君の記憶に残るのはきっと自分じゃないけれど

桜月 翠恋

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初日


告白してから、四ノ宮先輩の友人たちは手を振って私達を見送ってくれた

友人の一人、はやと先輩は私にこっそり耳打ちをした


「一ノ瀬ちゃんが諦めない限り、ちゃんと協力すっから、安心してな」

「…ありがとうございます」

「じゃーな」


そう言って立ち去るはやと先輩達
彼らは私がこれが何十回目になるかの告白なのも知っている

そのうえで応援してくれているのだ


「で、どうする?初日からデート?」

「先輩の好きなハンバーガー食べに行きましょう!」

「お、俺の好きなのよく知ってるな、行くか」


楽しそうに笑って先輩は私の手を強く、でも優しく引いてくれた




✗✗✗✗✗








チェーン店のハンバーガーを頬張りながら、近くの公園のベンチに座っていた

無言でハンバーガーを食べていると、先輩が声をかけてきた


「一ノ瀬ちゃん、だっけ」

「はい、何でしょう先輩!」

「あのさ、なんで俺のこと好きになったの?」


先輩は不安そうな声で聞いてきた

きっと記憶を保てない、という不安が先輩にはあるのだろう

今までもそうやって私に聞いてきていた

私は一緒に買ったジュースを一口飲み、先輩に向き直る
そして意を決して話し始める


「私、幼い頃に先輩に助けてもらったんです。それで……それからずっと先輩を見てきました」


私の言葉に先輩は少し驚いていた


「俺が……一ノ瀬ちゃんを?」

「はい!先輩は覚えてなくても私は先輩に人生を変えてもらいました」

「いやいや、大袈裟だよ」


大袈裟なんかじゃない。
私は先輩に今までの人生を変えてもらった


「先輩ってカッコイイのにたまにドジだったり、子供っぽかったり……かと思ったらすごい大人びてたり。先輩の良いところも悪いところも全部……全部が好きなんです」


私がそう伝えると先輩は顔を真っ赤にしていた



可愛い



何度も繰り返した、数日間の

こんな先輩を見れたのは初めてで、私まで頬が熱くなってしまう……

横目で先輩を見ると優しい顔で笑っていた


「あの……」

「ん?なーに?」

「和紀って、呼んでもいいですか!」


緊張しすぎて声が裏返ってしまう


「あぁ…そっか。いいよ。恋人だもんな」


納得したように呟くと、私の頭を撫でてくれる


「あ、あの」

「えっと一ノ瀬ちゃんの下の名前って」

「は、葉月です!」

「じゃあ……葉月。」


先輩に名前で呼ばれるのはやっぱり慣れない。
何度繰り返しても恥ずかしいし、照れてしまうが…嬉しい

嬉しいのが顔に出ていたのか和紀が笑いだした


「本当に、変な女だなぁ」

「そんなことないですよ!」

「はいはい。そうだ。敬語もやめよーぜ。かたっ苦しいし」


頷き、改めて言葉を紡ぐ


「和紀…これからよろしく、ね?」

「……なぁ、葉月。俺ら……」


先輩が少し表情を曇らせる


「和紀?」

「いや、なんでもない。今日は遅いし帰ろう。送るよ」

「いや!私近いので大丈夫!また明日!」

「おう、またな」


そうやって優しく微笑む和紀に私はこれからも恋をするのだろうと思うのだった
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