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大罪
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「もしもし、手雲です。社長ですか?」
状況から鑑みて、私自身に非があるのではなく会社の問題である可能性が高い。社長なら何か知っているハズ。藁にもすがる思いで携帯を手に取った。
「ああ手雲君。すまんね、すぐ終わるから、その人たちの指示に従っていいから、なんにも心配いないから、林田君みたいに暴れんでね、ガハハハハハ……」
いつもの社長の声色だ。動揺など一切感じられない。それに魔力が戻り千里眼の魔法を使用したと勘違いしてしまうくらいに林田店長の飛び蹴りする姿が頭に浮かんだ。あの人ならたとえ相手が国税局の人でも躊躇しないだろう。なんだか少し心が和んだ。
「分かりました。失礼します」
こんな状況を招いた原因に思い当たる節があったが、今は我慢しよう。私は静かに通話を切った。
しばらくして家の中を調べていた男が戻ってきて、私を引き留めていた男に目配せした後、首を横に振って玄関を出て行った。失礼な男だ。礼儀がなっていない。私が元居た世界であればすぐにでも組織から追放される対象だろう。あるいは僻地への左遷か。名前を聞いていればクレームを入れることも可能だろうが、あまり関わりたくはないから許してやるとしよう。
「それでは手雲さん。我々はこれで失礼します」
残っていた男も背中を向けてそう言った。
「あっ、ちょっと」
人の家に勝手に上がり込んで、さんざん引っ搔き回して、はいそうですかと引き下がるとでも思っているのか?
「ご理解いただけない点がございましたら、当局までご連絡ください」
その言葉だけ残し、男は出て行った。
理解できないことだらけだが連絡はしない。これ以上関わっても碌なことが無いのは目に見えていたからだ。それよりも考えるのはこの後どうするか。テレビドラマなどでは、ああいった国の手の者が入った会社は社会的な立場が悪くなる。下手をすれば営業停止。既に私の管轄するゲーセンが差し押さえられている可能性も……。そんなことになれば、私の使命の妨げになることは必至。店のオープンまではまだ時間があるが、私は支度をして家を後にした。
朝の繁華街。出勤の人波が増え始め街が動き出そうとしているこの感じは好きだ。元の世界の城下町と似ている気がする……だが今はそんな感傷に浸っている場合ではない。あの世界に帰るためにはゲーセン業界、延いては私の勤める店舗の危機を救わねば。
社宅から自転車で10分。店の前に着いたが特段変わった様子はない。スーツの男達の姿もなく、目に入るのは設定の良いスロット台を確保するために並んでいる常連さん数名と、新作にアップデートされた音ゲー目当ての若い男女だけ。見慣れた風景で安心を覚える。
不意に私の携帯が振動した。表示されている相手は社長だ。
「ああ、手雲君かい、無事に解放されたかい? いや悪かったね、心配しないで、普通に店を開けちゃって大丈夫だからね」
社長は申し訳なさそうに言ったが、声色はどことなく楽しそうだった。
実を言うと私も少し興奮していた。なんだか後になって考えるとテレビドラマの主人公にでもなったような、そんな感覚さえ覚える不思議な体験だった。
「大丈夫です。それよりもあの人達が来た理由って……」
興奮していたからだろうか、思わず本音が出てしまった。こんなことを聞いて社長が真相を話すとは思えない、きっと会社を経営するうえで何か不手際があったのだろう、考えられるとしたら税金滞納か? いや、わざわざ会計事務所から人を雇っているのだから有り得ない。
「ああ、あれだよカードゲームの」社長はすぐに応えた。
「カードゲーム?」その言葉に合点のいかない私は聞き返した。
カードゲーム機と国税局に一体どういう関係があるというのだろう。
「ああ、そうか手雲君は知らなかったね。うん、まぁ後で皆で集まろうか。お店を大きくするためには大事な話だからね」
社長はそう言って電話を切った。
その後、しばらくして林田店長からも連絡があり、いづれ分かることだからと、今回の騒動の理由を話してくれた。
社長が、いや、私が勤めるゲームセンターが犯した大罪。禁忌ともいえる行為。
それは、アーケードゲーム機からだけ払いだされるトレーディングカードの転売であった。
状況から鑑みて、私自身に非があるのではなく会社の問題である可能性が高い。社長なら何か知っているハズ。藁にもすがる思いで携帯を手に取った。
「ああ手雲君。すまんね、すぐ終わるから、その人たちの指示に従っていいから、なんにも心配いないから、林田君みたいに暴れんでね、ガハハハハハ……」
いつもの社長の声色だ。動揺など一切感じられない。それに魔力が戻り千里眼の魔法を使用したと勘違いしてしまうくらいに林田店長の飛び蹴りする姿が頭に浮かんだ。あの人ならたとえ相手が国税局の人でも躊躇しないだろう。なんだか少し心が和んだ。
「分かりました。失礼します」
こんな状況を招いた原因に思い当たる節があったが、今は我慢しよう。私は静かに通話を切った。
しばらくして家の中を調べていた男が戻ってきて、私を引き留めていた男に目配せした後、首を横に振って玄関を出て行った。失礼な男だ。礼儀がなっていない。私が元居た世界であればすぐにでも組織から追放される対象だろう。あるいは僻地への左遷か。名前を聞いていればクレームを入れることも可能だろうが、あまり関わりたくはないから許してやるとしよう。
「それでは手雲さん。我々はこれで失礼します」
残っていた男も背中を向けてそう言った。
「あっ、ちょっと」
人の家に勝手に上がり込んで、さんざん引っ搔き回して、はいそうですかと引き下がるとでも思っているのか?
「ご理解いただけない点がございましたら、当局までご連絡ください」
その言葉だけ残し、男は出て行った。
理解できないことだらけだが連絡はしない。これ以上関わっても碌なことが無いのは目に見えていたからだ。それよりも考えるのはこの後どうするか。テレビドラマなどでは、ああいった国の手の者が入った会社は社会的な立場が悪くなる。下手をすれば営業停止。既に私の管轄するゲーセンが差し押さえられている可能性も……。そんなことになれば、私の使命の妨げになることは必至。店のオープンまではまだ時間があるが、私は支度をして家を後にした。
朝の繁華街。出勤の人波が増え始め街が動き出そうとしているこの感じは好きだ。元の世界の城下町と似ている気がする……だが今はそんな感傷に浸っている場合ではない。あの世界に帰るためにはゲーセン業界、延いては私の勤める店舗の危機を救わねば。
社宅から自転車で10分。店の前に着いたが特段変わった様子はない。スーツの男達の姿もなく、目に入るのは設定の良いスロット台を確保するために並んでいる常連さん数名と、新作にアップデートされた音ゲー目当ての若い男女だけ。見慣れた風景で安心を覚える。
不意に私の携帯が振動した。表示されている相手は社長だ。
「ああ、手雲君かい、無事に解放されたかい? いや悪かったね、心配しないで、普通に店を開けちゃって大丈夫だからね」
社長は申し訳なさそうに言ったが、声色はどことなく楽しそうだった。
実を言うと私も少し興奮していた。なんだか後になって考えるとテレビドラマの主人公にでもなったような、そんな感覚さえ覚える不思議な体験だった。
「大丈夫です。それよりもあの人達が来た理由って……」
興奮していたからだろうか、思わず本音が出てしまった。こんなことを聞いて社長が真相を話すとは思えない、きっと会社を経営するうえで何か不手際があったのだろう、考えられるとしたら税金滞納か? いや、わざわざ会計事務所から人を雇っているのだから有り得ない。
「ああ、あれだよカードゲームの」社長はすぐに応えた。
「カードゲーム?」その言葉に合点のいかない私は聞き返した。
カードゲーム機と国税局に一体どういう関係があるというのだろう。
「ああ、そうか手雲君は知らなかったね。うん、まぁ後で皆で集まろうか。お店を大きくするためには大事な話だからね」
社長はそう言って電話を切った。
その後、しばらくして林田店長からも連絡があり、いづれ分かることだからと、今回の騒動の理由を話してくれた。
社長が、いや、私が勤めるゲームセンターが犯した大罪。禁忌ともいえる行為。
それは、アーケードゲーム機からだけ払いだされるトレーディングカードの転売であった。
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