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2004年~2005年
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2004年末、麻雀ネット倶楽部のバージョンアップ作業に始まり、対抗馬のネットワーク対戦麻雀NJ2やカードゲームの金字塔WWFF(ワールド・ワイド・フットボール・ファイト)の入荷作業。やめろと言うのにお客さんがメダルやゴミを投げつけて度々壊れるG1ローディングデサイアの馬フィギュア修理などを経て、私はバイトリーダーとなった。
まぁ一番の理由は先輩方が軒並み居なくなったからだろう、消去法ってやつだ。
クレサ騒動の後、すぐに店員募集が行われ、瞬く間に定員となった。
業績が右肩上がりのゲーセン業界。時給はコンビニの比較にならないくらい高額な時給1000円スタート(2004年、東京の最低賃金は710円)なので当然だ。22時以降の夜勤手当なんてついて残業した日には社員よりも給料が高かったりするから、林田店長には愚痴をこぼされる始末だが、生活が潤うのは大歓迎。業界を救うためにはこの体の体調管理が絶対だからな。
ここで私の使命に賛同した新たな仲間達を紹介しよう。
・佐村くん(20歳)自称ギタリスト。
バンド活動が忙しいと遅刻、休みがち、肉親、親族の危篤者多数だが未だ死者数0名。
・由香さん(28歳)バツイチ子供二人。
お客さん受けがかなり良い。
・良二くん(21歳)文系ボーイ無自覚イケメン。
男性のお客さんからは評判悪い。
・菊池くん(18歳)音ゲーマニア。
音ゲーコーナーへ巡回しがち、自称ギタリストと音楽性の違いで喧嘩しがち。
・真理ちゃん(22歳)普通に美人。
だが、年齢詐称疑惑あり。
・正美さん(25歳)アネキ系。
面倒見が良いのでバイトリーダーの座が危うい。
・横井さん(23歳)男。
普通。あまりやる気が無い。
・川田さん(28歳)趣味ギャンブル。
お客さんの遊んでいるスロットばかり気にするが、目押しが上手いのでお年寄りから人気。
・瞳ちゃん(19歳)今までで入ったバイトの中で一番可愛い。
お客さんに言い寄られることが多いが、困り顔も可愛いからどうしようもない。
以上が半年間にドタキャン、バックレ、不正でクビ、もしくは自主退社した仲間達だ。
ゲーセン業界を救うためには、まず人材育成が必須かもしれない。
地獄の年末年始を乗り切るために、林田店長の飛び蹴りを食らってでも、バイトを貸してもらわねば……。
そうして過酷なワンオペ勤務を経て、無事店内で除夜の鐘を聞くことが出来た。ゲームセンターはお客様のために年中無休で遊戯を提供することが使命だから全然苦じゃないし、常連さんと年を越すのは楽しいけど、なんだか最近体の調子が……まぁ少し疲れているだけだろう。
そうして迎えた2005年。今後のゲーセン業界を担うであろうアーケードゲーム機が3機種登場した。
1、大・三国志開戦
WWFF(ワールド・ワイド・フットボール・ファイト)で火の付いたトレーディングカードゲームは、この大・三国志開戦で一気に盛り上がり、1台あたりの売上はカード代を抜いても1日約5万、1店舗に8台設置なら一日で四十万を稼ぎ出す、設置型ビジネスの最高傑作となった。
競馬ゲームのフィギュアほど手間も掛からず。カード切れだけ対応していればお金が入ってくるのだから経営者は潤ってしょうがないだろう。まぁしばらくするとカードを識別するセンサー不具合だったり、カードの管理だったりで苦労するのだが、それはまた別の機会にするとしよう。
2、スーパータイラントホース2
メダルゲーム機も負けてはいない。育成型競馬ゲーム機のスタホ2はメダルの大人買いを流行させた。通常、メダル貸出機で1000円200枚を借りてメダルゲームをプレイするのだが、大人買いは、接客カウンターで店員に10000円から50000円を手渡しして、一度に2000枚から10000枚のメダルを借りる行為で、金額に応じて100枚~1000枚のメダルが付与される。お金に余裕のある紳士淑女の方々が利用するお得なサービスだが、貸出機を経由せずに現金を店員に渡すという行為は、大きな過ちの種となりえる為、基本的に店長やバイトリーダーが対応するのだが……これもまた別の機会に話そう。
余談なのだが、スタホ2筐体のお値段は、新築の一軒家が購入できる金額である。そう、ざっと3000万円するのだ。メーカー直営店ではない街の小さなゲームセンターがどうしてそんな買い物ができるのか当時の私には知る由もなかったが、なんとその費用はスタホ2稼働開始から2、3ヶ月で余裕でペイできた。つまりその後は、3ヶ月ごとに新築一軒分の売り上げが見込めるのだ。メーカー側も有償バージョンアップの回数や費用を増やしたりと、思うようには行かないが、ゲーセン業界は間違いなく潤った。
3、ザ・アイドルマイスター
一言で言うとアイドルを育成するゲームである。
売上的には前者にだいぶ劣っていたが、このゲームは必ず伝説のゲームになるっ。自分で自分の店のゲームをプレイするのは基本的には禁止だが、テストプレイを口実にして触れた瞬間そう感じた。
確信は無いが、私の中に眠る極少の魔力がそう囁く。
そして、その魔力はスマホの中で産声を上げたアプリにも反応した。
「欲張りであること」「 強欲」「貪欲」という意味を持たせた社名を持つ巨悪の根源。
台頭するSNSを使ったその新たな戦略で、ゲーセン業界に破滅をもたらす存在。
今の私にはスマホの画面を見つめることしかできないが、魔力が完全に復活した日には、必ずやその悪行を食い止め、そして……。
「この業界を守るっ」
思わず最後の言葉が口から漏れ、バイトの子に聞かれてしまった。
「店長ー。独り言言ってないで、UFOキャッチャーの景品位置直してってお客さんが呼んでますよー」
その頼みを快く受けたのは、バイトの子が言い放った“店長”という響きに酔い痴れたからだろう。
2005年夏、私は店長になっていた。
まぁ一番の理由は先輩方が軒並み居なくなったからだろう、消去法ってやつだ。
クレサ騒動の後、すぐに店員募集が行われ、瞬く間に定員となった。
業績が右肩上がりのゲーセン業界。時給はコンビニの比較にならないくらい高額な時給1000円スタート(2004年、東京の最低賃金は710円)なので当然だ。22時以降の夜勤手当なんてついて残業した日には社員よりも給料が高かったりするから、林田店長には愚痴をこぼされる始末だが、生活が潤うのは大歓迎。業界を救うためにはこの体の体調管理が絶対だからな。
ここで私の使命に賛同した新たな仲間達を紹介しよう。
・佐村くん(20歳)自称ギタリスト。
バンド活動が忙しいと遅刻、休みがち、肉親、親族の危篤者多数だが未だ死者数0名。
・由香さん(28歳)バツイチ子供二人。
お客さん受けがかなり良い。
・良二くん(21歳)文系ボーイ無自覚イケメン。
男性のお客さんからは評判悪い。
・菊池くん(18歳)音ゲーマニア。
音ゲーコーナーへ巡回しがち、自称ギタリストと音楽性の違いで喧嘩しがち。
・真理ちゃん(22歳)普通に美人。
だが、年齢詐称疑惑あり。
・正美さん(25歳)アネキ系。
面倒見が良いのでバイトリーダーの座が危うい。
・横井さん(23歳)男。
普通。あまりやる気が無い。
・川田さん(28歳)趣味ギャンブル。
お客さんの遊んでいるスロットばかり気にするが、目押しが上手いのでお年寄りから人気。
・瞳ちゃん(19歳)今までで入ったバイトの中で一番可愛い。
お客さんに言い寄られることが多いが、困り顔も可愛いからどうしようもない。
以上が半年間にドタキャン、バックレ、不正でクビ、もしくは自主退社した仲間達だ。
ゲーセン業界を救うためには、まず人材育成が必須かもしれない。
地獄の年末年始を乗り切るために、林田店長の飛び蹴りを食らってでも、バイトを貸してもらわねば……。
そうして過酷なワンオペ勤務を経て、無事店内で除夜の鐘を聞くことが出来た。ゲームセンターはお客様のために年中無休で遊戯を提供することが使命だから全然苦じゃないし、常連さんと年を越すのは楽しいけど、なんだか最近体の調子が……まぁ少し疲れているだけだろう。
そうして迎えた2005年。今後のゲーセン業界を担うであろうアーケードゲーム機が3機種登場した。
1、大・三国志開戦
WWFF(ワールド・ワイド・フットボール・ファイト)で火の付いたトレーディングカードゲームは、この大・三国志開戦で一気に盛り上がり、1台あたりの売上はカード代を抜いても1日約5万、1店舗に8台設置なら一日で四十万を稼ぎ出す、設置型ビジネスの最高傑作となった。
競馬ゲームのフィギュアほど手間も掛からず。カード切れだけ対応していればお金が入ってくるのだから経営者は潤ってしょうがないだろう。まぁしばらくするとカードを識別するセンサー不具合だったり、カードの管理だったりで苦労するのだが、それはまた別の機会にするとしよう。
2、スーパータイラントホース2
メダルゲーム機も負けてはいない。育成型競馬ゲーム機のスタホ2はメダルの大人買いを流行させた。通常、メダル貸出機で1000円200枚を借りてメダルゲームをプレイするのだが、大人買いは、接客カウンターで店員に10000円から50000円を手渡しして、一度に2000枚から10000枚のメダルを借りる行為で、金額に応じて100枚~1000枚のメダルが付与される。お金に余裕のある紳士淑女の方々が利用するお得なサービスだが、貸出機を経由せずに現金を店員に渡すという行為は、大きな過ちの種となりえる為、基本的に店長やバイトリーダーが対応するのだが……これもまた別の機会に話そう。
余談なのだが、スタホ2筐体のお値段は、新築の一軒家が購入できる金額である。そう、ざっと3000万円するのだ。メーカー直営店ではない街の小さなゲームセンターがどうしてそんな買い物ができるのか当時の私には知る由もなかったが、なんとその費用はスタホ2稼働開始から2、3ヶ月で余裕でペイできた。つまりその後は、3ヶ月ごとに新築一軒分の売り上げが見込めるのだ。メーカー側も有償バージョンアップの回数や費用を増やしたりと、思うようには行かないが、ゲーセン業界は間違いなく潤った。
3、ザ・アイドルマイスター
一言で言うとアイドルを育成するゲームである。
売上的には前者にだいぶ劣っていたが、このゲームは必ず伝説のゲームになるっ。自分で自分の店のゲームをプレイするのは基本的には禁止だが、テストプレイを口実にして触れた瞬間そう感じた。
確信は無いが、私の中に眠る極少の魔力がそう囁く。
そして、その魔力はスマホの中で産声を上げたアプリにも反応した。
「欲張りであること」「 強欲」「貪欲」という意味を持たせた社名を持つ巨悪の根源。
台頭するSNSを使ったその新たな戦略で、ゲーセン業界に破滅をもたらす存在。
今の私にはスマホの画面を見つめることしかできないが、魔力が完全に復活した日には、必ずやその悪行を食い止め、そして……。
「この業界を守るっ」
思わず最後の言葉が口から漏れ、バイトの子に聞かれてしまった。
「店長ー。独り言言ってないで、UFOキャッチャーの景品位置直してってお客さんが呼んでますよー」
その頼みを快く受けたのは、バイトの子が言い放った“店長”という響きに酔い痴れたからだろう。
2005年夏、私は店長になっていた。
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