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4章 友人

大好きな音

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…休日の公園は日が落ちるにつれて人が少なくなっていく
いつの間にか日が傾き始めていて
私は慌てて家へ向かった


「長居しすぎた!義兄さん達怒ってないかな」


そっと玄関をあけ、開いていた廊下の扉の隙間から中を覗く


「…きなの?」

「あぁ…」


抱き合いながら会話をしてる義兄さん達の姿が見えた

その瞬間息が苦しくなる
まるで水の中にいるみたいに…

そして二人の顔が近づいて…



『やめて!』


過去の私の姿が重なる

違うよ、大丈夫
私は邪魔はしない…

二人にバレないように私は自室へ向かった
お気に入りのリュックに必要なだけ荷物を入れる
オルゴールも…もらっていっていいよね…私にってくれたものだし

思い出の詰まった部屋を見回し、机に鍵をおいて再び玄関へ向かう


義兄さんたちはまだ話てるみたいで、その姿を確認することはもうしなかった


…メモだけ残そう

そう思い、前々からこんな日が来たときのために残していた手紙を買い物袋の上にのせ、そのまま玄関から出た


「っ……」


涙が溢れた
とめどなく溢れる涙を振り切るかのように私は走り出す

いっそ、この記憶も何もかも消えてくれればいいのにと
そう願いながら走る

悲しみも苦しみも全部を振り切るかのように私は走った


家に戻る?
ううん、母さん達が幸せそうに暮らしてる家に戻るわけにはいかない

貯めてたお金で家を借りる?
ううん、多分足りない


どうすることもできずに、私はその日はホテルに泊まることにした


ホテルの部屋は一人には少し広いくらいだった


「一人…かぁ…」


見るのも嫌だったスマホに目を向けると
義兄さんからたくさんのメッセージが来ているみたいだった


「幸せにね…義兄さん………ううん…雪愛…」


私の中できっと納得していないから
雪愛のことを名前で呼ぶのだろう
諦めるために義兄だと、そう言い続ける

あふれる涙がその証拠だ

突然始まって勝手に終わらせた共同生活

寝起きに義兄と鉢合わせして、私が照れてビンタしても義兄は笑って許してくれて

オルゴールも…とても可愛くて
部屋においてあった時からお気に入りだったっけ……

オルゴールは小さな小箱タイプでネジがなくて聞くことができなかったんだっけ


カパッと蓋を開けると蓋の裏にネジが貼り付けてあった


「なーんだ…こんなところにあったんだ…」



ネジの持ち手?の部分には何かの家紋?のようなものが描かれている…
それはとても…見覚えのあるものだった


「私の……家紋?」


前世の私の家の家紋のようだった

恐る恐るネジを巻くと…
心地よい音が流れた

その曲は



「私の…歌……?」


前世の私が作った曲だった
イケ男を寝かしつけるために歌い続けていた歌
私とイケ男にとって大切な歌だった


「ねぇ…雪愛…あなたは知ってたの?私と……」


貴方が前世で愛し合った恋人だって







私は泣きながらオルゴールを抱きしめた
どうか、私の選択が間違ってませんように…と願いながら
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