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最果ての森編

32. 鬼ごっこ

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「どうだ?これが一番偉いやつの常識だぜ!」

 ドヤ顔しているところ申し訳ないが、それは常識というより一日の過ごし方ですよ、テムさん。
 そう言いたくてたまらない。

「うーん、でもそれって常識かなあ?ぼくは、ただの王様の一日だと思うよー」

 あああ!言っちゃったよ!王様って!言うのを避けてたのに!しかも、『ただの』とか言っちゃってるし!

「んん?うん?むむ?た、確かに···」

 テムが撃沈している。常識ゲット!と得意気だったが、違ったため落ち込んでいるのだろうか。

「アクビ、我慢しなきゃ良かったぜ···」

 え、それで凹んでたの?我慢して正解だよ!

「だってすげーつまんなかったんだぜー」

 王様も頑張ってたんだよ!きっと!

「ちくしょー、じゃあ誰を覗けばいいんだ?」

 覗く以外の選択肢はないのかな?

「ライがこの世界について教えてくれている。それにもう少し大きくなったら街にも行けるだろう。自分の目で見るのが一番いいんじゃないか?」

「おお!なるほど!街に行ったら、一緒に覗こうぜ!」

 一緒に覗こうぜって、響きがすごく嫌なんだが、僕の考え過ぎだろうか。僕は、変態にはなりたくないんだ。

「ウィルくんも、恥ずかしがり屋さんなのー?」

 いえ、僕はやってません。あ、いや、僕は違います。

「あうあう~」

 ぶんぶんと首を横に振る。

「それなら、ウィルくんは覗く必要はないんじゃないかなー?普通に見たり、聞いたりできるよー」

「くっ···そうか···。オ、オレだって、やろうと思えばできるんだぜ!」

「あはは、できるといいねー」

 ファムさん、それ、できると思っていない人の言い方だよね。ファムは意外と毒舌だったりするのだろうか。

「オ、オレはやればできる男なんだ!その証拠に、今から隠れずに外に出てやるぜ!」

 そう言い捨てて、テムがぴゅーんと家を飛び出す。

「あはは、外には魔物しかいないのにねー」

 ファムは、笑顔で毒を吐くタイプかもしれない。

「テムが外に出たことだし···俺達も出るか?」

「そうだねー!ウィルくんも外に行こうよー!」

「あうあう」

 そうだね。···テムが一人で可哀想だし。

 そう返事をして、三人で家の外に出る。
 テムは森の中に入ったのだろうか?ここから見える所にはいないようだ。

「いい天気だねー!」

 そう言ってファムが畑の周りをぽんぽん跳ねている。

 本当にいい天気だ。しばらくぼーっとして日光を浴びる。今なら、光合成ができるかもしれない。
 そんなことを考えていると、ファムが跳ねながら近づいて来た。

「ねえねえ、ウィルくん。昨日、どうやってマンティコアを倒したのー?」

 答えづらいことをどストレートに聞いてくるファム。

「···あーしゅしょっちょ」

「うん?あーしゅしょっちょ?···アースショット?」

「あうあう」

「ええー!アースショット?それでマンティコアを倒しちゃったの?···ほんとにそれ、マンティコアだったのー?」

 疑われている。そりゃそうだ。僕だって信じられない。

「通常のものを改良したようだ」

 ジルが説明してくれる。

「へえー!どんな改良?見てみたーい!」

 ファムからキラキラした視線を感じる。

「ねえねえウィルくん、お願い!見せてー!」

 うぬぬ。こんなに可愛くおねだりされたら、断れないではないか。

「あう」

 僕はアースショットを披露することにした。我ながら、チョロい。
 ジルが地面に降ろしてくれたので、目を閉じてイメージする。えーっと、ドリルをぎゅっと固めてと。それからギュルギュル回転している様子を想像をする。あ、発射のスピードって、魔力をいっぱい込めたら速くなるのかな?やってみようかな。それで、今日はちゃんと目を開けるんだ。僕は失敗から学ぶ男なのだ。
 イメージが固まったので、閉じていた目を開ける。前にある木に手を向ける。魔力をたっぷり込める。

「『土弾あーしゅしょっ』···」

「おーい!」

 あ、テム?

「···ちょ」

「おー···うおっ!」

 あ、やば。

 僕が放ったアースショットは、木からずれ、森の中から飛んできたテムの上を通り過ぎて後方へ。

 ドスッ···ドサッ。

 あれ、この音、デジャヴ?

「あはは!!ウィルくん、すごーい!!!」

 ファムが大興奮している。テムの心配は、しなくていいの?

「ウィル、さっきのなんだー!?めちゃくちゃ速かったぜ!」

 テムは元気だった。

「ウィル···体調はどうだ?」

 ジルが少し心配そうに聞いてくる。
 これって、あれですよね。僕、またやらかしたんですかね。
 今回はちょっと体がぽかぽかする感じはあるけど、大丈夫だ。

「あうあう」

 大丈夫、と返事をしてぴょんぴょん跳んでみる。思ったより跳べた。

「···そうか」

 念の為、魔力を消費しよう。

「『りゃいちょ』」

 投げライトだ。

「あはは!!ウィルくん、それなにー?」

「『りゃいちょ』」

 もう一個投げる。

「ライトなの?面白いねー!ぼくにもできるかなー?」

 そう言って、ファムも練習しだす。

「何だそれ!?色つけて投げんのか?面白そーだな!」

 テムも投げライトに興味をもったようだ。

「···見て来るから、テムとファムはウィルのそばにいてくれ」

 ···ああ、ちょっと現実逃避してたのに、やっぱり、そうなんだね。

「あはは!いいよー!」

「おう!オレらがいれば、大丈夫だぜ!」

 それからちょっと、三人で遊んだ。二人とも少し練習したら投げライトが出来るようになった。これだから天才は。
 三人で投げると、ライトが結構な量になって壮観だ。

 あ、ジルが戻ってきた。何かをずるずる引きずっている。マンティコアより、扱いが雑じゃない?

「あはは、ウィルくん、もしかしてマンティコアもこんな感じだったのー?」

 ファムにバレた。

「あう」

 正直に肯定する。

「おおー!すげーなウィル!でもこれで鬼ごっこは終わりだなー!」

 鬼ごっこ?

「これはねー、オーガだよ!テム、鬼ごっこしてたのー?いいなー!」

「おう!飛び出して結構進んだ先にコイツを見つけたから、ちゃんと隠れずに前に出たんだぜ!そしたら追いかけてきたから、オレは逃げる役をやってあげたんだぜ!」

 逃げ切ったぜ!と清々しい顔のテム。

「コイツ、足遅かったから、たまに止まって応援してあげたんだぜ!」

 優しいだろ!と言いたげなテム。鬼さんは、だいぶ遠くからここまで挑発されて来たようだ。その結果、頭に穴が空いてしまった。これは僕のせいだが。

「オーガか···」

 ジルが何か考えている。

「この森にオーガが出現することはあまりない。ゴブリンが増えすぎている可能性がある」

 ふむ。それは一大事、なのか···?

「···減らしに行くか」

 そう言って、ジルが僕を抱える。

 え?え?あの、ジルさん?雑草を抜くかみたいなノリですけど、僕も行くんですか?僕、雑草も抜けないくらいか弱い一歳児だよ?あ、いや、ほんとは雑草くらいなら抜けるかもしれないけど、···って、そうじゃなくてですね。

「あはは!面白そー!ぼくも行くよー!」

「ブハハ!ゴブリン狩りか!オレも行くぜ!」

「あう~」

 僕が軽いパニックに陥っている間に、僕を抱えたジルが上空へと飛び上がった。




 名前:ウィル
 種族:人族ヒューマン
 年齢:1
 レベル:34

 スキル:成長力促進、言語理解、魔力操作、魔力感知
 魔法:土弾アースショットライト
 耐性:

 加護:リインの加護
 称号:異世界からの転生者、黒龍帝の愛息子、雷帝の愛弟子
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