86 / 115
最果ての森・成長編
83. ジルの思案
しおりを挟む
リーナのいる国ソルツァンテからの帰路で、俺達はゴブリンを狩っていた。
ウィルは昼食後に昼寝を始めた。俺の腕の中ですやすやと眠る息子に、愛しいという感情が溢れる。
最初は庇護欲からだったが、今ではウィルのいない生活など考えられない。ウィルの見せる様々な表情が楽しく、時折予想外の魔法を放つのも面白い。
ウィルはいつもより早く目を覚ました。揺れには気をつけていたが、寝ているウィルを抱えて飛ぶのはまずかったか。
本人はスッキリした顔をしているが、今日の夜は早めに寝かせるようにしよう。
俺達がゴブリンを狩りながら帰っていると知ったとき、ウィルの笑顔が固まった。
以前ゴブリン狩りのときに怖い思いをさせてしまったから、トラウマになってはいないだろうか。
そんな不安がよぎるが、ライの話を聞いたウィルが、頼もしい表情を見せる。どうやら、大丈夫なようだ。
標的となったゴブリンは、三匹。しかしそこには、ゴブリン以外の生き物もいた。
ウィルがウィンドカッターで一匹の首を刎ねる。力が入っていたのか、その先にある木まで倒していた。だが、初めてのゴブリン狩りにしては上出来だ。
一匹倒したことで、他の二匹に気づかれる。
このとき、ウィルの雰囲気が変わった。視線を追うと、ゴブリンではない生き物を見ているようだ。白くて小さなその生き物は、ゴブリンから攻撃を受けていたように見える。
二匹のゴブリンは、呆気なくその命を散らした。一発目とは違って、最適化された威力の魔法だった。
俺は三匹を黒炎で消した。
ウィルは優しい子だ。他者を思いやる心を持っている。そんなウィルがとる行動は、一つ。
「じる」
ウィルが俺の名を呼んで白い生き物を指差す。
俺はウィルをその生き物の近くに降ろした。
ウィルは駆け寄って様子を見ていると思ったら、マジックバッグからポーションを取り出して白い生き物にかけ始めた。
ファムに回復を頼むこともできたが、それに思い至らないほど焦っていたのか、それとも一秒でも早く治したいと思っていたのか。いずれにせよ、ウィルの優しさからきた行動だ。
ライが言うには、ダイアウルフの子どもらしい。毛色が灰色ではなく白色だが、鑑定スキルを持つライが言うなら間違いないのだろう。
ウィルと、怪我が治って顔を上げたダイアウルフが見つめ合う。
ウィルが名乗って手を差し出した。
するとダイアウルフは、あろうことかウィルの指に噛み付いたのだ。
先ほどのゴブリンのように消し去ってもよかったのだが、ウィルが気にするだろうと威圧するに留める。
幸い、ウィルに怪我はなかった。もしあれば、威圧では済まなかっただろう。
ウィルはダイアウルフを気に入っているようだった。白い毛玉のようなダイアウルフを撫でている息子は、何とも愛らしい。
そんなウィルを見て、ファムが飼うことを提案する。
そうなる予感はしていたが、こんなよく分からん生き物をウィルの近くに置いていいのだろうか。
「···ウィルがそうしたいのなら」
ウィルの視線を受けて、俺は許可するしかなかった。まあ、俺が近くにいれば、大丈夫だろう。
ウィルは、ダイアウルフにティアという名前を付けた。
一匹でいたようだから、食事を摂るのも大変だっただろう。空腹かもしれないと思い、ミルクを出す。ティアが勢いよくミルクを飲んでいる間に、体を綺麗にする。
汚れが落ちた体は真っ白な毛並みが美しく、触り心地が良さそうだと思った。
ティアはミルクを飲み終えたらすぐにウィルの傍で寝始めた。もうウィルに懐いているようだ。
その後、テムの転移のおかげで予定よりも早く家に着くことができた。
そしてテムとファムが泊まることになった。
部屋に行くとき、ウィルがティアを抱える。一緒に寝るつもりのようだ。
ウィルがティアに頬ずりしているのを見て、可愛らしいがモヤッとした感情が生まれる。
ティアはウィルに懐いているし、ウィルがそうしたいのなら俺が反対する理由はない。
モヤッとしたまま、「おやすみ」と言って部屋をあとにする。
「ふふ、大丈夫だよ。ティアがいても、ウィル君のジルに対する愛情は変わらないよ」
ライがそう言って帰って行った。
一人になって、ライの言葉の意味を考える。
···そうか。俺は、ウィルの愛情がティアに向かうことが寂しかったのか。
しかしライは変わらないと言った。
俺も、そう思う。
ティアもウィルと同じ、俺の家族になったのだ。どうせなら寂しがるのではなくて、俺もティアを可愛がればいいのだ。
威圧してしまったから最初は警戒されるかもしれないが、少しずつ距離を縮めていけばいい。
気分が晴れて、俺は明日の朝食のメニューを考えた。
翌日、やはりティアから警戒されているようで、ウィルはそんなティアをずっと撫でていた。
思わず、甘やかすなよと言ってしまった。愛情は変わらないと頭では分かってはいても、感情はそう簡単に割り切れるものではないらしい。
こんなことは初めてで、制御できない感情に戸惑う。
その時ウィルが俺の方に腕を伸ばしたので、ウィルを抱える。
「じる、だいしゅき。いちゅも、あいあと」
ウィルがそう言って俺にしがみついた。その瞬間、俺の感情は喜び一色になる。我ながら単純だ。
ウィルの愛情が変わることはない。
それが証明されたような気がした。
ティアがマンティコアだったことには驚いたが、今はウィルを慕う家族だ。
だから俺も、家族として接していこうと思う。
そしてウィルがウィルである限り、その優しく温かな人柄に惹かれる者は多いだろう。
友人ができることもあるだろうし、もしかすると家族が増えることもあるかもしれない。
そんなとき、俺はウィルの父親として、ウィルの支えになれたらと思う。
これからも、ウィルの成長を見守っていきたい。
ウィルは昼食後に昼寝を始めた。俺の腕の中ですやすやと眠る息子に、愛しいという感情が溢れる。
最初は庇護欲からだったが、今ではウィルのいない生活など考えられない。ウィルの見せる様々な表情が楽しく、時折予想外の魔法を放つのも面白い。
ウィルはいつもより早く目を覚ました。揺れには気をつけていたが、寝ているウィルを抱えて飛ぶのはまずかったか。
本人はスッキリした顔をしているが、今日の夜は早めに寝かせるようにしよう。
俺達がゴブリンを狩りながら帰っていると知ったとき、ウィルの笑顔が固まった。
以前ゴブリン狩りのときに怖い思いをさせてしまったから、トラウマになってはいないだろうか。
そんな不安がよぎるが、ライの話を聞いたウィルが、頼もしい表情を見せる。どうやら、大丈夫なようだ。
標的となったゴブリンは、三匹。しかしそこには、ゴブリン以外の生き物もいた。
ウィルがウィンドカッターで一匹の首を刎ねる。力が入っていたのか、その先にある木まで倒していた。だが、初めてのゴブリン狩りにしては上出来だ。
一匹倒したことで、他の二匹に気づかれる。
このとき、ウィルの雰囲気が変わった。視線を追うと、ゴブリンではない生き物を見ているようだ。白くて小さなその生き物は、ゴブリンから攻撃を受けていたように見える。
二匹のゴブリンは、呆気なくその命を散らした。一発目とは違って、最適化された威力の魔法だった。
俺は三匹を黒炎で消した。
ウィルは優しい子だ。他者を思いやる心を持っている。そんなウィルがとる行動は、一つ。
「じる」
ウィルが俺の名を呼んで白い生き物を指差す。
俺はウィルをその生き物の近くに降ろした。
ウィルは駆け寄って様子を見ていると思ったら、マジックバッグからポーションを取り出して白い生き物にかけ始めた。
ファムに回復を頼むこともできたが、それに思い至らないほど焦っていたのか、それとも一秒でも早く治したいと思っていたのか。いずれにせよ、ウィルの優しさからきた行動だ。
ライが言うには、ダイアウルフの子どもらしい。毛色が灰色ではなく白色だが、鑑定スキルを持つライが言うなら間違いないのだろう。
ウィルと、怪我が治って顔を上げたダイアウルフが見つめ合う。
ウィルが名乗って手を差し出した。
するとダイアウルフは、あろうことかウィルの指に噛み付いたのだ。
先ほどのゴブリンのように消し去ってもよかったのだが、ウィルが気にするだろうと威圧するに留める。
幸い、ウィルに怪我はなかった。もしあれば、威圧では済まなかっただろう。
ウィルはダイアウルフを気に入っているようだった。白い毛玉のようなダイアウルフを撫でている息子は、何とも愛らしい。
そんなウィルを見て、ファムが飼うことを提案する。
そうなる予感はしていたが、こんなよく分からん生き物をウィルの近くに置いていいのだろうか。
「···ウィルがそうしたいのなら」
ウィルの視線を受けて、俺は許可するしかなかった。まあ、俺が近くにいれば、大丈夫だろう。
ウィルは、ダイアウルフにティアという名前を付けた。
一匹でいたようだから、食事を摂るのも大変だっただろう。空腹かもしれないと思い、ミルクを出す。ティアが勢いよくミルクを飲んでいる間に、体を綺麗にする。
汚れが落ちた体は真っ白な毛並みが美しく、触り心地が良さそうだと思った。
ティアはミルクを飲み終えたらすぐにウィルの傍で寝始めた。もうウィルに懐いているようだ。
その後、テムの転移のおかげで予定よりも早く家に着くことができた。
そしてテムとファムが泊まることになった。
部屋に行くとき、ウィルがティアを抱える。一緒に寝るつもりのようだ。
ウィルがティアに頬ずりしているのを見て、可愛らしいがモヤッとした感情が生まれる。
ティアはウィルに懐いているし、ウィルがそうしたいのなら俺が反対する理由はない。
モヤッとしたまま、「おやすみ」と言って部屋をあとにする。
「ふふ、大丈夫だよ。ティアがいても、ウィル君のジルに対する愛情は変わらないよ」
ライがそう言って帰って行った。
一人になって、ライの言葉の意味を考える。
···そうか。俺は、ウィルの愛情がティアに向かうことが寂しかったのか。
しかしライは変わらないと言った。
俺も、そう思う。
ティアもウィルと同じ、俺の家族になったのだ。どうせなら寂しがるのではなくて、俺もティアを可愛がればいいのだ。
威圧してしまったから最初は警戒されるかもしれないが、少しずつ距離を縮めていけばいい。
気分が晴れて、俺は明日の朝食のメニューを考えた。
翌日、やはりティアから警戒されているようで、ウィルはそんなティアをずっと撫でていた。
思わず、甘やかすなよと言ってしまった。愛情は変わらないと頭では分かってはいても、感情はそう簡単に割り切れるものではないらしい。
こんなことは初めてで、制御できない感情に戸惑う。
その時ウィルが俺の方に腕を伸ばしたので、ウィルを抱える。
「じる、だいしゅき。いちゅも、あいあと」
ウィルがそう言って俺にしがみついた。その瞬間、俺の感情は喜び一色になる。我ながら単純だ。
ウィルの愛情が変わることはない。
それが証明されたような気がした。
ティアがマンティコアだったことには驚いたが、今はウィルを慕う家族だ。
だから俺も、家族として接していこうと思う。
そしてウィルがウィルである限り、その優しく温かな人柄に惹かれる者は多いだろう。
友人ができることもあるだろうし、もしかすると家族が増えることもあるかもしれない。
そんなとき、俺はウィルの父親として、ウィルの支えになれたらと思う。
これからも、ウィルの成長を見守っていきたい。
53
お気に入りに追加
5,853
あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される
マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。
そこで木の影で眠る幼女を見つけた。
自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。
実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。
・初のファンタジー物です
・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います
・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯
どうか温かく見守ってください♪
☆感謝☆
HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯
そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。
本当にありがとうございます!

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる