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第六章 ガーベラ
冒険心
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ハナは木の枝を振り回しながら、街の近くの森を歩いていた。
「ジェルベーラさん、シャツ1枚で出歩くのは今後控えた方がいいと思いますよ」
エミリーの言う通り、マーノリアさんが急いで用意した夫の大きなシャツを着ただけで満足げにハナの後をついていくジェルベーラは街を出るときに注目の的だった。
「なんでですか?」
ジェルベーラは首を傾げて続けた。
「ああそうか、人は下着というものを身に付けるんですよね。別に大事な所が隠れていればいいのに、煩わしいですね」
「今は人なんだから、人のルールを守らないと大変なことになりますよ」
モンシターと間違われたレンリや、ジェルベーラの魔法、ハナを監視する為にはできるだけ目立たぬように振舞うことに重きを置かねばならないのに、エミリーは頭を抱えていた。
「人だって愛し合うときは全開じゃない」
「ぜ、全開?」
一番に反応したのはハナだった。
「花が繁殖のために全てをさらけ出して咲くのと一緒ってことよ、そのルールなら同じでしょ?」
「そ、そんなルール知りませんよ」
必死に否定するエミリーだったが、その恥じらう姿はジェルベーラの悪戯心に火を付けただけだった。
「ふ~ん、じゃあエミリーはまだなんだね~」
「な、なにがですか」
「まぁしょうがないか、まだおこちゃまだものね」
ジェルベーラはそう言うと、エミリーの頭を撫でた。
「失礼な、私はもう十分大人です。父上にも認められています」
ジェルベーラの手を振り払い「きっと認めてくれている」と小さく呟いた。
「父上っ、ぷっ」
「なにがおかしいんですか」
「いいえ別に、ちょっと可愛らしいなって」
「失礼なっ」
頬を膨らませるエミリーに背を向け、ジェルベーラはハナのもとへ駆け寄る。
「マーノリアさんから頼まれた仕事の最中なんだから、仲良くしなきゃ怒られるよ」
ハナは会話に入るきっかけを掴めず、少し嫉妬していた。
「おばさまに怒られるのは、ちょっと嫌だから、もう言わないわ」
「どっちがおこちゃまですか」
「ちょっと2人とも真面目に探してよ」
「そういえば全然見当たらないですね……というか花が一つも咲いていない」
マーノリアの店を出て半刻以上過ぎただろう、そろそろ店に戻っても良い頃合いだ。
花を見つけて摘んで帰るだけの簡単な仕事だったハズだが、その花がいっこうに見つからない。
暇を持て余したハナが木の枝を振る理由にも頷けた。
「なんでだろう、こんなに青々とした森なのにね」
ハナも不思議に思う。
「あっ、あれって……」
エミリーが指差した先には、うっそうと生い茂る森の木々の間で、大きな口を開いた魔物のような洞窟があった。
「ダンジョン? ダンジョンだよね? 初めて見た」
ハナは興奮気味に言った。
「ダンジョンですね……」
当初はハナの力量を試す場としてのダンジョンを魅力的にとらえていたエミリーだったが、マーノリアの忠告を思い返し、足を止めた。
「引き返しましょう。マーノリアさんにはストレリチアは咲いていなかったと報告します」
花を摘みに来てダンジョンに潜ることがいかに愚策か、エミリーは心得ている。
「えーせっかく見つけたのに、ちょっとぐらい探索しようよ」
「ダメです。準備を整えてからまた来ましょう」
「そうだ、ストレリチアは湿度の高いじめじめした場所が好きなんだ。もしかしたらダンジョンの中で咲いているかもしれない」
「ダメです。危険です」
エミリーは首を横に振り続けた。
「どうして危険なの?」
その姿にジェルベーラが疑問を投げかけた。
「どうしてって、ダンジョンにはモンスターがうじゃうじゃいます。私はともかく、ハナには荷が重すぎるかと」
「大丈夫でしょ」
ジェルベーラはそう言うと、ダンジョンの入口で左手を腰につけ、右手人差し指を立てて自信ありげに続けた。
「私の【アルテマ】があればね」
「おおぉ」
ハナはその姿に目を輝かせた。
「ジェルベーラさん、シャツ1枚で出歩くのは今後控えた方がいいと思いますよ」
エミリーの言う通り、マーノリアさんが急いで用意した夫の大きなシャツを着ただけで満足げにハナの後をついていくジェルベーラは街を出るときに注目の的だった。
「なんでですか?」
ジェルベーラは首を傾げて続けた。
「ああそうか、人は下着というものを身に付けるんですよね。別に大事な所が隠れていればいいのに、煩わしいですね」
「今は人なんだから、人のルールを守らないと大変なことになりますよ」
モンシターと間違われたレンリや、ジェルベーラの魔法、ハナを監視する為にはできるだけ目立たぬように振舞うことに重きを置かねばならないのに、エミリーは頭を抱えていた。
「人だって愛し合うときは全開じゃない」
「ぜ、全開?」
一番に反応したのはハナだった。
「花が繁殖のために全てをさらけ出して咲くのと一緒ってことよ、そのルールなら同じでしょ?」
「そ、そんなルール知りませんよ」
必死に否定するエミリーだったが、その恥じらう姿はジェルベーラの悪戯心に火を付けただけだった。
「ふ~ん、じゃあエミリーはまだなんだね~」
「な、なにがですか」
「まぁしょうがないか、まだおこちゃまだものね」
ジェルベーラはそう言うと、エミリーの頭を撫でた。
「失礼な、私はもう十分大人です。父上にも認められています」
ジェルベーラの手を振り払い「きっと認めてくれている」と小さく呟いた。
「父上っ、ぷっ」
「なにがおかしいんですか」
「いいえ別に、ちょっと可愛らしいなって」
「失礼なっ」
頬を膨らませるエミリーに背を向け、ジェルベーラはハナのもとへ駆け寄る。
「マーノリアさんから頼まれた仕事の最中なんだから、仲良くしなきゃ怒られるよ」
ハナは会話に入るきっかけを掴めず、少し嫉妬していた。
「おばさまに怒られるのは、ちょっと嫌だから、もう言わないわ」
「どっちがおこちゃまですか」
「ちょっと2人とも真面目に探してよ」
「そういえば全然見当たらないですね……というか花が一つも咲いていない」
マーノリアの店を出て半刻以上過ぎただろう、そろそろ店に戻っても良い頃合いだ。
花を見つけて摘んで帰るだけの簡単な仕事だったハズだが、その花がいっこうに見つからない。
暇を持て余したハナが木の枝を振る理由にも頷けた。
「なんでだろう、こんなに青々とした森なのにね」
ハナも不思議に思う。
「あっ、あれって……」
エミリーが指差した先には、うっそうと生い茂る森の木々の間で、大きな口を開いた魔物のような洞窟があった。
「ダンジョン? ダンジョンだよね? 初めて見た」
ハナは興奮気味に言った。
「ダンジョンですね……」
当初はハナの力量を試す場としてのダンジョンを魅力的にとらえていたエミリーだったが、マーノリアの忠告を思い返し、足を止めた。
「引き返しましょう。マーノリアさんにはストレリチアは咲いていなかったと報告します」
花を摘みに来てダンジョンに潜ることがいかに愚策か、エミリーは心得ている。
「えーせっかく見つけたのに、ちょっとぐらい探索しようよ」
「ダメです。準備を整えてからまた来ましょう」
「そうだ、ストレリチアは湿度の高いじめじめした場所が好きなんだ。もしかしたらダンジョンの中で咲いているかもしれない」
「ダメです。危険です」
エミリーは首を横に振り続けた。
「どうして危険なの?」
その姿にジェルベーラが疑問を投げかけた。
「どうしてって、ダンジョンにはモンスターがうじゃうじゃいます。私はともかく、ハナには荷が重すぎるかと」
「大丈夫でしょ」
ジェルベーラはそう言うと、ダンジョンの入口で左手を腰につけ、右手人差し指を立てて自信ありげに続けた。
「私の【アルテマ】があればね」
「おおぉ」
ハナはその姿に目を輝かせた。
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