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最果ての森編

30. 楽しい一日の始まり

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 朝だ!
 ライがくれたパジャマが気持ち良くて、朝までぐっすりだった。体から元気が溢れている。

 よし、日課の発音練習でもするとしよう。まだ二日目だけど。

「あ、い、う、え、おー」

 ふふん、完璧だ。

「きゃ、···きゃ、き、きゅ、け、きょ」

 うんうん、昨日より良くなってるぞ!

 ごくりと喉を鳴らす。もしかして、もしかすると、あれも言えるんじゃないだろうか。昨日は聞かれてしまったから、小声で練習だ。

「···ちる」

 言えないかー!
 そう簡単には言わせてもらえないのか。思わずベッドの上をゴロゴロ転がる。まだまだ練習が必要なようだ。
 ゴロゴロ転がっていると、ふと気がついた。転がるの、結構簡単なんだな。体が軽いし、体調もすごくいい。あ、魔力が増えてる?どうやら寝ている間に体内魔力が回復したようだ。体調がいいってことは、体がこの魔力量に馴染んだってことなのだろうか。もう少し時間がかかるかもと思っていだが、杞憂だったようだ。

 よし、魔力の消費と魔法の練習を兼ねて、投げライトをやろう。

「『りゃいちょ』」

 いい感じだ。魔力を固めるイメージも、スムーズに出来る。

「『りゃいちょ』」

 もう、投げライトマスターを名乗っていいんじゃないだろうか。
 そんなことを考えながら部屋のあちこちにライトを投げていると、昨日までなかった収納家具が一つ増えているのに気づいた。何が入っているのだろうか。

 疑問に思っていると、ジルが入ってきた。魔力の動きで、僕が起きたのに気づいたのだろう。

「おはよう」

「おあおー!」

 朝の挨拶は元気良く!

「体調に問題はないか?」

「あう!」

 ばっちりだよ!と右手を上げて答える。

「そうか」

 ジルの返事にほっとしたような響きが含まれていて、体調を心配してくれていたことが分かる。

「あう?」

 そのまま右手を増えた家具の方へ向けて、首を傾げる。

「ああ、あれか。ライが服を買ってくれたからな。あれに入れておいた」

 どうやら僕が爆睡している間に、たくさんあった服をあの中に入れて部屋に運んでくれたようだ。全然気づかなかった···!ジルのイケメンスキルが高すぎる。いや、これはイクメンスキルなのか?

「朝食はできているが···先に着替えるか?」

「あう!」

 着替える!と左手も上げて元気に答える。

「そうか」

 両手を上げた僕はすぽっとパジャマを脱がせてもらい、お着替えをした。ライが買ってくれた服はサイズもちょうどいいし、着心地もいい。改めてライに感謝だ。

「よし、行くか。腹は減ってるか?」

 お着替えが終わり、僕の頭を撫でながらジルが訊ねる。

「あう!」

 腹ぺこだよ!と大きく頷く。

「そうか」

 エメラルドの瞳が優しく揺れ、ジルが僕を抱えてくれる。あ、またベッドから降りるの忘れてた。まあ、いいんだ。

 リビングに着くと、いったん椅子に降ろされる。

「少し待っててくれ」

「あう」

 今日の朝ごはんはなんだろうか。こうやってわくわくしながら待つひと時も、僕は好きだ。

「待たせたな」

 準備を終えたジルが、僕を抱えて膝に乗せてくれる。やっぱりいつもの場所は、落ち着くな。

 あ、僕の好きなサラダがある。

「サラダか?」

「あうあう」

 相変わらずイケメンな察知スキルだ。

 ぱりぱり。
 しゃくしゃく。

 うんうん、やっぱり美味しいー!
 昨日の夕飯が少なめだったから、すごくお腹がすいてたんだ。空腹状態で口にする新鮮野菜のなんと美味しいことか!野菜の瑞々しさが体の隅々まで広がるようで、食べれば食べるほど元気になれそうな気がする。
 今回のドレッシングは、クリーミーだけどほんのちょっと酸味を感じるような···ヨーグルトみたいな感じだ。それにみじん切りの玉ねぎが加えられて、他にもいくつか調味料が加えられているのだろう。爽やかなドレッシングに仕上がっている。朝のサラダにぴったりだ。

 僕のお皿に盛ってあったサラダは、あっという間になくなった。つい夢中になって全部食べてしまった。もう少し食べたいけど···他のも食べてみたい!
 そう思って、別のお皿に目を移す。
 あの黄色い半月みたいなのって···もしかしてオムレツなのかな。ほんのりバターの香りがして、食欲をそそられる。見るからにふわふわしていて、とても美味しそうだ。

「食べてみるか?」

「あうあう」

 僕の期待に満ちた目を見て、ジルがオムレツのお皿を取る。
 スプーンで掬った断面に、何か入っているのが見える。

 ぱくり。

 ジルが口元にもってきたオムレツを食べる。バターの風味と、ふわふわの卵!それに中からお肉の味。これはミートオムレツだ!トマトの酸味と玉ねぎの甘さを感じるから、お肉と一緒に炒めてあるのだろう。ふわふわで中はとろとろの部分があって、お肉の味付けが卵と合っていて、バターも香る。なんかもう、色々幸せ···!

「あうー!」

「美味いか?」

「あう!」

 美味しい!と答えれば、ジルが頭を撫でてくれる。幸せ···!

 オムレツを半分ほど食べたところで、パンの方に目を移す。オムレツはまた後で食べて、もう一回幸せに浸るんだ。
 パンは、いつものとは違うようだ。緑色とオレンジ色の···蒸しパン?

「お前が夜中に起きたら作ろうと思っていたが···よく寝ていたからな」

 ···どこまでイケメンなんですか!
 僕が夜少ししか食べなかったから、お夜食もちゃんと考えてくれていたようだ。なのに僕ったら、爆睡しちゃってたよ!

 ちょっと悔しい気分になりながらも、緑色の蒸しパンにぱくりと食いつく。
 ああー、しっとりしてる!蒸しパンって、うまくいかないと口の中の水分が全部持って行かれるパンに仕上るが、これは全然そんなことない!キメが細かいのかな?このしっとり食感!···最高!味はほんのり甘くて優しい感じ。緑色だから···ほうれん草だろうか。細かく刻んで、練り込んでくれたのだろう。じゃあこのオレンジ色は···?ぱくり。ふむふむ、ニンジンかな?こちらも優しい甘さが美味しい。ただの蒸しパンじゃなくて、野菜を細かくして練り込む手間をかけてくれるその優しさが、たまらなく嬉しい。

 おっと。またじわっときそうになってしまった。すっかり涙腺が緩んでしまったようだ。

 よし、スープもいただこう。これは···野菜のコンソメスープみたいだ。澄んだ琥珀色がとても綺麗だ。野菜にスープの味がちょうどよく染みていて、スープには野菜の旨味が溶け込んでいる。この世界に、コンソメスープの素ってないよね···?きっとかなり時間をかけて作ってくれたのだろう。すごく、すごく美味しい。

 僕はオムレツと蒸しパンとスープのループを何周もして、何度も幸せに浸った。


 朝食を終え、満腹~、満足~、とお腹を撫でながらまったりしていると、テムとファムがやって来た。

「よっ!遊びに来たぜ!」
 
「ジル、ウィルくん、おはよー」

 今日も、楽しい一日になりそうだ。
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