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最果ての森編

31. 常識?

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 朝食後、テムとファムがやって来た。この二人がいると、一段と賑やかだ。

「あれ?ウィルくん、魔力増えたー?」

「あう」

 早速ファムが気づいた。

「一日でこんなに増えるなんてすごいねー!どうしたのー?」

「昨日ライに魔法を教わってな。その魔法でウィルがマンティコアを倒した」

「ええ!ウィルくん、すごーい!」

「お前、スゲーやつだな!」

 褒められるのは嬉しい。でもあれは、不幸な事故だったんです···!

「オレも魔法教えたい!そんで、なんか倒そーぜ!」

「面白そー!」

 や、やめてくれ。僕はか弱い一歳児なんだ。

「まだ魔法に慣れてからだ。昨日のは···事故だ」

 ジルさん、事故って言っちゃったよ!やっぱり、やっぱりそう思ってたんだね!

「ちえーっ。でも魔法はいつでも教えるぜ!そんで一緒に隠れんぼしようぜ!」

 そんな高度な隠れんぼ、するの?

「あ、そうだ!昨日ね、テムと一日中隠れんぼしてたんだよー!」

「そうだぜ!ウィルのために、常識を仕入れようと思ってな!」

 ドヤ顔がキマっているテム。ありがたいが、それで隠れんぼとはどういうことなのだろう。

「人の一日の生活を見たら、常識が分かるんじゃないかってテムが言ったんだー」

 ふむふむ。それは一理ある。街の様子とか、どんな仕事があるかとか、子どもたちはどう過ごしているのかとか、一日見るだけでも得られる情報は多いだろう。そこから読み取れるこの世界の常識もあるかもしれない。

「ほんとは人に色々聞けたら早いんだけどねー」

 うん、確かに。でもテムやファムが人前に現れて、びっくりされないのだろうか。 

「でもテムは恥ずかしがり屋さんだからね、こっそり覗くことにしたんだー!」

「ち、違うぞ!オレはな、人の邪魔にならないようにだな、その、なんだ、そう、気を使って!隠れてたんだぜ!」

 最後だけはドヤ顔だが、非常にしどろもどろな言い訳だ。テムは恥ずかしがり屋さんだったのか。

「そんでよ、誰の生活を覗くかって話になったんだぜ」

 うん、その選択は重要だ。

「んで考えたんだけどよ、そもそも常識って人それぞれじゃねーか?」

 うーん、確かに。同じ社会に属する者同士で、ある程度共通した価値観などはあるかもしれないが、細かい部分ではそれぞれに違ってくる。常識って、これまでに得た知識や経験から培われるものだから、違って当然だ。誰かと全く同じ人生を歩むことなんてないのだから。

「だからよ、とりあえず、一番偉いやつを覗いたらいいんじゃねえかって結論になったんだぜ!」

 うん、···え?なんでっ!
 オレって賢い、みたいな顔のテムだが、なぜそんな結論に達したのだろうか。

「でもよ、すげーつまんなかったぜ。一番偉いんだから、一番面白そうだと思ったのによ」

 テムさん、誰の一日を覗いたのかな?···あ、いや、やっぱり聞きたくない。

「まず朝起きたら運動してたんだぜ。オッサンのくせに結構いい動きしてたぞ」

 き、聞きたくないよ僕は。

「そのあと水浴びして、あ、これは覗いてねーからな!覗けって言われてもオッサンの裸なんてごめんだぜ!」

 僕もオッサンの裸の話なんて聞きたくないよ。

「そんで、朝食だな。無駄に長いテーブルの端っこで食べてたぜ」

 ああ、きっとやんごとなき身分の方なのね。

「朝食の後は、しかめっ面で書類をずっとさばいてたぜ。時々何か書いたりハンコ押したりしてな。オレ、すげーアクビ我慢してたんだぜ」

 大事なお仕事なんです。

「そのあと昼食で、書類のあった部屋で食べてたな」

 忙しかったのだろうか。

「そんで、オッサン達がたくさんいる部屋でみんなで喋ってたぜ。すげーうるさいオッサンもいて、残り少ない髪の毛をこっそり抜いてやろうかと思ったぜ!」

 うん、それはやめてあげようね。

「それが終わって、また無駄に長いテーブルで晩飯食って、書類の部屋でハンコ押してたぜ」

 お仕事お疲れさまです。

「んで、夜中になって、酒飲んで寝た。全然面白くなかったぜ!」

 いやいや、仕事が忙しい人の一日は、そんな感じになっちゃうんじゃないの?すごく大変そうだよ?

「ぼくも一緒に隠れんぼしてたんだよー。そのおじさん、たまにぼくたちの方をちらちら見てたのが楽しかった!」

 え、それ気づかれてない?やばいんじゃない?

「ブハハ、そうだったな!でも全然分かってなかったよな!」

 いやいや、なんとなく気づいてたから、ちらちら見たんじゃないの?

「ま、でもオレ達の気配に少しでも気づくのは大したもんだよな!褒めてやる!」

 いや、褒めてやる!じゃなくてさ、やばいんじゃないの?

「さっきも、今日は変わったことはないか見に行っててよ、でも昨日の朝と同じだったから覗くのやめたんだぜ」

 やめてくれて良かった。

「でもお城にいる人、昨日より増えてなかったー?」

 あああ!分からないフリしてたのに!お城って言っちゃったよ!

「ああ?そうだっけな?そう言われてみると、確かに···?オッサンの周りにいる武器持ったやつ、今日は多かった気がするな」

 あああ!それ、きっとあなた達のせいですよ!
 なんだか申し訳ない。僕に常識を教えるために、どえらい人に多大なる不安を与えてしまったようだ。ほんっとに申し訳ない。

 ど、どうしよう。なんだか大事になってしまった。不安になって、ジルの腕をぎゅっと掴む。

「···ライに伝言を頼むから、大丈夫だ」

 ジルはそう言って僕の頭を撫でてくれた。ああ、安心する。ジルの手のひらには精神安定効果があるようだ。
 それにしても、ライが解決してくれるのか。ライって凄い人なんだ···。

「お前達も、覗きはほどほどにしておけよ」

 禁止はしないのね。しても意味がないのかもしれない。

「おう!次はぜってー気づかれないぜ!」

「そうだねー!魔法の特訓しよー!」

 ···意味がないのだろう。
 テムとファムが、魔法を悪用しない性格で本当に良かった。

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