そして、エミリーは、そのまま眠ってしまう。
「持ってきたよ、これエディブルフラワーのお菓子なんだって……ってエミリー? 寝ちゃったの?」
ハナは、薄手の毛布を取り出し、そっとエミリーにかけてあげた。
そして、ゆっくりと忍び足でマーノリアの所へ向かう。
「マーノリアさん、僕、やっぱり一人でもターリーに行くよ」
マーノリアはハナの言葉に怪訝な表情を浮かべたが、その強い決意を持った表情に、鼻から深く息を吐き
「無茶はするんじゃないよ」
と、笑顔で返した。
「実はね、護衛隊に常連の客がいてさエーテルって名前なんだけどね、その人に依頼はしていたんだけど向かわせる人が居なくてね。私が行けばいいんだけど、店を空けると旦那は怒るだろうし、ジェルベーラを向かわせるのも考えたんだけど、途中で消えるかもしれないだろ? そうなったらやっぱりハナくんか、エミリーちゃんにと思っていたんだよ。もちろん、こんなこと言うのは、エーテルが腕っぷしも強くて信頼に足る護衛隊だからってのもあるんだよ。あの人ならハナを任せても大丈夫だって、だからねわたしは凄く嬉しい、ほんと助かるよ」
それからマーノリアは護衛隊のエーテルに
“ハナになんかあったら、ただじゃおかないからね”そう念を押して依頼料をたっぷりと渡した。
「偉いぞチビ助、男は旅をしてなんぼだからな」
「よろしくお願いします」
ハナは筋骨隆々な護衛隊のエーテルを見てかしこまった。
エーテルの他にも2名の護衛がつくことを知り、ハナは意気揚々と荷馬車に乗った。
「これを持っていきな」
マーノリアが花を形どったピンブローチをハナに手渡した。
「エーテルは旦那を知ってるけど、ハナは知らないだろ? これは私と旦那の思い出の品だからね、それを帽子にでも付ければ旦那も気付くだろうさ」
「分かった、ありがとねマーノリアさん。あとエミリーをよろしくお願いします」
「任せな」
「行ってきます」
ハナとマーノリアは大きく腕を振って別れた。
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花のよもやま話
ご存じの方も多いと思いますが
カモミールティーには
【リラックス効果】
【自律神経を整える効果】
【安眠を促す効果】
などがあります。
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