上 下
66 / 115
旅行編

64. おにぎり

しおりを挟む
 リーナさんとお別れした後、僕達は宿へ向かった。

「明日の朝食も、屋台で買う?お祭りの前日だし、いつもより屋台の数が増えているかもね」

「ああ、そうだな」

「ふふ、それじゃあ、また明日」

「ウィルくん、ジル、おやすみー!」

「また明日だぜ!」

 部屋は昨日と同じように二部屋とっていたようだ。

「おやすみ」

「おあしゅみ!」

 僕達も挨拶をして、部屋を移動する三人を見送った。

 今日の夜も、昨日と同じようにジルにくっついて本を読む。ジルの落ち着いた雰囲気が心地良くて、一緒にいると穏やかな気持ちになる。
 しばらく本を読んでいたが、ちょっと眠気がきた。するとジルが頭を撫でてくれて、僕はその手に安心感を感じながらすぐに眠りに落ちた。


 翌朝、起きてしばらくすると昨日と同じようにライ達が呼びに来てくれた。

 朝食を求めて街を歩く。お祭りはまだ始まっていないのに、街は賑やかで明るい。それだけ街の人々がこのお祭りを楽しみにしているのだろう。

 朝食はどれにしようかなとキョロキョロしていると、おにぎり屋さんを見つけた。昨日ファムが美味しそうにおにぎりを食べていたなと思い出し、僕もおにぎりが食べたくなる。

「じる」

「食べたいもの、見つかったか?」

 僕が呼ぶと、すぐに察してくれた。おにぎり屋さんを指差すと、僕を抱えてそちらに向かってくれる。
 そこには、色んな種類のおにぎりが並んでいた。ファムが食べていたような白米のおにぎりもあるし、具材が入っているもの、そして炊き込みご飯をおにぎりにしたものもある。
 う~ん、と悩んで、魚入りのおにぎりを選ぶ。ジルも、いくつか買っていた。

「坊や、可愛いのう。いくつなんじゃい?」

 おにぎり屋さんのおじいちゃんが、僕達が購入したおにぎりを袋に詰めながら訊ねてきた。

「いっちゃい」

 人差し指を伸ばして答える。ぴしっと伸ばすのがまだちょっと難しい。

「ほお、そりゃビックリじゃ。賢い子じゃな」

「ああ」

 おじいちゃんが驚き、そしてジルは親バカだ。

「ほっほっ。お前さんも若いのに、立派な父親じゃな」

 おじいちゃんが柔らかい笑顔でジルを見る。ジルは自分が褒められたことに驚いているようだ。
 僕はコクコクと頷く。僕にとって、ジルは最高の父親だ。

「ほっほっ。良い親子じゃ。オマケも入れたでの、仲良く食べておくれ」

 おじいちゃんは袋に二つおにぎりを追加してくれた。

「···いいのか?」

「ほっほっ。もちろんじゃ。···お前さん達、明日の祭りは見るんかの?」

「ああ」

「そりゃ良かった。明日の祭りはこの街、この国にとって大事なもんじゃからの、是非楽しんでおくれ」

「分かった」

「そいじゃの、仲良く食べるんじゃよ~」

「あいあと!」

 おじいちゃんに手を振ってバイバイする。後ろから、「ほっほっ」という笑い声が聞こえた。


 ライ達と合流して、みんなで朝ごはんを食べる。
 おじいちゃんのおにぎり、ほくほくで美味しい。お米の良さがすごく伝わってくるおにぎりだ。
 あ、テムがお粥を食べている。ちょうど昨日僕が食べていたものと似ている。

「昨日ウィルが食ってたのが美味そうだったからよ、これにしたんたぜ!」

「あはは!一口ちょうだいって、リーナがいる前では言いづらかったんだよねー」

「おわっ!なんでそれを!あ、いや、え、遠慮しただけだぜ!」

 そうか、ちょっと食べてみたかったのか。そういえば、姿を現していてもほとんど喋っていなかったな。我慢して朝食でお粥を選ぶテム、可愛い。

 
 朝食を終えたら、また街の観光だ。昨日は主に商店街を歩いたので、今日は別のエリアだ。
 街を歩いていると、子ども達の元気な声が聞こえてきた。

「あれは、この街の学校だよ。初等教育を学ぶ場所なんだ」

 ライがそう教えてくれた。日本でいう、小学校だろうか。子ども達が校庭で元気に走り回っている姿に、ここはいい街なんだなと感じる。
 僕もあれくらいの年齢になったら、学校に通うのだろうか。

「ウィルも学校に行ってみたいか?」

「あう」

 学校に行って、友達をつくりたい。色んな人と知り合って、色んなことを学びたい。

「そうか」

 きっとジルは、悪いことや危険なことじゃない限り、僕がやりたいと言ったことに反対することはないだろう。優しく見守ってくれるんじゃないかなと思う。でも、だからこそ、ジルを悲しませるようなことはしないようにしようと思う。
 まあ、まだ何年も先のことだけどね。

 その後も街を歩いて、図書館や博物館に入ったり、食堂でお昼ごはんを食べたりした。
 博物館にはソルツァンテの歴史コーナーがあって、リーナさんの大きな絵が飾られていた。ちなみに、絵のタイトルは『ソルツァンテの母』だった。


 夕方、再びリーナさんと会う。昨日とは違うお店だけど、またいいお店の個室だ。

「みんな、ご機嫌よう。今日も街を楽しんでもらえたかしら?」

「今日ねー、博物館でリーナの絵を見たよー」

 早速ファムが絵のことを話す。

「あっ!あれは、少々恥ずかしいわ」

「ふふ、リーナさん、『ソルツァンテの母』がすっかり定着したね」

「な、成り行きなのよ。いつの間にかそう呼ばれるようになってしまったわ」

「あはは!ぼくは素敵だと思うよー!」

「そうかしら?それなら、いいのだけれど」

 みんなで和やかに夕食を楽しむ。
 リーナさんって、ライとファムと喋っているのを見ると上品で穏やかな女性なんだけど、ジルに対してだけ乙女になるんだよな。恋ってすごい。そしてこんな女性を乙女にしちゃうジルってすごい。
 僕も将来、モテモテじゃなくてもいいから、誰か一人くらいには好かれたいな。よし、今のうちからカッコいいセリフを練習しておこう。脳内でジルがよく言う言葉をリストアップする。むふふ、これで僕も将来は恋する乙女をゲットするんだ。

 夕食後、今日はファムが何か言い出す前に、リーナさんはぴゅーんと帰ってしまった。

「き、今日は早く帰って寝るわ!みんな、今日も楽しかったわ!おやすみなさい!」

 まあ、明日は大事なお祭りだからね。そういうことにしておこう。


 そして次の日の朝。
 今日、いよいよお祭りが始まる。
しおりを挟む
感想 380

あなたにおすすめの小説

令和日本では五十代、異世界では十代、この二つの人生を生きていきます。

越路遼介
ファンタジー
篠永俊樹、五十四歳は三十年以上務めた消防士を早期退職し、日本一周の旅に出た。失敗の人生を振り返っていた彼は東尋坊で不思議な老爺と出会い、歳の離れた友人となる。老爺はその後に他界するも、俊樹に手紙を残してあった。老爺は言った。『儂はセイラシアという世界で魔王で、勇者に討たれたあと魔王の記憶を持ったまま日本に転生した』と。信じがたい思いを秘めつつ俊樹は手紙にあった通り、老爺の自宅物置の扉に合言葉と同時に開けると、そこには見たこともない大草原が広がっていた。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第七部開始】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

処理中です...