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風雅の都
「裏」華流亞の思い
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私は華流亞。たった今からこの国の王になったの。私の義姉の瀬兎は王家の人間じゃない。なのにお父様はそんな瀬兎を可愛がっていた。血の繋がりもなく、霊力も無い王家の恥晒しなのに…
お母様と一緒に瀬兎をいじめた事がある。その度に瀬兎は大泣きし、部屋に閉じこもった。正直言って哀れだった。笑えてきた。無能は何をやっても無能なのよ。
そう。ある時までは…
十年前のあの日の朝、私は瀬兎の靴と服を奪って隠した。無能なのに王家の服を着た瀬兎が目障りだったからだ。
けど瀬兎はその日は泣かず、ただ窓辺を眺めていた。そしてお昼が過ぎた後、薄い服だけに身を包んだ彼女が、宮殿を抜け出した。けど、誰も瀬兎を追いかけない。お父様も仕事が忙しかったし、女官達も、瀬兎をよく思ってなかったからだ。きっとみんな心のどこかで、帰って来なきゃ良いのに、と思っていたかも知れない。
けど、その日の夕方、瀬兎は帰ってきた。雨に濡れ、服がくっつき、足も泥に塗られて。
なのに瀬兎は笑っていた。気味が悪かった。何がそんなにおかしいのか、私には分からなかった。
その日から瀬兎は宮殿を抜け出す日が多くなっていった。どこで何をしているのかは誰も知らない。日に日に足が速くなっていく瀬兎にはもう誰も追いつけない。追いかけても途中で撒かれてしまう。でも行き先は分かった。森だ。この森には何か居る。
瀬兎を強くした何かが。でも、森に入るのは狩猟を生業とする者だけ。奴らが何を狩っているかって?それは妖だ。森の奥に住む妖を狩って生活をしている。
だけどそんな森へ、瀬兎は何をしにいっているのか。答えは簡単だった。彼女は妖に会っていたのだ。会って何をしているのかまでは知らない。けれど
「瀬兎は妖って怖くないの?」
と、聞いた事がある。すると彼女は決まってこう言う。
「怖くないわ。この国の妖は可愛いわ」
と。正直言って馬鹿だ。そんな事を言ったら妖と会っている事がバレてしまうと思わなかったのだろうか。だが、いつも瀬兎は笑っていた。まるで、何が起きても許せる。とでも言うかの様に…
瀬兎が森へ行く様になってから早五年。お父様が病で倒れた。それから二年後、自分の死を悟ったお父様は実の娘の私ではなく、三歳年上の瀬兎にこの国を任せた。この時瀬兎は十九歳。まだ成人では無いが、任せられると思ったのだろう。確かに瀬兎は優秀だった。お父様が倒れてからと言うもの、森へ行くのをピッタリ辞め、何かに取り憑かれた様に本を読み漁っていた。優秀な義姉、整う政治、この国に必要なのは私ではなく瀬兎なのだと物語っていた。
だけど、民は違った。
瀬兎の王就任の日、祝福の光を使えなかった彼女は、当然民からの信頼は無い。けど、私は知ってる。
この時の瀬兎は霊力が無いのでは無くて、わざと使っていなかった事を。そんな事は民は知らないし、彼女も教える気はない様だから、私も何も言わずにいた。どうせB級止まりだと思っていたし。
王になってから暫くして、瀬兎が民の中から護衛を選ぶと言った。私は不安だった。民の中には瀬兎の今の地位を使って国を乗っ取ろうとしている者も居たからだ。だけど不思議と、自分の王の座が脅かされるとは思わなかった。この時の私はすっかり瀬兎の素晴らしさに魅了されて、信頼し切っていたからだ。そうして、瀬兎が選んだのは二人の護衛。でもすぐに妖だと分かった。
私には『真実の水晶』。別名『新月の瞳』と言う瞳の力があったからだ。この瞳を通して視た物は、何で隠されていても、本当の姿しか映らないのだ。もちろん、彼らを選んだのは瀬兎だし、それを否定するつもりもない。
もっとも、彼らの強さは本物だった。瀬兎はまず応募者同士で闘わせ、勝ち抜いた八人を選び出した。これで強さは証明できる。次に頭脳。瀬兎が作った緊急時の対応の答えを書くと言う試験。私も問題を見たが、本当に必要なのか分からない問題もあった。その中で選び出した二人だ。間違いがあるはずが無い。
同時にこの時分かった。瀬兎が森へ行き会っていたのはこの二人だったのだという事。護衛に就いた二人が最初から瀬兎に馴れ馴れしかったからだ。それからというもの、瀬兎は二人を連れて、宮殿の外に行く事が多くなった。そこで視た光景が奇妙だった事を今でも覚えている。彼女の周りを囲む全ての者が妖で、その中心で彼女は笑っていた。それから瀬兎は、ある一部の民にだけ好かれていった。これが妖に好かれた王の始まり。
それからの瀬兎は目まぐるしく働いていた。妖と人間との間にあった溝も彼女により薄れ、度々あった小さな争いも無くなった。本当ならこの国には彼女が必要なのだと思う。けど瀬兎はきっと、この国に留まってはいけない人間なんだ。だから私は瀬兎にとって嫌な女を演じ続けた。彼女が早くこの国から出たいという気持ちを、忘れさせない為に。
私は生涯をかけて貴女を忘れないだろう。きっと貴女はこの馬鹿みたいな世界を壊してくれる光だから、貴女を引き止める事はしない。
今、兵を動かそうとしているのはお父様の時から政治を取仕切っている参謀だ。元はと言えば、こいつのせいで妖との間に亀裂が入ったのだ。瀬兎が作りたかった国の未来は私が引き継ぐ。こんな奴に奪われてたまるか!
私は必死になって兵を止めに入った。
「参謀。兵を動かすのをやめて頂戴」
「何故ですか?貴女を脅かす者は速やかに排除しなければ。」
「瀬兎は私の事など、眼中にも無い。時期にこの国から出て、私達の目の届かない所へ行くだろう」
そうだ。早く国から出ろ。私の目の届かない所で、やりたい事だけをやっていれば良い。
「そうは行きません。彼女は我が国の名を汚す者。生かしておけば、また新たな争いを生む事になる。」
「争いを生み出しているのはお前では無いのか?」
「なんだと!?」
あー、しまったやり過ぎた。ここまで怒らせるつもりは無かったのに…出来ればこいつとは争いたく無かった。だけど瀬兎の事を悪くいう奴は許さない。
「お前…この私を侮辱するというのか!?」
「いいえ、でも貴方に国は任せられないわ」
「…っ!ええいっ!捕らえろ!」
仮にも一国の王を個人の感情で捕らえていいのかは甚だ疑問だが、まぁ良い。私とて無策で怒らせた訳ではない。
瀬兎がずっと大切にしていた本。私が奪ってしまったけど、その中には月姫の霊術の事も書いてあった。だからそれを使わせてもらう。
『月の名は霞。目を懲らせ、私を見つけろ。霧の海から抜ける事は出来ない』
私は『真実の水晶』で月姫の術を口にした。すると辺り一面に霧が広がり視界が白くなる。けど私には視える。水晶の力は永遠だ。王家の血筋にしか受け継がれない。私はこの力を誇りに思っている。沢山の術があるから、いつか絶対使いこなしてみせる。
『現れて、鶴紗!』
自身の手で門を形どり、式神を呼ぶ。
「お呼びですか。月姫」
鶴紗は私を月姫と呼ぶ。水晶の力を宿した、唯の末裔なのに…
「奴らを捕らえて」
「承知しました」
式神は、主人に絶対服従を誓う。主人の霊力で生み出され、その者の命でないと動く事はない道具。いわば生のない存在。今の妖達も似たような物なのだろう…
「すみません月姫。これ以上は伸びません」
「それで良いわ。ありがとう」
鶴紗はツルの式神。彼女の手から伸びたツルが兵たちを捕らえている。
兵の一部だけ進行を許してしまった。けど、貴女ならこれくらいの兵は乗り越えて行けるのでしょう。私はずっと信じている。昔言えなかった分もちゃんと言わせて
「行ってらっしゃいませお姉様。良い旅を!」
兵に捕らえられた私は、外に向かって叫ぶ。そこにもう彼女は居ないのに
お母様と一緒に瀬兎をいじめた事がある。その度に瀬兎は大泣きし、部屋に閉じこもった。正直言って哀れだった。笑えてきた。無能は何をやっても無能なのよ。
そう。ある時までは…
十年前のあの日の朝、私は瀬兎の靴と服を奪って隠した。無能なのに王家の服を着た瀬兎が目障りだったからだ。
けど瀬兎はその日は泣かず、ただ窓辺を眺めていた。そしてお昼が過ぎた後、薄い服だけに身を包んだ彼女が、宮殿を抜け出した。けど、誰も瀬兎を追いかけない。お父様も仕事が忙しかったし、女官達も、瀬兎をよく思ってなかったからだ。きっとみんな心のどこかで、帰って来なきゃ良いのに、と思っていたかも知れない。
けど、その日の夕方、瀬兎は帰ってきた。雨に濡れ、服がくっつき、足も泥に塗られて。
なのに瀬兎は笑っていた。気味が悪かった。何がそんなにおかしいのか、私には分からなかった。
その日から瀬兎は宮殿を抜け出す日が多くなっていった。どこで何をしているのかは誰も知らない。日に日に足が速くなっていく瀬兎にはもう誰も追いつけない。追いかけても途中で撒かれてしまう。でも行き先は分かった。森だ。この森には何か居る。
瀬兎を強くした何かが。でも、森に入るのは狩猟を生業とする者だけ。奴らが何を狩っているかって?それは妖だ。森の奥に住む妖を狩って生活をしている。
だけどそんな森へ、瀬兎は何をしにいっているのか。答えは簡単だった。彼女は妖に会っていたのだ。会って何をしているのかまでは知らない。けれど
「瀬兎は妖って怖くないの?」
と、聞いた事がある。すると彼女は決まってこう言う。
「怖くないわ。この国の妖は可愛いわ」
と。正直言って馬鹿だ。そんな事を言ったら妖と会っている事がバレてしまうと思わなかったのだろうか。だが、いつも瀬兎は笑っていた。まるで、何が起きても許せる。とでも言うかの様に…
瀬兎が森へ行く様になってから早五年。お父様が病で倒れた。それから二年後、自分の死を悟ったお父様は実の娘の私ではなく、三歳年上の瀬兎にこの国を任せた。この時瀬兎は十九歳。まだ成人では無いが、任せられると思ったのだろう。確かに瀬兎は優秀だった。お父様が倒れてからと言うもの、森へ行くのをピッタリ辞め、何かに取り憑かれた様に本を読み漁っていた。優秀な義姉、整う政治、この国に必要なのは私ではなく瀬兎なのだと物語っていた。
だけど、民は違った。
瀬兎の王就任の日、祝福の光を使えなかった彼女は、当然民からの信頼は無い。けど、私は知ってる。
この時の瀬兎は霊力が無いのでは無くて、わざと使っていなかった事を。そんな事は民は知らないし、彼女も教える気はない様だから、私も何も言わずにいた。どうせB級止まりだと思っていたし。
王になってから暫くして、瀬兎が民の中から護衛を選ぶと言った。私は不安だった。民の中には瀬兎の今の地位を使って国を乗っ取ろうとしている者も居たからだ。だけど不思議と、自分の王の座が脅かされるとは思わなかった。この時の私はすっかり瀬兎の素晴らしさに魅了されて、信頼し切っていたからだ。そうして、瀬兎が選んだのは二人の護衛。でもすぐに妖だと分かった。
私には『真実の水晶』。別名『新月の瞳』と言う瞳の力があったからだ。この瞳を通して視た物は、何で隠されていても、本当の姿しか映らないのだ。もちろん、彼らを選んだのは瀬兎だし、それを否定するつもりもない。
もっとも、彼らの強さは本物だった。瀬兎はまず応募者同士で闘わせ、勝ち抜いた八人を選び出した。これで強さは証明できる。次に頭脳。瀬兎が作った緊急時の対応の答えを書くと言う試験。私も問題を見たが、本当に必要なのか分からない問題もあった。その中で選び出した二人だ。間違いがあるはずが無い。
同時にこの時分かった。瀬兎が森へ行き会っていたのはこの二人だったのだという事。護衛に就いた二人が最初から瀬兎に馴れ馴れしかったからだ。それからというもの、瀬兎は二人を連れて、宮殿の外に行く事が多くなった。そこで視た光景が奇妙だった事を今でも覚えている。彼女の周りを囲む全ての者が妖で、その中心で彼女は笑っていた。それから瀬兎は、ある一部の民にだけ好かれていった。これが妖に好かれた王の始まり。
それからの瀬兎は目まぐるしく働いていた。妖と人間との間にあった溝も彼女により薄れ、度々あった小さな争いも無くなった。本当ならこの国には彼女が必要なのだと思う。けど瀬兎はきっと、この国に留まってはいけない人間なんだ。だから私は瀬兎にとって嫌な女を演じ続けた。彼女が早くこの国から出たいという気持ちを、忘れさせない為に。
私は生涯をかけて貴女を忘れないだろう。きっと貴女はこの馬鹿みたいな世界を壊してくれる光だから、貴女を引き止める事はしない。
今、兵を動かそうとしているのはお父様の時から政治を取仕切っている参謀だ。元はと言えば、こいつのせいで妖との間に亀裂が入ったのだ。瀬兎が作りたかった国の未来は私が引き継ぐ。こんな奴に奪われてたまるか!
私は必死になって兵を止めに入った。
「参謀。兵を動かすのをやめて頂戴」
「何故ですか?貴女を脅かす者は速やかに排除しなければ。」
「瀬兎は私の事など、眼中にも無い。時期にこの国から出て、私達の目の届かない所へ行くだろう」
そうだ。早く国から出ろ。私の目の届かない所で、やりたい事だけをやっていれば良い。
「そうは行きません。彼女は我が国の名を汚す者。生かしておけば、また新たな争いを生む事になる。」
「争いを生み出しているのはお前では無いのか?」
「なんだと!?」
あー、しまったやり過ぎた。ここまで怒らせるつもりは無かったのに…出来ればこいつとは争いたく無かった。だけど瀬兎の事を悪くいう奴は許さない。
「お前…この私を侮辱するというのか!?」
「いいえ、でも貴方に国は任せられないわ」
「…っ!ええいっ!捕らえろ!」
仮にも一国の王を個人の感情で捕らえていいのかは甚だ疑問だが、まぁ良い。私とて無策で怒らせた訳ではない。
瀬兎がずっと大切にしていた本。私が奪ってしまったけど、その中には月姫の霊術の事も書いてあった。だからそれを使わせてもらう。
『月の名は霞。目を懲らせ、私を見つけろ。霧の海から抜ける事は出来ない』
私は『真実の水晶』で月姫の術を口にした。すると辺り一面に霧が広がり視界が白くなる。けど私には視える。水晶の力は永遠だ。王家の血筋にしか受け継がれない。私はこの力を誇りに思っている。沢山の術があるから、いつか絶対使いこなしてみせる。
『現れて、鶴紗!』
自身の手で門を形どり、式神を呼ぶ。
「お呼びですか。月姫」
鶴紗は私を月姫と呼ぶ。水晶の力を宿した、唯の末裔なのに…
「奴らを捕らえて」
「承知しました」
式神は、主人に絶対服従を誓う。主人の霊力で生み出され、その者の命でないと動く事はない道具。いわば生のない存在。今の妖達も似たような物なのだろう…
「すみません月姫。これ以上は伸びません」
「それで良いわ。ありがとう」
鶴紗はツルの式神。彼女の手から伸びたツルが兵たちを捕らえている。
兵の一部だけ進行を許してしまった。けど、貴女ならこれくらいの兵は乗り越えて行けるのでしょう。私はずっと信じている。昔言えなかった分もちゃんと言わせて
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