君の記憶に残るのはきっと自分じゃないけれど

桜月 翠恋

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2日目 放課後

すぐに先輩の所へ向かいたかったが、日直の仕事がある

なかなか終わらず少しイライラしてしまうが、そうすると少し目眩がする
体調を崩したのだろうか?

ふらついた身体をなんとか机に手をつくことで支える


「一ノ瀬さん!大丈夫?」

「神崎さん…ごめんなさい。少し目眩が……」

「……少し座っていて。家まで送るわ」

「本当にごめんなさい」

「…一ノ瀬さん、体調悪いんでしょう?朝から少し顔色悪かったわよ」


そう言って、神崎さんはパタパタと廊下へ走り出た

机に突っ伏して、ぼんやりと窓の外を見る
あぁ、人に迷惑をかけてしまった

そうして反省しても頭の中はぐるぐるして、どうしょうもなかった
少し目を閉じよう

そう思い、瞼を閉じる









「一ノ瀬さん」

どれくらいたったのだろう、神崎さんの声で目が覚める


「神崎さん?」

「一ノ瀬さん、少し熱があったみたい。これ、飲める?」


スポーツ飲料水を渡され、コクリと飲み込む
少しだけ、ほんの少しだけ珍しく美味しい、と感じた


「とりあえず家に帰りましょう。ほら、背中に乗って」

「……重いわよ、私」

「いいのよ。ほら、早く」


そうして神崎さんにおぶられ、神崎さんはゆっくりと私の家の方へと歩き始めた


ブブッ……バイブ音が聞こえ、神崎さんにおろしてもらってスマホを確認する

メッセージが届いていた。


いつものことで葵茨さんだった


『今どこ?』

『私の家の帰り道のコンビニの近く』

『了解』


スマホを閉じ、神崎さんに謝る


「ごめんなさい。本当に迷惑をかけて」

「大丈夫。気にしないで」

「お礼は必ずするわ」


そう言っていると、後ろから肩を引かれた

私がびっくりしていると肩を引いた人物が話し始めた


「ごめんね~。後は俺が送るから安心して」

「え、葵茨さん!?」

「あら、お知り合い?」

「そうそう。保護者みたいなもんだよ」


そう言うと葵茨さんは私を軽々とお姫様抱っこして、歩き始めた

神崎さんはまたね、と手を振って帰っていった


「葵茨さん、どうして」

「いやね、俺の知り合いが一ノ瀬ちゃんが体調悪そうだったって教えてくれてね」


細長の目を優しく細めて、笑いかけてくれる
この人はそういう人だった。
何を考えてるかもわからない、変な人


「本当に変な人ですね」

「えー、せっかく来たのにー。あ、でも……アイツが来てくれたほうが良かったのかな」

「…そんなこと、ないです」


図星をつかれ、目を伏せる

葵茨さんは毎回図星をついてくる
少しやりにくいな、と思っているとさらに私は言葉を失ってしまう


「いつになったら一ノ瀬ちゃんは、アイツに素直になるのさ。言わなきゃいけないこと、いっぱいあるのに」

「……葵茨さんにはわかりませんよ。複雑な家庭のことなんて」

「そっかそっか。家についたよ」


そう言って私を優しく下ろしてくれる


「またねー」


私の返事を聞く前に葵茨さんは立ち去ってしまった
私は葵茨さんのことより、頭にあるのは


「……和紀先輩に会えなかったな…」


1日を無駄にしてしまったな、と思いながら私は部屋に戻るのだった
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