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第一章 シクラメン
綿密な判断
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「無能なくせに歯向かうんじゃねぇよバ~カ」
「お前らなんか魔法使わなくたって余裕なんだよハナくそぉ」
「地面に這いつくばってそこら辺の雑草と会話してろ」
勢いに任せてワッチ達に飛び掛かったシーラとそれに便乗したハナだったが、ワッチ一人の腕力に負けた。
「なんで……こんなやつらに負けないと思ったんだけどな」
「だから無理だって言ったんだよ。もういいからシーラはなにもしないで」
地面に倒れ、泥だらけのハナとシーラ。
ハナは、シーラを庇うように立ち上がった。
「ダメだ。その女も魔法の練習に付き合ってもらう、服が燃えても泣くなよ」
ワッチはシーラを指差し、ベンとロイはそれを見て薄ら笑いを浮かべる。
「ダメだ、シーラは関係ないよ」
「関係あるね、先に殴りかかってきたのはそっちだ。先生に言い付けてやってもいいんだぜ。誰だか知らねぇ女は自警団にでも連れてってもらおう」
「そんな……」
自警団はハナが暮らす国の犯罪を阻止、撲滅することを名目に活動する国家直属の集団で、目的のため、国王のためなら手段を選ばず、国民から恐れられている。特に子供の間では連行されたら泣いても許してもらえない恐怖の象徴として有名だった。
「自警団? ただのサボり魔集団でしょ?」
自警団本部周辺にも咲いているシクラメンの花。シーラの情報網では怠慢な自警団員たちの活動が見て取れた。
「強がったって無駄だよクソ女」
「なっ、あんたみたいなクソガキに嘘ついてもしょうがないし、というか私あんたのことも知ってるよ」
シーラはワッチを指差して続ける。
「夜中に窓の外を眺めてママ、ママって泣いているじゃない」
「は、はぁ? ふざけんなクソ女、俺がそんなこと言うわけねぇぶん殴るぞ」
ワッチは酷く動揺して拳で威嚇した。
「そっちの小さいのは、未だにおねしょして早朝にお布団干してるし」
「そっちの眼鏡は、お風呂場を除いてモゾモゾとなにかしてるよね」
シーラは、ロイとベンの情報の一部を語った。
「「なっ……」」と、二人は顔を真っ赤にして絶句した。
「凄いよシーラ、それ本当なの? お花になっているときに見ているってこと?」
「そうね、私が咲いている場所のことならなんでも聞いて。あっ、でもここから離れた場所のことはボンヤリとしか分からないな。もしかしたらハナが魔法を使った場所で把握できる範囲が決まるのかも?」
「そうなんだ、なんか千里眼の魔法みたいだね。となると他のお花さんも……」
明らかになったシーラの能力にテンションが上がるハナ。
「うるせぇぞ、ハナくそども、デタラメばかり言いやがって、なぁお前ら」
「ほんとですよ」
「嘘つきだ。自警団に突きだそう」
ワッチ達は、動揺を隠すように意見を会わせるが顔はひきつっている。
「まだまだ、あるけど。聞く?」
手応えを感じたシーラは挑発を続けた。
「もう手加減しねぇ。おい、魔法をぶっぱなせ」
「泣いても許さねぇからな」
ワッチ達は指先に火の玉、氷の玉、岩の玉を作り出して構える。
「どうしようシーラ、怪我じゃ済まなくなるよ」
ハナはシーラを庇いながら震えた。
「ちょっと、からかい過ぎたわね。でもハナ、私も最初から力じゃなくって魔法を使えばよかったのよ」
「え? 魔法? 使えるの?」
「たぶん」
「たぶんって……」
シーラが最初にみせた自信は自身に滾る魔力だった。
力はハナと変わりないが、魔力に関してはイメージ出来ていないだけで確かに手応えを感じる。
「私には毒があるって言ったじゃない」
「うん」
「使うわよ、ハナにも影響あったらゴメンね」
「え?」
シーラはそう言うと、両手を構えて踏ん張った。
「なんだこの匂い」
ロイが最初に気付く。
「いい匂いだな、甘い花のような」
ベンの鼻もピクピクと反応した。
「うっ……」
ワッチは腹部に以上を感じ、手で擦った。
「なんだろうこの匂い、シーラから出てる?」
ハナがそう言った直後、ワッチ達の腹部からゴロゴロと雷の様な音が響く。
「うっ、ちょっとトイレに……」
「俺も…」
「同じく……」
ワッチ達は両手でお尻を抑えると、内股で走り去った。
「どうやら成功のようね」
シーラが誇らしげに親指を立てる。
「え? なにが起こったの?」
ハナは不思議そうにシーラの顔を見つめる。
「毒を放出してみたの」
「毒? シクラメンの花の?」
「そう、下痢しろって感じで」
「ふぇ~そんな魔法が使えるんだ。凄いねシーラ」
「どんなもんよ。けどハナは平気なんだね」
「うん、平気みたい」
「私を呼び出した本人だからかな?」
シーラの予想は概ね当たっていた。
ハナの魔法で人の姿を手に入れた花は、世界中に咲いている同種の花と感覚を共有出来る。
見たこと感じたことを記憶しており、それを自分の情報として扱える。
だが、人になった場所から遠く離れて咲いている花の記憶はおぼろ気ではっきりとしない。それはハナの魔力量が関係しており、今はまだ範囲が狭い。
そして、人に成った花はそれぞれ固有の魔法が使える。
それがハナのイメージしたものなのか、はたまた花が有史から持っているものなのか、今はまだハナの理解は及ばないが、花が使う魔法の耐性をハナが持っているのは確かだった。
「お前らなんか魔法使わなくたって余裕なんだよハナくそぉ」
「地面に這いつくばってそこら辺の雑草と会話してろ」
勢いに任せてワッチ達に飛び掛かったシーラとそれに便乗したハナだったが、ワッチ一人の腕力に負けた。
「なんで……こんなやつらに負けないと思ったんだけどな」
「だから無理だって言ったんだよ。もういいからシーラはなにもしないで」
地面に倒れ、泥だらけのハナとシーラ。
ハナは、シーラを庇うように立ち上がった。
「ダメだ。その女も魔法の練習に付き合ってもらう、服が燃えても泣くなよ」
ワッチはシーラを指差し、ベンとロイはそれを見て薄ら笑いを浮かべる。
「ダメだ、シーラは関係ないよ」
「関係あるね、先に殴りかかってきたのはそっちだ。先生に言い付けてやってもいいんだぜ。誰だか知らねぇ女は自警団にでも連れてってもらおう」
「そんな……」
自警団はハナが暮らす国の犯罪を阻止、撲滅することを名目に活動する国家直属の集団で、目的のため、国王のためなら手段を選ばず、国民から恐れられている。特に子供の間では連行されたら泣いても許してもらえない恐怖の象徴として有名だった。
「自警団? ただのサボり魔集団でしょ?」
自警団本部周辺にも咲いているシクラメンの花。シーラの情報網では怠慢な自警団員たちの活動が見て取れた。
「強がったって無駄だよクソ女」
「なっ、あんたみたいなクソガキに嘘ついてもしょうがないし、というか私あんたのことも知ってるよ」
シーラはワッチを指差して続ける。
「夜中に窓の外を眺めてママ、ママって泣いているじゃない」
「は、はぁ? ふざけんなクソ女、俺がそんなこと言うわけねぇぶん殴るぞ」
ワッチは酷く動揺して拳で威嚇した。
「そっちの小さいのは、未だにおねしょして早朝にお布団干してるし」
「そっちの眼鏡は、お風呂場を除いてモゾモゾとなにかしてるよね」
シーラは、ロイとベンの情報の一部を語った。
「「なっ……」」と、二人は顔を真っ赤にして絶句した。
「凄いよシーラ、それ本当なの? お花になっているときに見ているってこと?」
「そうね、私が咲いている場所のことならなんでも聞いて。あっ、でもここから離れた場所のことはボンヤリとしか分からないな。もしかしたらハナが魔法を使った場所で把握できる範囲が決まるのかも?」
「そうなんだ、なんか千里眼の魔法みたいだね。となると他のお花さんも……」
明らかになったシーラの能力にテンションが上がるハナ。
「うるせぇぞ、ハナくそども、デタラメばかり言いやがって、なぁお前ら」
「ほんとですよ」
「嘘つきだ。自警団に突きだそう」
ワッチ達は、動揺を隠すように意見を会わせるが顔はひきつっている。
「まだまだ、あるけど。聞く?」
手応えを感じたシーラは挑発を続けた。
「もう手加減しねぇ。おい、魔法をぶっぱなせ」
「泣いても許さねぇからな」
ワッチ達は指先に火の玉、氷の玉、岩の玉を作り出して構える。
「どうしようシーラ、怪我じゃ済まなくなるよ」
ハナはシーラを庇いながら震えた。
「ちょっと、からかい過ぎたわね。でもハナ、私も最初から力じゃなくって魔法を使えばよかったのよ」
「え? 魔法? 使えるの?」
「たぶん」
「たぶんって……」
シーラが最初にみせた自信は自身に滾る魔力だった。
力はハナと変わりないが、魔力に関してはイメージ出来ていないだけで確かに手応えを感じる。
「私には毒があるって言ったじゃない」
「うん」
「使うわよ、ハナにも影響あったらゴメンね」
「え?」
シーラはそう言うと、両手を構えて踏ん張った。
「なんだこの匂い」
ロイが最初に気付く。
「いい匂いだな、甘い花のような」
ベンの鼻もピクピクと反応した。
「うっ……」
ワッチは腹部に以上を感じ、手で擦った。
「なんだろうこの匂い、シーラから出てる?」
ハナがそう言った直後、ワッチ達の腹部からゴロゴロと雷の様な音が響く。
「うっ、ちょっとトイレに……」
「俺も…」
「同じく……」
ワッチ達は両手でお尻を抑えると、内股で走り去った。
「どうやら成功のようね」
シーラが誇らしげに親指を立てる。
「え? なにが起こったの?」
ハナは不思議そうにシーラの顔を見つめる。
「毒を放出してみたの」
「毒? シクラメンの花の?」
「そう、下痢しろって感じで」
「ふぇ~そんな魔法が使えるんだ。凄いねシーラ」
「どんなもんよ。けどハナは平気なんだね」
「うん、平気みたい」
「私を呼び出した本人だからかな?」
シーラの予想は概ね当たっていた。
ハナの魔法で人の姿を手に入れた花は、世界中に咲いている同種の花と感覚を共有出来る。
見たこと感じたことを記憶しており、それを自分の情報として扱える。
だが、人になった場所から遠く離れて咲いている花の記憶はおぼろ気ではっきりとしない。それはハナの魔力量が関係しており、今はまだ範囲が狭い。
そして、人に成った花はそれぞれ固有の魔法が使える。
それがハナのイメージしたものなのか、はたまた花が有史から持っているものなのか、今はまだハナの理解は及ばないが、花が使う魔法の耐性をハナが持っているのは確かだった。
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