9 / 115
最果ての森編
8. 父親
しおりを挟む
僕の前世の父親は、嫌な奴だった。
ギャンブルを好み、酒癖が悪かった。そのうえプライドが高く、気に入らないことがあると怒鳴って暴力を振るうような奴だった。
母さんはそんな父に嫌気が差して家を出たのだと思う。
僕は置いて行かれた。
新しく出来た恋人と過ごすのに、僕の存在は邪魔だったのだろう。結局その恋人とも別れて、最期は一人、部屋で亡くなっていたそうだ。
父は、母さんに見限られたということを認めなかった。プライドが許さないからだ。
母さんの墓を建てていなかったのは、意地を張っていたのだろうか。父の考えは、僕には理解できないからよく分からない。
母さんの記憶はほとんどない。
ただ、僕を産んでくれたことには感謝している。
嫌な父親と過ごす日々は辛かったけど、学校は楽しかった。友達から本を借り、その世界に浸る時間が何よりも好きだった。
自由な世界を知って、憧れた。
ワクワクして、くすりと笑えて、時々切なくて、色んな感情を抱ける世界が好きだった。
こんな世界を知れてよかった。
大げさかもしれないけど、生まれてきてよかった、と思ったんだ。
だから、これは僕を産んでくれたお礼。
つまらんプライドを捨てきれない父親の代わりにお墓を建てようと思ったんだ。
まあ、その前に僕が死んじゃったけどね。
あのお金はどうなっているだろうか。
ギャンブルや酒代に消えていないだろうか。
それだけが心残りだ。
そして僕は生まれ変わった。
白い空間で願い事をした記憶がある。
『もし生まれ変われるのなら、今度はいい父親に恵まれるといいな』って。
そしたら、『その願い、聞き届けましょう』って綺麗な声が聞こえたんだ。
この願いが、今叶うのだろうか。
「···ウィル、お前はどうしたい?」
ジルが僕に聞く。
答えなんて、決まってるよ!
「あう!」
期待を込めてジルを見る。
「そうか。···それなら、お前は俺の息子だ」
「あうあう!」
視界がぼやける。
零れそうになる涙を手で拭う。
良かった。願いが叶ったんだ。
ありがとう、リイン様。
頭を撫でる大きな手にくすぐったさを感じ、笑みがこぼれる。
「良かったねえ、ウィル君。···ブフッ!」
感動的なシーンのはずなのに、ライが急に吹き出す。
「どうしたんだ、ライ?」
テムが不思議そうに訊ねる。
「いや、だって···。ウィル君のステータスをまた見たんだ。名前がちゃんと反映されてるかなと思って。そしたら増えてたんだ、称号が」
「何が増えたのー?」
「黒龍帝の愛息子。···ふふっ」
「ブハッ」
「あははっ!愛息子かあー!ウィルくん、良かったねー!」
テムとファムも堪えきれずに笑い出す。
まじか。これは照れる。
嬉しくて口がムズムズする。
「···悪いか」
ジルがほんのり赤い顔で視線を逸らす。
僕の父親が可愛すぎて辛い。
名前:ウィル
種族:人族
年齢:1
レベル:0
スキル:成長力促進、言語理解
魔法:
耐性:
加護:リインの加護
称号:異世界からの転生者、黒龍帝の愛息子
ギャンブルを好み、酒癖が悪かった。そのうえプライドが高く、気に入らないことがあると怒鳴って暴力を振るうような奴だった。
母さんはそんな父に嫌気が差して家を出たのだと思う。
僕は置いて行かれた。
新しく出来た恋人と過ごすのに、僕の存在は邪魔だったのだろう。結局その恋人とも別れて、最期は一人、部屋で亡くなっていたそうだ。
父は、母さんに見限られたということを認めなかった。プライドが許さないからだ。
母さんの墓を建てていなかったのは、意地を張っていたのだろうか。父の考えは、僕には理解できないからよく分からない。
母さんの記憶はほとんどない。
ただ、僕を産んでくれたことには感謝している。
嫌な父親と過ごす日々は辛かったけど、学校は楽しかった。友達から本を借り、その世界に浸る時間が何よりも好きだった。
自由な世界を知って、憧れた。
ワクワクして、くすりと笑えて、時々切なくて、色んな感情を抱ける世界が好きだった。
こんな世界を知れてよかった。
大げさかもしれないけど、生まれてきてよかった、と思ったんだ。
だから、これは僕を産んでくれたお礼。
つまらんプライドを捨てきれない父親の代わりにお墓を建てようと思ったんだ。
まあ、その前に僕が死んじゃったけどね。
あのお金はどうなっているだろうか。
ギャンブルや酒代に消えていないだろうか。
それだけが心残りだ。
そして僕は生まれ変わった。
白い空間で願い事をした記憶がある。
『もし生まれ変われるのなら、今度はいい父親に恵まれるといいな』って。
そしたら、『その願い、聞き届けましょう』って綺麗な声が聞こえたんだ。
この願いが、今叶うのだろうか。
「···ウィル、お前はどうしたい?」
ジルが僕に聞く。
答えなんて、決まってるよ!
「あう!」
期待を込めてジルを見る。
「そうか。···それなら、お前は俺の息子だ」
「あうあう!」
視界がぼやける。
零れそうになる涙を手で拭う。
良かった。願いが叶ったんだ。
ありがとう、リイン様。
頭を撫でる大きな手にくすぐったさを感じ、笑みがこぼれる。
「良かったねえ、ウィル君。···ブフッ!」
感動的なシーンのはずなのに、ライが急に吹き出す。
「どうしたんだ、ライ?」
テムが不思議そうに訊ねる。
「いや、だって···。ウィル君のステータスをまた見たんだ。名前がちゃんと反映されてるかなと思って。そしたら増えてたんだ、称号が」
「何が増えたのー?」
「黒龍帝の愛息子。···ふふっ」
「ブハッ」
「あははっ!愛息子かあー!ウィルくん、良かったねー!」
テムとファムも堪えきれずに笑い出す。
まじか。これは照れる。
嬉しくて口がムズムズする。
「···悪いか」
ジルがほんのり赤い顔で視線を逸らす。
僕の父親が可愛すぎて辛い。
名前:ウィル
種族:人族
年齢:1
レベル:0
スキル:成長力促進、言語理解
魔法:
耐性:
加護:リインの加護
称号:異世界からの転生者、黒龍帝の愛息子
31
お気に入りに追加
5,818
あなたにおすすめの小説
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
捨てられた転生幼女は無自重無双する
紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。
アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。
ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。
アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。
去ろうとしている人物は父と母だった。
ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。
朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。
クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。
しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。
アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。
王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。
アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。
※諸事情によりしばらく連載休止致します。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。
婚約破棄されたのだが、上司がチートでツラい。
藤宮
恋愛
「ローズ・イスパハン。貴様のティルナシア・カーターに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのような賤きものを我が皇家に迎え入れるわけにはいかぬッ!、よってここにアロー皇国皇子イヴァン・セネガル・アローとイスパハン子爵家令嬢ローズ・イスパハンの婚約を破棄する! そして新たに、この可憐なるカーター男爵家令嬢、ティルナシア・カーターとの婚約を此処に宣言する!」
…実験的に、婚約破棄モノ、ちょっとやってみたかった。
あんまり、ざまぁ感がない…
14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
異世界転生は、0歳からがいいよね
八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。
神様からのギフト(チート能力)で無双します。
初めてなので誤字があったらすいません。
自由気ままに投稿していきます。
聖女は断罪する
あくの
ファンタジー
伯爵家長女、レイラ・ドゥエスタンは魔法の授業で光属性の魔力を持つことがわかる。実家へ知らせないでと食い下がるレイラだが……
※
基本は毎日更新ですが20日までは不定期更新となります
追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたので、あいつを後悔させてやることにした
チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
世間で高い評価を集め、未来を担っていく次世代のパーティーとして名高いAランクパーティーである【月光】に所属していたゲイルは、突如として理不尽な理由でパーティーを追放されてしまった。 これ以上何を言っても無駄だと察したゲイルはパーティーリーダーであるマクロスを見返そうと、死を覚悟してダンジョンに篭り続けることにした。 それから月日が経ち、数年後。 ゲイルは危険なダンジョン内で生と死の境界線を幾度となく彷徨うことで、この世の全てを掌握できるであろう力を手に入れることに成功した。 そしてゲイルは心に秘めた復讐心に従うがままに、数年前まで活動拠点として構えていた国へ帰還すると、そこで衝撃の事実を知ることになる。 なんとゲイルは既に死んだ扱いになっており、【月光】はガラッとメンバーを変えて世界最強のパーティーと呼ばれるまで上り詰めていたのだ。 そこでゲイルはあることを思いついた。 「あいつを後悔させてやろう」 ゲイルは冒険者として最低のランクから再び冒険を始め、マクロスへの復讐を目論むのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる