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結論
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「トーゴくんの言う通り、座らなければどうということはないな」
どこかで聞いたことあるようなセリフを言ったアンジさんは、立ったまま食事に手を伸ばした。
「腹が減っては戦はできぬといいますしね」
「戦いたくはありませんが同意します」
オオバさんとサトシさんも参加した。
「私は遠慮しておくわ。というか、私らを殺す気満々な奴らの料理をよく食べられるわね、毒とか入ってたらどうすんのよ」
そう言ったツカサさんはテーブルから一人離れ、俺達の様子を伺っている。
「けっ、立って食べるとか、お行儀が悪いって教わんなかったんか」
度胸試しでもしたいのだろうか、ホンマは椅子に片膝を立てて座り、料理に手を伸ばした。
怖いもの知らずだし、お行儀とは……。
でも、もしもまた椅子に拘束されるゲームになったらどうしよう。
アカネちゃんの言うように、参加を拒否してドローンと戦うのか?
無理だろうな。あの様子だとドローンの残機は計り知れない。一斉に来られたら俺達に勝ち目はない。
「みなさん、一ついいですか?」
オオバさんがトーンを一つ上げて切り出した。
「この中にトキネさんを陥れた者は居ない。私はそう結論付けました」
俺もオオバさんの意見に賛同したい……。けれど、やっぱりそうはいかない人が居るのも確かだ。
アカネちゃんに昨夜の食欲は見られないし、ホンマは自分以外の全員に敵意を向けている。
「もちろん、納得のいく理由なんてありません。我々は昨日会ったばかりなのですから」
昨日か……もう何日も一緒に過ごしている気がする。
「ですが、一つだけ確かなことがあります」
みんなが食事の手を止めてオオバさんの言葉を追った。
「このゲームの開始時にモニターに映った人間ではない女性が言いました。
我々に“生かし合いのゲーム”をしてもらう、と。
恐らくですが、これはゲームを主催した人? 団体かもしれませんが、本心なのだと私は思います。
現に、鬼ごっこでは皆で集まり、一人の犠牲者も出さずにクリアしました。
残念ながら、クイズでは何らかのイレギュラーが起こり、トキネさんを失ってしまいましたが、それまではお互いの個人情報を共有して乗り切ることが出来ていました。
どちらのゲームも我々が協力さえすれば、とても簡単にクリアできる内容でした。
ただ無秩序で残虐なショーをさせたいだけだったら、こんな回りくどいことはさせないのではないかと思います。
このゲームの目的は、なにか、こう、人の良心を試すというか、絆を深めさせるというか、上手く説明はできませんが、悪意のあるものでは無い気がするのです」
「頭ん中、お花畑かよ」
オオバさんの結論は、その優しい声と相まって、みんなの心の拠り所となりかけたが、ホンマのヤジによって効力を失っていく。
俺もやっぱり無理があると思う。人殺しに悪意が無いなんてあり得ない。
「お花畑? いいじゃないですか、美しい場所ですよお花畑は。ですから皆で行きましょう。協力してお花畑に向かうのです。そのためには、もっと沢山の情報が必要だと思うのです。もっと互いの事を知り、理解し合い、助け合って、ゲームに挑むのです。そうすれば、この場を提供した当人も満足してくれるのではないでしょうか」
オオバさんは有能な政治家の様な立ち居振る舞いで言った。
「流石に無理がありますよオオバさん、考えがポジティブ過ぎます」
ツカサさんが離れた場所から声を飛ばした。
言葉遣いは丁寧だけど、ホンマと同じ意見なのだろう。
「けどまぁ俺は良いと思うぜ」
ツカサさんへの対抗心なのか、ホンマが意見を変え、そして続けた。
「もっと互いのことを知れば、この状況を納得のいくものにできるかもしれない」
「つまり?」
何か言いたげな表情のホンマに、オオバさんは餌をあげてしまった。
「まだみんな話してないことあるよな?」
ホンマはサトシさんを睨んで言った。
「ここにいる俺らに関係するナニかが分かるかもしれねぇしな。逆にジジイの言う事に反対する奴は怪しいってことでもある。さぁもっと曝け出そうぜ、俺らは運命共同体ってやつだ」
日がまだ高いうちからアルコールを浴びるような奴を調子に乗らせてはダメだ。母からよく聞いた言葉を思い出した。
けど、一理ある。
俺に皆と関係するプライベートな情報があるとは思えないけど、ここから出るために必要だというのなら出し惜しみはしないつもりだ。
「分かったよ」
口火を切ったのはサトシさんだった。
どこかで聞いたことあるようなセリフを言ったアンジさんは、立ったまま食事に手を伸ばした。
「腹が減っては戦はできぬといいますしね」
「戦いたくはありませんが同意します」
オオバさんとサトシさんも参加した。
「私は遠慮しておくわ。というか、私らを殺す気満々な奴らの料理をよく食べられるわね、毒とか入ってたらどうすんのよ」
そう言ったツカサさんはテーブルから一人離れ、俺達の様子を伺っている。
「けっ、立って食べるとか、お行儀が悪いって教わんなかったんか」
度胸試しでもしたいのだろうか、ホンマは椅子に片膝を立てて座り、料理に手を伸ばした。
怖いもの知らずだし、お行儀とは……。
でも、もしもまた椅子に拘束されるゲームになったらどうしよう。
アカネちゃんの言うように、参加を拒否してドローンと戦うのか?
無理だろうな。あの様子だとドローンの残機は計り知れない。一斉に来られたら俺達に勝ち目はない。
「みなさん、一ついいですか?」
オオバさんがトーンを一つ上げて切り出した。
「この中にトキネさんを陥れた者は居ない。私はそう結論付けました」
俺もオオバさんの意見に賛同したい……。けれど、やっぱりそうはいかない人が居るのも確かだ。
アカネちゃんに昨夜の食欲は見られないし、ホンマは自分以外の全員に敵意を向けている。
「もちろん、納得のいく理由なんてありません。我々は昨日会ったばかりなのですから」
昨日か……もう何日も一緒に過ごしている気がする。
「ですが、一つだけ確かなことがあります」
みんなが食事の手を止めてオオバさんの言葉を追った。
「このゲームの開始時にモニターに映った人間ではない女性が言いました。
我々に“生かし合いのゲーム”をしてもらう、と。
恐らくですが、これはゲームを主催した人? 団体かもしれませんが、本心なのだと私は思います。
現に、鬼ごっこでは皆で集まり、一人の犠牲者も出さずにクリアしました。
残念ながら、クイズでは何らかのイレギュラーが起こり、トキネさんを失ってしまいましたが、それまではお互いの個人情報を共有して乗り切ることが出来ていました。
どちらのゲームも我々が協力さえすれば、とても簡単にクリアできる内容でした。
ただ無秩序で残虐なショーをさせたいだけだったら、こんな回りくどいことはさせないのではないかと思います。
このゲームの目的は、なにか、こう、人の良心を試すというか、絆を深めさせるというか、上手く説明はできませんが、悪意のあるものでは無い気がするのです」
「頭ん中、お花畑かよ」
オオバさんの結論は、その優しい声と相まって、みんなの心の拠り所となりかけたが、ホンマのヤジによって効力を失っていく。
俺もやっぱり無理があると思う。人殺しに悪意が無いなんてあり得ない。
「お花畑? いいじゃないですか、美しい場所ですよお花畑は。ですから皆で行きましょう。協力してお花畑に向かうのです。そのためには、もっと沢山の情報が必要だと思うのです。もっと互いの事を知り、理解し合い、助け合って、ゲームに挑むのです。そうすれば、この場を提供した当人も満足してくれるのではないでしょうか」
オオバさんは有能な政治家の様な立ち居振る舞いで言った。
「流石に無理がありますよオオバさん、考えがポジティブ過ぎます」
ツカサさんが離れた場所から声を飛ばした。
言葉遣いは丁寧だけど、ホンマと同じ意見なのだろう。
「けどまぁ俺は良いと思うぜ」
ツカサさんへの対抗心なのか、ホンマが意見を変え、そして続けた。
「もっと互いのことを知れば、この状況を納得のいくものにできるかもしれない」
「つまり?」
何か言いたげな表情のホンマに、オオバさんは餌をあげてしまった。
「まだみんな話してないことあるよな?」
ホンマはサトシさんを睨んで言った。
「ここにいる俺らに関係するナニかが分かるかもしれねぇしな。逆にジジイの言う事に反対する奴は怪しいってことでもある。さぁもっと曝け出そうぜ、俺らは運命共同体ってやつだ」
日がまだ高いうちからアルコールを浴びるような奴を調子に乗らせてはダメだ。母からよく聞いた言葉を思い出した。
けど、一理ある。
俺に皆と関係するプライベートな情報があるとは思えないけど、ここから出るために必要だというのなら出し惜しみはしないつもりだ。
「分かったよ」
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