転生したらゲームセンター店員だった件

長月 鳥

文字の大きさ
上 下
6 / 7

大罪

しおりを挟む
 「もしもし、手雲です。社長ですか?」
 状況から鑑みて、私自身に非があるのではなく会社の問題である可能性が高い。社長なら何か知っているハズ。藁にもすがる思いで携帯を手に取った。
 「ああ手雲君。すまんね、すぐ終わるから、その人たちの指示に従っていいから、なんにも心配いないから、林田君みたいに暴れんでね、ガハハハハハ……」
 いつもの社長の声色だ。動揺など一切感じられない。それに魔力が戻り千里眼の魔法を使用したと勘違いしてしまうくらいに林田店長の飛び蹴りする姿が頭に浮かんだ。あの人ならたとえ相手が国税局の人でも躊躇しないだろう。なんだか少し心が和んだ。
 「分かりました。失礼します」
 こんな状況を招いた原因に思い当たる節があったが、今は我慢しよう。私は静かに通話を切った。
 しばらくして家の中を調べていた男が戻ってきて、私を引き留めていた男に目配せした後、首を横に振って玄関を出て行った。失礼な男だ。礼儀がなっていない。私が元居た世界であればすぐにでも組織から追放される対象だろう。あるいは僻地への左遷か。名前を聞いていればクレームを入れることも可能だろうが、あまり関わりたくはないから許してやるとしよう。

 「それでは手雲さん。我々はこれで失礼します」
 残っていた男も背中を向けてそう言った。
 「あっ、ちょっと」
 人の家に勝手に上がり込んで、さんざん引っ搔き回して、はいそうですかと引き下がるとでも思っているのか?
 「ご理解いただけない点がございましたら、当局までご連絡ください」
 その言葉だけ残し、男は出て行った。
 理解できないことだらけだが連絡はしない。これ以上関わっても碌なことが無いのは目に見えていたからだ。それよりも考えるのはこの後どうするか。テレビドラマなどでは、ああいった国の手の者が入った会社は社会的な立場が悪くなる。下手をすれば営業停止。既に私の管轄するゲーセンが差し押さえられている可能性も……。そんなことになれば、私の使命の妨げになることは必至。店のオープンまではまだ時間があるが、私は支度をして家を後にした。
 
 朝の繁華街。出勤の人波が増え始め街が動き出そうとしているこの感じは好きだ。元の世界の城下町と似ている気がする……だが今はそんな感傷に浸っている場合ではない。あの世界に帰るためにはゲーセン業界、延いては私の勤める店舗の危機を救わねば。
 社宅から自転車で10分。店の前に着いたが特段変わった様子はない。スーツの男達の姿もなく、目に入るのは設定の良いスロット台を確保するために並んでいる常連さん数名と、新作にアップデートされた音ゲー目当ての若い男女だけ。見慣れた風景で安心を覚える。

 不意に私の携帯が振動した。表示されている相手は社長だ。
 「ああ、手雲君かい、無事に解放されたかい? いや悪かったね、心配しないで、普通に店を開けちゃって大丈夫だからね」
 社長は申し訳なさそうに言ったが、声色はどことなく楽しそうだった。
 実を言うと私も少し興奮していた。なんだか後になって考えるとテレビドラマの主人公にでもなったような、そんな感覚さえ覚える不思議な体験だった。
 「大丈夫です。それよりもあの人達が来た理由って……」
 興奮していたからだろうか、思わず本音が出てしまった。こんなことを聞いて社長が真相を話すとは思えない、きっと会社を経営するうえで何か不手際があったのだろう、考えられるとしたら税金滞納か? いや、わざわざ会計事務所から人を雇っているのだから有り得ない。
 「ああ、あれだよカードゲームの」社長はすぐに応えた。
 「カードゲーム?」その言葉に合点のいかない私は聞き返した。
 カードゲーム機と国税局に一体どういう関係があるというのだろう。
 「ああ、そうか手雲君は知らなかったね。うん、まぁ後で皆で集まろうか。お店を大きくするためには大事な話だからね」
 社長はそう言って電話を切った。

 その後、しばらくして林田店長からも連絡があり、いづれ分かることだからと、今回の騒動の理由を話してくれた。

 社長が、いや、私が勤めるゲームセンターが犯した大罪。禁忌ともいえる行為。

 それは、アーケードゲーム機からだけ払いだされるトレーディングカードの転売であった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

処理中です...