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5章 前世と向き合う覚悟

進むべき道は?

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あの日から毎日、学校の時間になれば恭介くんが家まで迎えに来てくれた。
母さん達は嬉しそうに彼を家に迎え入れている

最近は恭介くんを交えて朝ご飯を食べてから学校に行くことが多い

隣でご飯を美味しそうに食べている恭介くんをみると、すぐに私の視線に気づいて嬉しそうに微笑みかけてくれる

なんだか心地いいこの居場所に私はこのままでもいいかもしれないと、そう思うようになった


「海愛に恭介くん、学校遅刻しちゃうわよ」


母さんに言われ時計を確認すればいつもより確かに遅い時間になっていた


「やば!恭介くん、行こ!」

「うん、海愛ちゃん」


二人してバタバタと部屋を出る
恭介くんは私のぶんの食器も下げてくれたようで…


あぁ、女子力なくてごめんよ!恭介くんは優しいなぁ…

なんて考えながら靴を履き終え、外に出ようとした瞬間フワリと地面から足が浮く
いや。性格には全体が浮いて…


「しっかり捕まっててね」

「は、はい!?」


恭介くんにお姫様だっこされていた。
細くて折れそうだとか女の子っぽいなぁって思ってた腕は考えてたよりしっかりしてて…


「男の子なんだなぁ」


ポツリと思ったことを言ってしまい、はっとしたけど、聞こえていなかったのか


「お義母さん、行ってきます」

「あら、行ってらっしゃい!気をつけてね」


恭介くんは嬉しそうに微笑みながらそのまま走り出したから何も言えずにしがみついた


重くないかな
とか
こんなに力あるんだ
とか
そんなことしか頭に浮かばなくて…

じっと見つめていた間に学校についていたようで…


「海愛ちゃん、ついてるんだけど…」


少し照れくさそうに笑う恭介くんに慌てておろしてもらう



「あ、ありがとう!ご、ごめんね!」

「大丈夫だよ、じゃあまた放課後ね」


ポンポンと頭を撫でてくれた

じんわりと胸が暖かくなる。
叶うなら…この温もりだけは奪われたくないと…そう思った


「あれ、海愛」


ゴクリと息を呑んだ。
背筋が凍る感覚……

見たくない、顔をそっちに向けたくない


でも、そっちに顔を向ければ、怖い顔をしたセナが立っていた…

私と目が合うとニヤリと笑みを浮かべた


「ねぇ、海愛ぁ。あんた、雪愛さんはどうしたのぉ?振られたの?」

「えっと、セ、セナ?」

「もう他の男いるんだぁ?眼鏡かけててダッサイ男」


クスクスと笑いながら私の隣にまだいた恭介くんを見定めるような目で見ている

あぁ……まただ…


「そんなこと言わないでよ、アハハ」


そう、笑って流せば周りには被害がいかない
笑え、私にできることはそれしかないんだから


「そう言うのって…男取っ替え引っ替えしてるってことだよね?私、そういう子無理だわぁ。海愛キモい」


ケラケラと大きな声で笑いながら言うセナ
周りの生徒たちもこちらをチラチラ見て、ヒソヒソと何かを話してるのが聞こえる…


「あの人って2年の佐賀宮さんよね?あ、今は森野?さんだっけ」

「あいつ男取っ替え引っ替えしてるってホントだったのかよ」

「こわ…」


冷めた視線が突き刺さる
痛い…苦しい


やだ、助けて


急に込み上げる吐き気に耐えながら笑みを浮かべていた
早く、早くやり過ごさなきゃ


「やめてください!」


大きな手が私を抱きしめ、そして私の耳をそっと塞いでくれた


「あなた、海愛ちゃんの友達ですよね?」

「そうだけど?ねぇ、海愛。腐れ縁の親友だもんね?」

「少なくとも!僕には貴方が海愛を利用してるようにしか見えません」


ドクン、ドクンと僅かに早い鼓動の音が彼の手から伝わってくる…

あぁ…この人は私の噂じゃなくて私自身を見ようとしてくれてるんだ


「はぁ、あんた、誰よ?先輩ではないわよね?」

「…僕は、1年の凛宮です」

「年下の癖に生意気じゃない?私は本当のことを言っただけじゃない」


私は恭介くんの腕の中で震えてるしかできなくて…周りの人たちも何か言ってるみたいだけど何も聞こえなくて、怖くてずっとしがみついていた

私が一人で生きていけたらこうなってなかったのかな

そんな考えがよぎる


「貴方は、同じことを言われたらどうします?」

「は?私の彼氏たちを取った女と同じこと言われるわけないじゃない。ばっかじゃないの?」

「最低ですね。大勢の前でこんな」


恭介くんが、私を抱きしめる腕に更に力を込める

ごめんなさい、私のせいだ
あの日頼ってしまったから
心を許してしまったから

私が


弱いから



ワタシガ


イナケレバ



そう考えた瞬間、2つの影が私達の前に立ちはだかった


「きょうちゃんさぁ、カッコつけるのはいいけど私達も頼りなよ」

「そーそ、大体、こんなところで馬鹿らしいこと言ってるそこの女の方が頭おかしいんだからさ」


そう言って可愛らしい女の子とニコニコしてる男の子が私達の前に出てくれた


「花陽に葵茨ぎばらくん!」

「恭介くんはさぁ、少しは僕らに相談しなよー」

「そうそう、ぎばちゃんと私はきょうちゃんと同級生なんだからさ」


そこからは早かった
二人がずっとセナを睨んでいたおかげなのか、すぐに周りの野次馬も離れていって
セナも悔しそうにこちらを睨みつけ、校舎に入っていった

野次馬の中に雪愛の後ろ姿を見た気がしたけど私は見ないふりをした


「あの、ありがとう」

「きょうちゃんが守りたい子は私達も守りたいからね!気にしないで!」

「そうそう。気にしてもいいことないからさ」


二人ともヘラヘラと笑って先に校舎へ歩き出した


「あの、海愛ちゃん、大丈夫?」

「うん、ありがとう」

「何かあったらすぐに連絡して、飛んでいくから」


そのまま恭介くんは私を抱きしめてくれた

私は



選ばなくちゃいけない


過去を切り捨て前に進むのか
過去にすがりついて立ち止まるのか

恭介くんが居るなら前にすすめる気もする

でも…



野次馬の中にいた雪愛の悲しそうな目が頭にこびりついて離れなかった…
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