花ノ魔王

長月 鳥

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第六章 ガーベラ

色欲の魔法使い

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 ハナ達がダンジョンに挑まんとする頃。
 
 「おかしいです、お兄様。どこにも魔法使いの集団は見当たりません。それどころか街の中は平穏そのもの、光魔法の襲撃を受けていたというのは勘違いだったのでしょうか」
 エリナは、千里眼の魔法を使いながら監視を続けていた。
 「光の爆発までは至らなかったが、アルテマの魔法を見間違えるはずがない」
 ワンは眉間にシワを寄せ考え込んだ。
 「おそらく他の国の軍による侵攻……だとすれば、一刻も早く国王に知らせに戻らねば」
 「そうですね、ハナにはエミリーが付いているようですから大丈夫でしょう」
 「ああ、ファザの傀儡となってしまっているが、賢い子だ。今はエミリーに任せよう」
 ワンはそう言うと、乗ってきた馬に跨がった。

 「ハナ、裸の女、アルテマ……最近調べることが多いですね」
 大きく凛々しい騎馬の手綱を握るワンの背中に、幸せそうにしがみつくエリナが言った。
 「そうだな、特に裸の女……今はただの噂話だが気になる」
 「お兄様、女の裸が気になるのですね……(私がいつでも力になるのに)」
 エリナは回した腕に力を込めた。

 「ああ、アララガの兵を惨殺し、魔物を産み出す謎の女。野放しにできん」
 「そうですね、とっても綺麗な女性らしいですからね、早く殺してしまいましょう」
 「同感だ。急ぐぞ、しっかり掴まれ」
 ワンは騎馬を蹴りつけ、速度を上げた。
 「はい、お兄様」
 ワンとエリナがした噂話。
 それはハナが花を人に変える魔法を習得した日を境に、アララガの国の周辺で広がっていた。

 一糸纏わぬ絶世の美女が森を徘徊している。

 その鮮烈な噂話に、色欲に駆られた男達が探索に勇み、そして帰って来なかった。
 男達の捜索願いがアララガ国王軍に届き、軍務として数名が駆り出されたが、やはり帰らぬ者となった。
 追加で出された捜索隊が発見したのは爆散した兵の遺体だった。

 「色欲の魔法使いが、男を殺し、その血肉を食らい、魔物を産み落とす」
 その噂話は瞬く間に広がり、生き証人達はこぞって警告する。
 「花の匂い、甘い香りがしたら迷わず逃げろ」
 やがて、アララガ軍上層部にまで伝わり、今に至る。

 「花の匂い……花を人に変える魔法……お兄様、ハナの魔法が関係している可能性は?」
 エリナが感を働かせ、兄に尋ねた。
 「……あるいは、あのアルテマも……いや、憶測は破滅を招く」
 そう自らに言い聞かせたワンだったが、彼岸花の引き起こした殺戮を鑑みても、ハナの魔法が不穏な胸騒ぎの元凶であることは確かだった。


 ✿

 ハナが立ち入ったダンジョン内。
 「アルテマッ」
 「はいっアルテマ」
 「アルテ~マ」
 「アルテマ、アルテマっと」
 「もー面倒くさいから纏めてアルテマー」
 「アルッテマ、アルッテマ、アルッテマ~アルテマあれば余裕でしょ♪」
 最後には替え歌交じりで生息する魔物を蹂躙するジェルベーラの姿があった。

 無尽蔵の魔力と、光魔法の威力を目の当たりにするハナとエミリーはジェルベーラに導かれるままに、ダンジョン最深部へ到着したのだった。
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