転生したらドラゴンに拾われた

hiro

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最果ての森・成長編

109. 参加の形

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 ライを見送って、みんなでリビングへ戻る。

 ライは調査の仕事があるからと、うちへ来てそう時間が経たないうちに出発してしまったが、テムとファムはまだいてくれるようだ。

「ねえねえ、ウィルくん。ライとの魔法の練習、明日からしばらくお休みでしょー?」

 ファムに聞かれ、僕はコクリと頷く。
 ライに新しい魔法を教わるのはしばらくおあずけだから、練習をどうしようかと考えていたのだ。

「それなら、ぼくたちと一緒に練習しようよー!きっと楽しいよー!」

「お、名案だなファム!オレも教えるぜ!そんで、ウィルもなんかおもしれー魔法、オレらに教えてくれよ!」

 やはりそうきたか。
 こうなるかもしれないと、薄々予感はしていたんだ。

 それならティアも···と思って見ると、僕と目が合ったティアは、急に慌て始めた。

「ご、ご主人!ワレは自主練をしようと思うのだ!だからご主人は、ワレのことは気にせず、二人と一緒に楽しむとよいのだ!」

 ティアが、自分は巻き込まれまいと先手を打ってきた。
 ···なかなかやるじゃないか。

 テムとファムの練習···というか遊びに本気でついていくには、相当な実力、あるいは強靭な精神力を必要とする。だから、自分の実力が心許ないと自覚しているからこそ、二人と遊ぶのを避けたくなる気持ちはよく分かる。

 でも、テムとファムは優しいし、天才がゆえのセンスもある。僕たちの実力が足りないことを知った上で、ちょうどよく手加減をすることくらい、二人にとってはそれほど難しいことではない。遊ぶ中で、僕たちに危険が及ぶようなことはない···はずだ。
 まあ、ジルも見ていてくれるだろうし、きっと大丈夫だろう。

「てぃあ、いっしょに、ちゅよくなろう!」

 僕はティアをガシッと抱きしめて、逃さないぞーと力を込める。
 
「がんばれば、ちゅよくなれるよ!」

 仲間は一人でも多いほうがいい。
 テムとファムが優しいことくらい分かっている。分かってはいるが、それでも負担というか、精神的なダメージというか、そういったものを分散させたいと思ってしまうのは許してほしい。

 僕は邪な考えから必死にティアを説得する。すると、最初は今にも逃げ出しそうな勢いだったティアが、僕が言葉を重ねるにつれ、キリッと決意を固めたおとこの表情を見せるようになった。

「強く···。そうか、ご主人。ワレが間違っていたのだ。強くなるためには、どんなに困難だと思うことにも、立ち向かわねばならないのだな!」

「てぃあ···」

 なんだか、ごめんよ。僕の思惑を、立派な教訓かのように誤解してくれるなんて。

 ティアの純粋さが、心に刺さる。
 でも、その誤解はしばらく解いてあげられそうにないんだ。少なくとも、ライが帰ってくるまでは。

「てむ、ふぁむ!てぃあもいっしょに、れんしゅー、する!」

 ティアの気持ちが変わらないうちに、僕は二人に宣言した。
 ふはは、これでティアは絶対参加だ。思わず黒い笑みが漏れる。
 ああ、僕も悪い大人に···じゃなかった、悪い一歳児になったものだ。

「ティアも一緒に遊ぶのか?楽しみだぜ!」

「あはは!テム、遊びじゃなくて、一応練習だよー!魔法の練習!楽しみだねー!」

「おお、そうだったぜ!練習、練習!何すっかなー。楽しみだぜ!」

 やはりこの二人にとっては、遊びの感覚だったか。まあ、魔法を使うことは間違いないだろうし、楽しく練習できるのであれば、それに越したことはない···はずだ。

「あ、ねえねえ、ウィルくん」

 ファムがまた僕に呼びかけた。今度はなんだろうか。

「あはは!大丈夫だよー。久しぶりに名前を聞いたから、気になってたんだー。セラおねーちゃんとアーダンは元気だったー?」

 少し身構えたのがファムにバレて、笑われてしまった。ちょっと恥ずかしい。

 ファムはセラ姉とアーダンのことを知っているようだ。そしてセラ姉のことを、『セラお姉ちゃん』と呼んでいるらしい。

「しゅっごく、げんき!」

「アーダンの頭が、いい音を出していたのだ。···あやつは、叩かれると分かっていてあのようなことを言ったのか、それとも真にアホなのか···。ワレには判別できなかったのだ」

 僕は前者だと思うよ、ティア。でもだからと言って、アーダンが叩かれたがりの変態さんというわけでもないと思う。···え、違うよね?
 
「あははは!相変わらずだねー、二人とも!」

 ファムがポヨポヨしながら笑っている。

「ねえねえ、セラおねーちゃんも、リーナみたいでかわいかったでしょー?」

 うんうん、やっぱりファムはよく分かっている。
 セラ姉がリーナさんの恋模様を楽しんでいるように、ファムもセラ姉とアーダンの関係を楽しんでいるようだ。

「可愛い···?オレにはカッコよく見えるけどな。だって姐御のアレ、見るたびにキレが増してると思うぜ。あれを受けるアーダンもすげーよなあ」

『アレ』って、絶対に平手打ちのことだよね。確かに、あの速度は出そうと思って出せるものではない。
 そしてテムはセラ姉のことを姐御って呼んでいるのか。そう呼びたい気持ち、すごくよく分かる。
 共感して頷いていると、ファムが教えてくれた。

「テムはね、本人にはまだ姐御って言ったことないんだよー。というか、セラおねーちゃんと直接喋ったことあったっけー?でもね、いつかそう呼んでみたいんだってー!」

 なるほど、それもテムらしいなと思った。
 ちゃっかりファムに暴露されてしまい、テムは顔を赤くしている。

「こ、心の中では何回も呼んでるぜ!」

 テム、それは呼んだうちには入らないんじゃないかな?


 しばらくみんなでわいわい話していると、ジルが「夕飯の準備をしてくる」と言って、キッチンへ入って行った。

 いつも僕たちのために美味しい料理を作ってくれて、ありがたい。
 ···そうだ。お手伝いをするから、僕にも料理を教えてもらえないだろうか。
 昨日は食欲に抗えず静かに待機するだけになってしまったが、今日からは僕も、料理を勉強するんだ。
 そう思って、ジルの後を追いかける。

「···ウィル?どうかしたのか?」

 キッチンへ入って来た僕を見て、ジルは少し驚いているようだ。

「ぼくにも、りょーり、おちえてー!」

 僕はやる気満々だよ、と服の袖を捲くる。

「あ、面白そうだねー!ぼくもやりたーい!」

「オレも!オレもやるぜ!」

「ワレはまた応援か···?」

 僕だけだと思っていたが、後続が次々とキッチンへ顔を出した。

「お前ら···」

 ジルは相変わらず表情の動きが大きくはないけど、それでも嬉しそうな雰囲気は伝わってくる。
 ジルが早速椅子を人数分用意して、キッチンの作業台に届くよう高さを調整してくれた。

「まずは野菜を切ってもらう。大きさは···これくらいだ」

 ジルが包丁で野菜を刻み、見本を示してくれた。

 僕が使うのはもちろん包丁ではない。この間、砂浜で魚をシメたときに使った、ウィンドカッターだ。

 でも、前回は下が砂浜だったからあまり躊躇なくウィンドカッターを放てたが、今回はまな板だ。もし、ウィンドカッターの威力が強過ぎて、まな板まで切断してしまったら···最悪、その下の作業台にまで傷を付けてしまったらどうしよう。

 僕が躊躇しているのを見て、ジルがその理由を察してくれた。

「···こうすれば、多少威力が強くなっても問題ない」

 そう言ってジルは、まな板に手をかざす。

「『シールド』」

 すると、まな板の上に光の板が出現した。シールドを傘として使ったことはあるけど、こんな使い方もできるのか。

「あははは!シールドをまな板の代わりにするなんて!ジル、面白いねー!」

 隣でファムが爆笑している。

「ブハッ!ジルも、なかなかやるな!ウィルみたいだぜ!」

 テムさん、僕みたいって、どういうことかな?

「ぼくもやってみよー!」

「オレもオレも!」

 早速二人はジルの真似をして、シールドを出す。二人とも一発でまな板っぽいシールドを出したのは、さすがとしか言いようがない。

「あはは!これ、便利だねー!」

 ファムの言う通り、シールドのまな板はかなり便利だ。

 光属性のシールドは、物理攻撃と魔法攻撃の両方をある程度まで無効化してくれる。耐久値を超える攻撃を受けると砕けてしまうが、魔力をたくさん込めることで、その耐久値を上げることができる。

 そして僕の目の前にあるシールドには、ジルの豊富な魔力がたっぷり込められている。僕のウィンドカッターを何度放っても、この光のまな板は、傷一つ付かないだろう。

 これなら、躊躇なく野菜を切ることができる。
 そう思って気合いを入れてウィンドカッターを放とうとしたとき、ふとティアが静かだということに気づいた。

 ティアを見ると、なんとなくしょんぼりしているような、そんな雰囲気だ。
 もしかして、自分だけお手伝いができないとか、そんな後ろ向きなことを考えているのだろうか。

 ···ふむ。それなら。

「てぃあ、くりーん、かけてもらえたら、うれしーな」

 僕はティアにクリーンをお願いする。
 そうすると、きっとこの二人も。

「あ、ぼくもー!ティア、お願い!」

「オレにも頼むぜ!」

 ほら、やっぱり。
 二人はすごく優しいんだ。

「ワレも役に立てるのか···?」

 ファムとテムからも頼まれて、ティアからしょんぼりの空気が散り消える。

「ぼく、料理は初めてだから、クリーンをかける余裕がないんだー。だから、ティアが気づいたときにかけてくれると本当に助かるよー」

「オレも!実際、さっき忘れてたしよ!だからティア、頼むぜ!」

「わ、分かったのだ!クリーンは、ワレに任せるのだ!」

 頼りにされるって、嬉しいものだ。
 ティアもそうなのだろう。任せて!と胸を張りながらも、尻尾がフリフリ揺れている。

 参加の形は、色々ある。それぞれができること、得意なこと、やりたいことで、誰かの役に立てるなら、それで十分だ。

 こうして、全員参加のジルズキッチンが始まった。
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