上 下
25 / 115
最果ての森編

23. ライトの検証

しおりを挟む
 心地良い眠りから目を覚ました。

 窓から差し込んでくる光で、どうやらがっつり寝てしまったようだと気づく。
 自分の部屋に戻っているから、ジルが寝かせてくれたのだろう。ほんと、どこまでもイケメンだ。

 何をして過ごそうかなと考えていると、体内の魔力量が昨日より増えていることに気づいた。今朝、僕がやらかしてしまったせいだ。
 これが今の最大量なのだろうか。どこまで増えるか分からないし、また吸魔石を使うような状態にはなりたくないから、魔力を消費するとしよう。
 今、使える魔法は一つ。

「『りゃいちょ』」

 指先に光を灯す。うんうん、かなり慣れてきたぞ。

 あ、これって、体から離せないのかな?アースショットは手から飛び出したんだし、できないことはないんじゃないか。

 光る指先をぶんぶん振っても、光は離れない。むう。やはり最初のイメージが大事なのだろうか。
 集めた魔力を指先から外に出すイメージで、魔法名を唱える。

「『りゃいちょ』」

 すると光がポロンと指先から落ち、すぐに消える。
 おお、離れた!でもすぐに消えたな。持続しないと不便だ。もう少し多めの魔力で固めるイメージをしてみたらどうだろうか。

「『りゃいちょ』」

 今度はポロンと落ちた光がそのまま輝き、しばらくして消える。成功だ!もっと多めにギュッと固めてみよう。

「『りゃいちょ』」

 また光が持続し、···さっきどれくらい続いたっけ?今回の方が長く光っている気がする。うん、きっとそうだ。
 
 よし、今度は光を大きくしてみよう。暗闇を明るく照らす大きな光をイメージする。大きな光だから、魔力マシマシでやってみよう。
 このとき僕はノリノリだった。ノリノリで、魔力をたくさん使った。使ってしまったんだ。

「『りゃいちょ』」

 途端にピカーッと眩しい光が僕の目を襲う。やばい!目がやばい!
 急いで布団を被り、ぎゅっと目を閉じる。あ、危なかった。誰だよ攻撃力がないなんて言ったのは···。色白イケメン許すまじ。

 完全な逆恨みだが、これくらい許してほしい。僕の目にダメージを与えたのだ。僕のせいだが。

 あ、そうだ。某アニメでの大佐の有名なあのセリフ、言ってみたかったな。
 ···今度ライにやってあげよう。

 ようやく光が消えた部屋でフフフ、と黒い笑みを浮かべていると、ジルが入ってきた。

「さっきから魔力が動いているなとは思っていたが···最後のは何をやったんだ?」

 ちょっと、いやかなり多めに魔力を使ったから、心配させたようだ。でも、言えない。調子に乗って自爆したなんて、とても言えない。
 はっ!そうだ!僕は喋れないんだ!

「あう~」

 ニコニコ笑って誤魔化す。

「···何ともないならいい」

 イケメンは、僕の下手な笑顔に誤魔化されてくれた。

「夕飯を作っているが、もう少しかかる。ここで待ってるか?」

 どうやら料理を中断させてしまったようだ。申し訳ない。
 一人でいてもつまらないから、リビングへ行ってもいいだろうか。

「あうあう」

 ジルの方に両手を伸ばす。

「そうか」

 エメラルドの瞳が優しく揺れる。
 ジルが僕を抱え、リビングへ連れて行ってくれた。

 そういえば、スキップができたからベッドからも降りられたんじゃないか。今度やってみよう。ジルに抱えてもらうのにすっかり慣れてしまった。

「夕飯を作るから、ここで待ってろ。···腹は減ってるか?」

 ジルが僕を椅子に下ろし、訊ねる。
 お昼ご飯を食べた後すぐに寝て、さっき起きたから空腹というほどではない。

「あーう」

 人差し指と親指の間にちょっと隙間を作って見せる。これで伝わるかな。

「···少し、ということか?」

「あう!」

 伝わった。さすがだ。

「分かった。夕飯は少なめにしておこう。···夜中に腹が減ったら、軽く食べる物を作るから安心しろ」

 ありがたい!後でお腹空いたらどうしようって思っていたのも伝わった。さすがだ。

「お前は顔に出るから、分かりやすい」

 さすがだ、と思っていたのも伝わった。さすがだ。


 ジルが夕飯を作ってくれている間、僕はまた魔法の練習をしていた。
 特大ライトじゃなくて、体から離す方のライトだ。色んな色をつけて、あちこちに放り投げる。そのうち消えるから問題ないだろう。ジルもこちらの様子をちらっと見ていたが、何も言われなかったのできっと大丈夫だ。

 そうやってジルを待っていると、玄関が開いた。ライだ。

「ウィル君、また来たよ!って、え、何これ!?」

 ライがリビングに散らばっている光に驚く。

「『りゃいちょ』」

 ライに投げライトを作って見せた。

「···ふふふ、やっぱりウィル君は面白いね」

 ライの声に、ジルがリビングへやって来た。

「ライ、来たのか。もう用事が済んだのか?」

「あ、ジル。用事は終わったよ。学校のことはだいたい聞いてきて、私が教えられそうだと思ったから自宅から本を持って来たんだ」

 学校?僕に何か教えてくれるのだろうか。

「そうか、助かる」

「ふふ、ウィル君といると楽しいからね。それに私も色々教えてもらっているよ」

 そう言うと、ライが本を数冊取り出す。

「それとね、クリーンが出来るとはいえ一張羅じゃ足りないだろうから、服も買ってきたんだ」

 そういえばずっと同じ服を着てるけど、汚れてない。お風呂も転生してからはまだ入ってないけど、体は清潔なままだ。汚れても、またキレイになっているのだ。
 さっきライが言ってたクリーンというのは魔法だろうか。体や服をキレイにできる魔法は是非習得したい!今までは僕が寝ているときなどに、ジルがやってくれていたのだろう。このイケメンには毎秒感謝しても足りないくらいだ。

 ライが買ってきた服を並べる。どれもシンプルで、僕好みだ。

「ウィル君の好みが分からなかったから、無難なものになっちゃったけどね」

 いえいえ、ありがたいです。

「悪いな、金は払う。いくらだ?」

「いや、いいんだ。マンティコアを売却したお金で買ったからね」

「それはお前のだろ」

「ふふ、そうだね。だから私のお金で、私が買いたい物を買ったんだ」

「···そうか。ありがとな」

 ライが男前だ。特大ライトは勘弁してあげることにしよう。
しおりを挟む
感想 380

あなたにおすすめの小説

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

流石に異世界でもこのチートはやばくない?

裏おきな
ファンタジー
片桐蓮《かたぎりれん》40歳独身駄目サラリーマンが趣味のリサイクルとレストアの資材集めに解体業者の資材置き場に行ったらまさかの異世界転移してしまった!そこに現れたのが守護神獣になっていた昔飼っていた犬のラクス。 異世界転移で手に入れた無限鍛冶 のチート能力で異世界を生きて行く事になった! この作品は約1年半前に初めて「なろう」で書いた物を加筆修正して上げていきます。

処理中です...