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三、

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 この能力に目覚めてから、私はもう一つ大きなことに気が付いた。私の近くで、死にたいと心の中で叫んでいる人の声が聞こえるようになったのだ。これに気付いたきっかけは、夜中に小腹が空いたのでコンビニに行った時だった。

「僕はもう死にたい」

コンビニの中で若い男の声がした。

「はい?」

私は思わず振り向いた。しかし、そこには誰もいない。私がいる通路には誰もいなかったので、コンビニ中を歩き回ると、高校生ぐらいの若い青年が一人いた。レジはおじさんだったので、さっきの声は間違いなくこの子だと分かった。十五歳で占い師ごっこをしてから早いものでもう五年経っていたので、この子とはそう歳が変わらないはずなのにどうして死にたいのだろう。私は青年の心の声が聞こえた事よりも、この青年がなぜ死にたいと考えているのか、そちらの方に気が向いていた。そうだ、話しかけてみよう。私は思い切って青年に話しかけてみた。

「君、死にたいの?」
「えっ」
「君の心の声が聞こえたの」

彼は少し困った顔をした。私はもう一度話しかけた。

「私なら、あなたを救ってあげることができる」
「本当ですか?」
「えぇ。信じてもらえないかもしれないけど、私には特殊な能力があるの」

私何言ってるんだろう。本当の事だけど、普通の人からしたらコイツ頭おかしいな、と思われるだろうな。なんて考えていたら、彼はしばらくしてから返事をした。

「助けてください」

彼の瞳は涙で潤んでいた。
 私たちはコンビニで適当に食べ物を買って、イートインスペースに隣り合わせに座った。

グーッ

私のお腹は盛大な音を立てて鳴り始めた。私はさすがに人前でこんなにお腹を鳴らしたことはなかったので、赤面した。青年は憂鬱な顔のままだったが大笑いして、

「とりあえず、先に食べましょうか」

と言ってくれたので、私はインスタントのスープにお湯を入れに行って、数分間出来上がりを待っている間に彼に尋ねた。

「どうして死にたいの?」

青年は小声で言った。

「第一志望の大学の模試の判定がE判定だったんです。僕の父は医者で、将来後を継がないといけないのは分かっているのに、このままじゃ親の期待に応えられないんです。小学生の頃から塾に行かせてもらっているのに、このまま第一志望に落ちたら、親に合わす顔がありません」
「なるほどねぇ。でも、あなたが死んだらご両親はもっと悲しむと思うけど」
「でも、死んだら楽になれる…」

ピロローン

スマホでかけていたタイマーが鳴った。スープができたので、私は黙って黙々と飲み始める。青年は、サンドイッチを食べるのを待っていてくれたようで、私がスープを飲み始めると、タイミングを同じくして食べ始めた。二人とも一言も話さずに食べ終わると、私はいよいよやるかと意気込んだ。

「じゃあ今から君の苦しみを取り除きます」
「さっき話を聞いてくれたのがそうじゃなかったんですか?」
「違うよ。楽になってないでしょ?」
「はい。だからやっぱりインチキかと思いました」
「違うよ!今から取り除くの!」

私は少しムッとして、青年に指示を始めた。

「じゃあ、私の両手に君の両手をピッタリ合わせてくれる?」
「こうですか?」

青年は指示された通りに手を合わせた。

「じゃあそのまま楽にしてて」
「わかりました」

青年は不思議そうな顔をしていたが、私はいつも通り手に全神経を集中させて目を閉じた。手が熱くなってくる。私はこの五年間、占いの館でこの行為を何度か行っていたので、初めての時のように疲れなくなっていた。青年は急に声をあげた。

「すごい!」

私は成功したと確信して、目を開けて両手を離す。

「どう?楽になった?」
「インチキじゃなかった!心がとても軽い…。嘘みたいだ」
「嘘じゃないよ」

私は微笑む。青年も微笑み返す。先程の憂鬱な顔はどこへいったのやら、やる気に満ち溢れた、といった表現が正しいだろうか。そんな顔に変わっていた。

「僕、何年かかっても第一志望に合格してみせます。そして医者になって、父の後を必ず継ぎます。ありがとう」

青年は財布から千円札を取り出して、私に渡した。

「これしか今持ってなくて」

私は千円札を彼に返した。

「お礼は君が医者になってガッポリ稼いでからでいいよ」

私はジョークを言ったつもりだったが、青年は大きな声で、

「わかりました!本当にありがとうございました!」

と言って立ち上がり、お辞儀をして帰って行った。私も彼が見えなくなるまで見送ってから家へと帰った。そして、一番気にしなくてはいかなかったことに帰ってから気が付いた。

「私、苦しんでいる人の心の叫びも聞こえるようになってる!」

私は昔から何か一つの事に夢中になると、他の事が頭から消えてしまうので、コンビニに居た時は青年のことで頭がいっぱいだったのだ。帰って来て冷静に考えてみると、なんだか怖くなった。私は両手を人と合わせることで、相手の苦しみを吸い取ってあげることができる。さらに、近くにいる人の心の苦しみが聞こえる。私はおかしくなってしまったのだろうか。病院で診てもらった方がいいのだろうか。診てもらったところで、信じてもらえるはずがない。どうしよう、どうしよう。

 何時間経っただろう、外が明るくなっていた。私の心は固まっていた。私はこれから、心の叫びを発している人を探して救うことにしよう。と。私はきっとそういう星のもとに生まれたのだ。私には、人を救う力がある。能力に気付いた時はとても怖かったけれど、人の役に立つのが好きな私は、考えれば考える程、その能力に目覚めたことに嬉しさを感じていた。
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