上 下
2 / 7

1日目

しおりを挟む
その日はいつもと違った
何が、とは言えないけれど何かが違った


「あぁ、またか」


そう何気なく呟く

私には持病がある
それは【記憶が無くなってしまう】という症状を引き起こす病

詳しいことも何もわからなくて、お薬なども聞かない

ただわかっていることは

眠ると記憶が一部かける、ということ

それは他愛もない事ばかりだったから気にしていなかった

けれど今回は多分は一部、ではない気がする

たくさんの記憶が抜け落ちている気がする


考えても仕方ない

それが私の運命なのだから


ベットから起き上がり、準備を整え学校へ向かう
何を忘れているのかもわからないから今日は屋上へ向かった

みんなが授業を受ける中、私は一人屋上でサボっていた


「教えられたって忘れちゃうもん」


屋上の柵にも頬杖をつき、ぼんやりと他の教室を見つめる


私の記憶はどうやら1年分抜けているらしい

ここに通いはじめて夏ごろまでは記憶がある。それ以降から約1年分記憶が消えてるらしい


「2年になってるなんて、知らなかったもんなぁ」


私の人生に意味はあるのだろうか?
こうやって原因不明で1年分も記憶が無くなるなんて


「しょうもない人生」


ため息を吐き、柵に背を預ける
このまま落ちてしまってもいいかもしれない、と思う

ゆっくりと目を閉じ、記憶をたどる


私の名前は椛 ワスレなぐさ わすれ

高校2年になっているらしい
この病気が現れたのは両親が離婚した頃
小学3年になった頃だった

曖昧な私の記憶がどこまで正しいのかもわからない

ただ一言で表すならくだらない人生

いつ、友人のことも忘れてしまうかもわからない
いつ何を忘れるかもわからないのだから恋もする暇もない


「もういいかな」


そう呟いて、ぐっと身体の重心を後ろに傾ける

フッと体が浮く感覚
このまま飛べたらいいのに、なんて考えてしまう

この気持ちもいつまで続くんだろう、なんて考えながら……


「椛」


グイッと腕を引かれ目を開くと誰かの腕の中にいた


「ちょ…、なに」

「何じゃないだろう。じゃじゃ馬バカ女」


聞き覚えもない声に、顔を上げてそいつの顔を見ようとする


黒髪で短めのの癖っけ
やる気のなさそうな気だるげな目をしてる
けれどどこか怒っているような

私はこの人に見覚えがない
ましてや年齢からして20代はいってるだろう男性だ


「あの、誰なんですか」

「……椛、忘れてんの?」


私は小さく頷く

男の人は少し動揺したように瞳が揺らいだ気がした


「……椛の担任だよ」

「担任…?」

「そうだよ。名前も覚えてない?」

「全く」


はぁ、とため息をつき、私に向き直る


「想野、カスミ」

「想野先生?」

「カスミでいい。お前はそう呼んでたよ」


それが私の2度目らしい想野カスミとの


私の人生を狂わす男との出会いでした
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

御伽噺のその先へ

雪華
キャラ文芸
ほんの気まぐれと偶然だった。しかし、あるいは運命だったのかもしれない。 高校1年生の紗良のクラスには、他人に全く興味を示さない男子生徒がいた。 彼は美少年と呼ぶに相応しい容姿なのだが、言い寄る女子を片っ端から冷たく突き放し、「観賞用王子」と陰で囁かれている。 その王子が紗良に告げた。 「ねえ、俺と付き合ってよ」 言葉とは裏腹に彼の表情は険しい。 王子には、誰にも言えない秘密があった。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

華村花音の事件簿

川端睦月
キャラ文芸
【フラワーアレンジメント×ミステリー】 雑居ビルの四階でフラワーアレンジメント教室『アトリエ花音』を主宰する華村花音。彼はビルのオーナーでもある。 田邊咲はフラワーアレンジメントの体験教室でアトリエ花音を訪れ、ひょんなことからビル内同居を始める。 人生に行き詰まった咲がビルの住人達との交流を通して自分を見つめ直していく、ヒューマンドラマ……ときどきミステリーです。

処理中です...