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第七章 弟切草
秘密
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交易都市イルダ。
マーノリアの花屋。
「マーノリアさん、エミリーは?」
ハナは、目を擦りながらあくび半分で花屋を見回した。
「おはようハナくん。エミリーちゃんは朝早くに出掛けたよ、すぐに戻るからって行先は言わなかった」
魔法を使い、鉢植えに咲く花々に水をあげながらマーノリアは、そう返した。
「どこ行ったんだろう」
「それよりも怪我は大丈夫なのかい?」
巨鳥に負わされた足の怪我は傷跡もなく完治していた。
「うん、ラクチョが消える前に舐めてくれたおかげだと思う」
ダンジョンの奥深くに咲いていたストレリチアの花は、ハナの魔法によって極彩色の巨大な鳥になった。
ハナはその鳥に“ラクチョ”と名付けた。
閉ざされたダンジョンの奥深くで、ラクチョはハナとエミリーをつまむと大きく羽ばたいて、日の光が差し込んでいた天井の穴から外に出た。
ラクチョは、ハナとエミリーを地上に降ろすと、嬉しそうに羽を広げて首を上下に振った。
そして、自らが負わせたハナの傷を舐めた後、再び大きく羽ばたいた。
初めての自由、初めての飛行、ラクチョは甲高い鳴き声で嬉しそうに飛び回った。
やがて日が傾き、ダンジョンに差し込んでいた太陽の光が消えてしまっても、ラクチョは飛び続け、その姿が見えなくなるまで遠くへ飛んで行った。
「行ってしまいましたね」
「うん、凄く嬉しそうだった」
「一体なんだったんでしょうか」
「ストレリチアだよ、極楽鳥花のラクチョだ」
「それは分かりますけど」
「いてて……なんか足の傷が疼いて痛い」
「大丈夫ですか? 舐められて変な菌が入ったんでしょうか」
エミリーは、スカートの裾の一部を魔法で切り取ると、ハナの傷口を塞ぐように包んだ。
「ありがとうエミリー、そろそろマーノリアさんのお店に帰ろう」
「そうですね、ちょっと疲れました」
そうして、ハナの初めてのダンジョン探索は終わり、ボロボロの衣服で帰宅した2人を見たマーノリアは驚き、事情を聞いた後、風呂と食事を与え、店の奥の住居で少し休むように促した。
疲れ切っていたハナは、そうして朝を迎え、エミリーは日が昇る前にファザの所に向かったのだ。
「おはようハナ、朝ごはん食べ終わったら、あんたも手伝いなさいよ」
「おはようジェルベーラ」
ハナの疲労の一番の原因は、ジェルベーラへの説明だった。
花屋に帰宅した後、ジェルベーラの姿がないことに気付いたマーノリアが心配して慌てたので、ハナはすぐに別のガーベラの花に触れ“ブロッサム・インカーネーション”と唱え、裸で現れたジェルベーラに平手打ちを食らったのだ。
「え? 私って死んだんじゃないの?」と、驚きを隠せないジェルベーラだったが、一通りの説明を受け、すぐに理解し、マーノリアの手を取って喜んだ。
そして「もっと、おばさ……マーノリアさんの手伝いをしたいから、この姿のままで居てもいい?」と、懇願したので、むやみやたらにアルテマを使わないことを約束し、ハナは頷いた。
「助かるよジェルベーラ」
マーノリアは、我が子のようにジェルベーラの頭を撫でた。
しかし、喜ぶジェルベーラとは対照的に、マーノリアの表情は曇っていた。
「しっかし、なんでうちの旦那は帰ってこないのかね。みんなが居るから助かってるけどさ。困ったもんだよ、ほんとに」
マーノリアは不安気にそう呟いた。
「大丈夫だよ、僕らが旦那さんの分まで頑張るからね」
「ありがとうねハナくん、でも朝になっちまったから親御さんも心配してるでしょうに、手伝いはジェルベーラだけで大丈夫だから、早く帰ってやんなさい。ああ、そこに朝ごはんのサンドイッチがあるから食べてからね」
マーノリアは、花の手入れをしながらハナを元気付ける様に言った。
「……うん、それなんだけどねマーノリアさん。僕は……その」
「ただいま戻りました」
ハナが返答に困っていると、店のドアが開く。
旦那の帰りを期待したマーノリアだったが、店の中に入ってきたのはエミリーだった。
「まぁ、これはこれで賑やかだから、いいけどね、でも親御さんに心配かけちゃダメダヨハナ。ちゃんと連絡くらいはしておきな。わかったかい?」
「うん……」
煮え切らない返事のハナだったが
「お母様には、私から連絡しておきましたよ」
エミリーのその言葉に、マーノリアは少し安堵した。
「え? エミリー、お母さんに会ってきたの?」
「ええ、心配しているでしょうから、無事だと伝えました」
「そっか、ありがとうエミリー。でも今度は僕も付いていくから起こしてね」
「分かりました」
エミリーは返事をした後、胸が強く締め付けられる思いがした。
マーノリアの花屋。
「マーノリアさん、エミリーは?」
ハナは、目を擦りながらあくび半分で花屋を見回した。
「おはようハナくん。エミリーちゃんは朝早くに出掛けたよ、すぐに戻るからって行先は言わなかった」
魔法を使い、鉢植えに咲く花々に水をあげながらマーノリアは、そう返した。
「どこ行ったんだろう」
「それよりも怪我は大丈夫なのかい?」
巨鳥に負わされた足の怪我は傷跡もなく完治していた。
「うん、ラクチョが消える前に舐めてくれたおかげだと思う」
ダンジョンの奥深くに咲いていたストレリチアの花は、ハナの魔法によって極彩色の巨大な鳥になった。
ハナはその鳥に“ラクチョ”と名付けた。
閉ざされたダンジョンの奥深くで、ラクチョはハナとエミリーをつまむと大きく羽ばたいて、日の光が差し込んでいた天井の穴から外に出た。
ラクチョは、ハナとエミリーを地上に降ろすと、嬉しそうに羽を広げて首を上下に振った。
そして、自らが負わせたハナの傷を舐めた後、再び大きく羽ばたいた。
初めての自由、初めての飛行、ラクチョは甲高い鳴き声で嬉しそうに飛び回った。
やがて日が傾き、ダンジョンに差し込んでいた太陽の光が消えてしまっても、ラクチョは飛び続け、その姿が見えなくなるまで遠くへ飛んで行った。
「行ってしまいましたね」
「うん、凄く嬉しそうだった」
「一体なんだったんでしょうか」
「ストレリチアだよ、極楽鳥花のラクチョだ」
「それは分かりますけど」
「いてて……なんか足の傷が疼いて痛い」
「大丈夫ですか? 舐められて変な菌が入ったんでしょうか」
エミリーは、スカートの裾の一部を魔法で切り取ると、ハナの傷口を塞ぐように包んだ。
「ありがとうエミリー、そろそろマーノリアさんのお店に帰ろう」
「そうですね、ちょっと疲れました」
そうして、ハナの初めてのダンジョン探索は終わり、ボロボロの衣服で帰宅した2人を見たマーノリアは驚き、事情を聞いた後、風呂と食事を与え、店の奥の住居で少し休むように促した。
疲れ切っていたハナは、そうして朝を迎え、エミリーは日が昇る前にファザの所に向かったのだ。
「おはようハナ、朝ごはん食べ終わったら、あんたも手伝いなさいよ」
「おはようジェルベーラ」
ハナの疲労の一番の原因は、ジェルベーラへの説明だった。
花屋に帰宅した後、ジェルベーラの姿がないことに気付いたマーノリアが心配して慌てたので、ハナはすぐに別のガーベラの花に触れ“ブロッサム・インカーネーション”と唱え、裸で現れたジェルベーラに平手打ちを食らったのだ。
「え? 私って死んだんじゃないの?」と、驚きを隠せないジェルベーラだったが、一通りの説明を受け、すぐに理解し、マーノリアの手を取って喜んだ。
そして「もっと、おばさ……マーノリアさんの手伝いをしたいから、この姿のままで居てもいい?」と、懇願したので、むやみやたらにアルテマを使わないことを約束し、ハナは頷いた。
「助かるよジェルベーラ」
マーノリアは、我が子のようにジェルベーラの頭を撫でた。
しかし、喜ぶジェルベーラとは対照的に、マーノリアの表情は曇っていた。
「しっかし、なんでうちの旦那は帰ってこないのかね。みんなが居るから助かってるけどさ。困ったもんだよ、ほんとに」
マーノリアは不安気にそう呟いた。
「大丈夫だよ、僕らが旦那さんの分まで頑張るからね」
「ありがとうねハナくん、でも朝になっちまったから親御さんも心配してるでしょうに、手伝いはジェルベーラだけで大丈夫だから、早く帰ってやんなさい。ああ、そこに朝ごはんのサンドイッチがあるから食べてからね」
マーノリアは、花の手入れをしながらハナを元気付ける様に言った。
「……うん、それなんだけどねマーノリアさん。僕は……その」
「ただいま戻りました」
ハナが返答に困っていると、店のドアが開く。
旦那の帰りを期待したマーノリアだったが、店の中に入ってきたのはエミリーだった。
「まぁ、これはこれで賑やかだから、いいけどね、でも親御さんに心配かけちゃダメダヨハナ。ちゃんと連絡くらいはしておきな。わかったかい?」
「うん……」
煮え切らない返事のハナだったが
「お母様には、私から連絡しておきましたよ」
エミリーのその言葉に、マーノリアは少し安堵した。
「え? エミリー、お母さんに会ってきたの?」
「ええ、心配しているでしょうから、無事だと伝えました」
「そっか、ありがとうエミリー。でも今度は僕も付いていくから起こしてね」
「分かりました」
エミリーは返事をした後、胸が強く締め付けられる思いがした。
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