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女神編
5葬目 −移り気な華−
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6月に入った頃のお話。
雨がしとしと降り続けるこの時期、館は毎日のように開いている
日高はまた、館に来ていた
もちろん、取材の続きだ
館の物語が一つだけなのも味気なく、ここしばらく毎日よっていた
「女神様~!」
日高の声に女神は、またか、というようにため息をつく
『何でしょう?』
「花のお話を!是非!」
嬉しそうに微笑む日高に女神は諦め半分に目をそらせば、ついてきなさい、というように歩き出す
「女神さま、ここ、一人で寂しくないですか?」
女神が立ち止まる
『寂しい…?』
「俺だったら寂しくて仕方ないですよー」
『…昔から一人よ、それにここには昔とは違って華達がいますから…』
[貴女は謙虚なんですね、俺、あなたの事好きですよ]
女神の頭に、誰かの声がよみがえる
懐かしい人影が頭によぎる
『え…』
「女神様?」
『なんでもないわ、こちらよ』
女神は動揺を隠すように、部屋に入る
(あれはいつの記憶?私の記憶…?それとも…華の…)
水槽の前でぼんやりとする女神
日高は不思議に思い女神に近づく
「あの、女神様」
はっ…としたように日高のほうをむき、慌てて平静を装う
『華のお話でしたね、今日はこちらにしましょう』
その水槽には
紫陽花とともに一人の女性が入っていた
女性の周りの紫陽花はどれも色が違っていた
「紫陽花、ですか?花言葉は確か、移り気」
『よく調べられてるのね、男性で花言葉を知っているなんて、珍しい方ですね』
クスクスと笑う女神に、日高は悪い気はしなかった
「え、えっとー、でも移り気と言うことは彼女のお話は浮気、とかですか?」
『さぁ、真実までは私にはわからないわ。わたしは華のお話を聞いて、話しているだけだから』
そうやって誤魔化されたのだろうか?
日高は思考を巡らせながら、女神に案内された椅子に座る
『この華のお話はね…
彼女は普通の過程に生まれた普通の女の子だったの
ただ普通に恋して普通に生活してる女の子
ただ人より、我慢強くて、優しかった
周りの人は彼女が冷徹だと言っていたわ
実の父亡くなったときも、母が亡くなったときも彼女は泣かなかったから
彼女の彼氏はそれが原因で別れたの
彼女はそれでも泣かなかったわ…
そのせいなのか、彼女の周りには男が沢山寄ってきてね…
彼女は幾度も周りの男たちのために色を変えたわ
嫌われぬように、愛されるように、と…
嫌いなものも好きになり、好きなものを嫌いになり
それはとても…見ていて辛いくらいに…
「私が愛されないのは、私がうまくできないからだから、大丈夫よ」
痛々しいくらい切ない笑顔でいつも笑っていたの
そんなある日、彼女に嫉妬した女性がいたの
何も持ってない彼女をすべてを持ってるって…そう言って
とんだ濡れ衣…彼女は何も持ってなかったの
そしてその女性にそのまま……』
日高は立ち上がる
「待って、ください。それって、事件じゃ…」
『表立って起きたことじゃないから、こうして有耶無耶にされて、消される』
女神はすべてを知っていると言わんばかりに厳しい目をして日高を見つめた
「でもっ、それじゃあ、彼女たちの無念は!!」
『晴らすわ…神と言えるものなのか、悪魔と言えるものなのかわからないけれど』
「晴らす、って…」
『彼女たちの話をするのが私。それを語り、悟らせ、罪を自覚させるのが私…』
「それって、貴女は…」
カタンと水槽から音が立つ
日高の動きが止まる、そして水槽の方を見れば、紫陽花の花がまた一つ咲いていた
『彼女はもう、眠れます。穏やかに…いつかまた、彼女のお話をしましょう』
女神の方を見ると、女神は優しく笑っていた
『さぁ、行きましょう。今日はここまでです』
その言葉と共に、日高は気づいた
雨が上がっているのだと…
館の外に出た日高は考える
彼女は幸せだったのか、と
(彼女を殺した女性はどうなったのだろうか、そういえば、ニュースになっていた。
女性が一人なくなった、と
もしその女性が殺害した女性だとしたら…)
ため息をつき、手の中のボイスレコーダーを見る
(彼女…女神は辛くないのだろうか、ひとりぼっちで……)
考えすぎた、と首を振り、歩きだす
また彼女から話を聞けるのを楽しみにして、日高は歩き出す
いつか、ちらりと見えた赤い着物の華の話を聞けることを信じて
紫陽花の花言葉
移り気。冷酷
辛抱強さ
寛容
雨がしとしと降り続けるこの時期、館は毎日のように開いている
日高はまた、館に来ていた
もちろん、取材の続きだ
館の物語が一つだけなのも味気なく、ここしばらく毎日よっていた
「女神様~!」
日高の声に女神は、またか、というようにため息をつく
『何でしょう?』
「花のお話を!是非!」
嬉しそうに微笑む日高に女神は諦め半分に目をそらせば、ついてきなさい、というように歩き出す
「女神さま、ここ、一人で寂しくないですか?」
女神が立ち止まる
『寂しい…?』
「俺だったら寂しくて仕方ないですよー」
『…昔から一人よ、それにここには昔とは違って華達がいますから…』
[貴女は謙虚なんですね、俺、あなたの事好きですよ]
女神の頭に、誰かの声がよみがえる
懐かしい人影が頭によぎる
『え…』
「女神様?」
『なんでもないわ、こちらよ』
女神は動揺を隠すように、部屋に入る
(あれはいつの記憶?私の記憶…?それとも…華の…)
水槽の前でぼんやりとする女神
日高は不思議に思い女神に近づく
「あの、女神様」
はっ…としたように日高のほうをむき、慌てて平静を装う
『華のお話でしたね、今日はこちらにしましょう』
その水槽には
紫陽花とともに一人の女性が入っていた
女性の周りの紫陽花はどれも色が違っていた
「紫陽花、ですか?花言葉は確か、移り気」
『よく調べられてるのね、男性で花言葉を知っているなんて、珍しい方ですね』
クスクスと笑う女神に、日高は悪い気はしなかった
「え、えっとー、でも移り気と言うことは彼女のお話は浮気、とかですか?」
『さぁ、真実までは私にはわからないわ。わたしは華のお話を聞いて、話しているだけだから』
そうやって誤魔化されたのだろうか?
日高は思考を巡らせながら、女神に案内された椅子に座る
『この華のお話はね…
彼女は普通の過程に生まれた普通の女の子だったの
ただ普通に恋して普通に生活してる女の子
ただ人より、我慢強くて、優しかった
周りの人は彼女が冷徹だと言っていたわ
実の父亡くなったときも、母が亡くなったときも彼女は泣かなかったから
彼女の彼氏はそれが原因で別れたの
彼女はそれでも泣かなかったわ…
そのせいなのか、彼女の周りには男が沢山寄ってきてね…
彼女は幾度も周りの男たちのために色を変えたわ
嫌われぬように、愛されるように、と…
嫌いなものも好きになり、好きなものを嫌いになり
それはとても…見ていて辛いくらいに…
「私が愛されないのは、私がうまくできないからだから、大丈夫よ」
痛々しいくらい切ない笑顔でいつも笑っていたの
そんなある日、彼女に嫉妬した女性がいたの
何も持ってない彼女をすべてを持ってるって…そう言って
とんだ濡れ衣…彼女は何も持ってなかったの
そしてその女性にそのまま……』
日高は立ち上がる
「待って、ください。それって、事件じゃ…」
『表立って起きたことじゃないから、こうして有耶無耶にされて、消される』
女神はすべてを知っていると言わんばかりに厳しい目をして日高を見つめた
「でもっ、それじゃあ、彼女たちの無念は!!」
『晴らすわ…神と言えるものなのか、悪魔と言えるものなのかわからないけれど』
「晴らす、って…」
『彼女たちの話をするのが私。それを語り、悟らせ、罪を自覚させるのが私…』
「それって、貴女は…」
カタンと水槽から音が立つ
日高の動きが止まる、そして水槽の方を見れば、紫陽花の花がまた一つ咲いていた
『彼女はもう、眠れます。穏やかに…いつかまた、彼女のお話をしましょう』
女神の方を見ると、女神は優しく笑っていた
『さぁ、行きましょう。今日はここまでです』
その言葉と共に、日高は気づいた
雨が上がっているのだと…
館の外に出た日高は考える
彼女は幸せだったのか、と
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考えすぎた、と首を振り、歩きだす
また彼女から話を聞けるのを楽しみにして、日高は歩き出す
いつか、ちらりと見えた赤い着物の華の話を聞けることを信じて
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移り気。冷酷
辛抱強さ
寛容
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