魔女の生まれた屋敷

桜月 翠恋

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【私は生きる意味を見いだせない
飼い殺されている】


















私の病気は原因も何もかも不明らしい
医者が何人も来たが結局みんなさじを投げた


だから私は小さな街の近くの暗い森に建てられた洋館に閉じ込められている

そう、誰も来ない森の奥に

逃げ出せばいいと思うだろう
それができる身体なら私はとっくにここから抜け出しているだろう

足を動かそうとしてみる

ぴちゃ…ぐちゅ……

水音と不快な音が立つだけでほとんど動かせない

そう、私の足は動かない

と名乗った男がにしたから

もう痛まない足を見つめため息をつく
布団の上からではわからないが、この下では皮膚がめくれ、骨は変な方向に曲がっていたり、粉々になっていたりする

布団をめくり中を見れば、ボロボロな足を包帯でぐるぐる巻きにして無理に固定してある
ちゃんとした医師に見せて適切な治療をしていれば治ったかもしれないが…

父が私を逃さないためにしたことだ
医師を呼ぶことはないだろう
これからも…


「っ……!ゲボッ……ゴホゴホッ……」


急に込み上げて来た何かに咳き込む
喉の痛みに耐えながら咳き込む

咳き込むたびに喉の奥がピシッと音を立てて切れていく気がした
ズキズキ痛む喉

お水を飲まなきゃ……

ぜーぜーと息を整えながら思う

(私はいつ死ぬのだろう?)

ご飯も喉を通らなくなり、ほとんどお湯でできた粥を無理に飲んでいる状態だ
こんな身体で生きていく意味はあるのだろうか?

ポロポロと目の端から涙が溢れ出る
病気で頬がボロボロになっているせいなのか、涙まで好きなときに流せない
顔にしみる

痛みで余計に涙が溢れた


「っ……ぁ……」


情けなくて涙が止まらない
きゅっと歯を食いしばった

バタン!!と扉が勢い良く開く
黒髪が靡き、私の前までその人は飛んできた


「ローズ様!大丈夫ですか!?」


大きな悲鳴にも似た声をあげ部屋に入ってきたのは私の世話を任せられているメイドのヘレニだった


「ローズ様、お水です、飲んでください」

「ごめん…な、さぃ…ありが…と、ヘレニ」


かすれる声でなんとかお礼を言い、水を口にする
切れた喉にはピリピリとしみるけれど、乾ききった身体にはとても心地が良かった


「私はいいんです。ローズ様に何かがあったら私……私っ……」


ポロポロと私以上に涙を流すヘレニ
そしてぎゅっと私の手を握った




【私は


ヘレニ・ウームー。
このあたりでは珍しい漆黒の髪に、薄紫の瞳の綺麗な女性

彼女の世話で生きながらえているのだ

ぼんやりと意識がまどろむ
ヘレニから香る匂いのせいか、ヘレニが近くに来るとうとうとしてしまう

それに気づいたかのようにヘレニは優しい笑みを浮かべ私の頭を痛くないように撫でてくれる


「ローズ様、少しお眠り下さい。包帯も変えておきますから」


微笑む彼女に返事をするように小さく頷き、フカフカのベットへ身体を埋める

ふわっ…と柔らかい布団は足元だけがじんわりと足から溢れたであろう汁でぐちょっと湿っている

それでも身体はフカフカの布団に吸い込まれる

ゆっくり意識が飛んでいった








【私は生きている】




【死を待ちながら生きている】
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