鬼人の姉と弓使いの俺

うめまつ

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89,生き人形

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次の日、使用人部屋で寝ていたらメイドたちが朝から押し掛けてきて飛び起きた。

「待ってくださいっ」

「旦那様のご指示でございます。お急ぎくださいませ」

遅めの昼餐会に客が来るからと急き立てられた。

俺に何の関係があるんだよ。

でも分からない状況とまだ痛む怪我に抵抗する気が起きなかった。

されるがまま。

引っ張られたり立たされたりと目まぐるしい。

ちゃんとした食事はギルドの本部が最後だった。

ここでは薬を盛られるから大して食べてない。

空腹でふらついた。

飲み物だけでもと思い、咄嗟に近くに用意してある水を飲んだ。

それが悪かった。

後から徐々に意識が薄くなり体が動かなくなった。

指輪を使わなかったことをとてつもなく後悔した。

使用人達は動かない俺にレースとフリルがたっぷりの高価なドレスを着せて化粧を施す。

髪は脱色してコテで巻いてた。

なんでだよ。

意識が薄くてもぼんやり見えるし何されてるか分かるわい。

あのクソ貴族の声も聞こえてる。

他の使用人の会話よりよく聞こえるわ。

張りのある声が耳にキンキン響く。

”あいつらはこういうのが趣味だから。本当はもっと幼い女の子が喜ふ”

とかナンとか。

ロリコンかよ。

体が動くならきっと舌打ちしてた。



遅めの昼食会。

俺は動けないままソファーに座って飾られる。

まわりはそれを眺めて食事してる。

男女数人。

女たちはこれと同じ人形をつくらせようかとはしゃいで男たちはどうやって順番を決めようかと話し合う。

この生き人形と何をして遊ぶかそれぞれが口にする。

利き手の怪我の包帯と添え木は見た目が悪いという理由で外してある。

意識が遠退く薬のおかげで痛みはない。

こいつら、俺のことを人形と呼んでいた。

人形の持ち主を気取るあのくそ貴族は、

“脱がせると手が少し壊れているがいずれ直るので問題ない。だが、なかなか手に入らないから大事に使ってくれ”

“本物と違って生き人形は自然と直るから楽だ。
作らせると高価だから”

“でも維持費がかかる“

“使用人をひとり雇うより安い“

“だが劣化する”

“本物の人形は最初から高価で修理に金と時間がかかるのが難点だ。だけど良いものは長持ちするから”

人形と人の区別がつかない会話。

男と女の声が混じってる。

薬のせいで思考がまとまらない。

自分は何かわからなくなる。

客たちはゲームで遊んでる。

順番は決まったらしい。

薄暗い日差しに変わるころ、使用人たちに運ばれて広い部屋のベッドに寝かされた。

客たち全員が入って余裕がある。

使用人がテーブルやソファーの回りに娯楽的なカードや盤、酒や軽食が用意しているのが見えた。

実際に全員が部屋に集まってきた。

思考の落ちた俺でも分かるわ。

あいつら、見世物やる気だ。

脱がす楽しみくらい譲ってと甲高い声で女達がねだる。

誰かが構わないと言うとおままごとのように髪をほぐして服を緩めて遊んでる。

上品にしながらやってることは気持ち悪いくずだとぼんやり考えていた。

“もういいだろう?変わってくれるかな”

最初は私だと男が立ってネクタイを緩めた

男の重みで大きな寝台がきしむ。

恐ろしくて気持ちが悪い。

必死で力を込めるが指先が少し震えるだけだった。

「お化粧がよれるから顔はさわらないで」

「こんなにきれいに整えてあるのにもったいないから」

「本物のお人形と違って触ると汚くなるのよ」

嫌な会話が聞こえる。

ああ、くそ。

どうすればよかった?

どのタイミングで、何をすれば良かったんだ。

上に股がった男が俺の体をまさぐる。

感覚が全て鈍くなっているのにその手の動きがはっきり分かる。

ああ!いやだ!

触んな!

寒気がする!

泣きたい。

なんでこんなことに。

少しずつ動くのは視線だけだ。

今の助けになるものが何かないかと必死で目を開けてさ迷わせた。

サテン生地の天蓋。

ろうそくの光。

鈍い光の反射で赤のサテンは赤銅に見えてチイネェの肌が浮んだ。

会いたい。

今一番会いたい。

触りたい。

声を聞きたい。

なんで俺が俺がしたいのに。

チイネェに。

中途半端に交わった。

もっと。

こんな時に下世話なことを考えた自分に嫌悪が出たけど、ふとチイネェは本当の姉じゃないとよぎった。

それならチイネェは俺のにしていい。

くれると言ったんだ。

あれはチイネェの本心だ。

チイネェは俺のことを知ってたんだから。

俺のだ。

思いつきに気力が湧いてきた。

微かに動く指。

もっと強く。

抵抗するんだ。

こいつらをどうにかするんだ。

必死で全身に力を入れた。

「手の形はいまいちね。真ん中にみっともないこぶがある。爪もこんなに短くて、かわいくない」

のぞきこんで、切っちゃえば?と。

「今はやめてくれ。血は見たくない。興ざめする」

「今じゃないわよ。あとでよ」

「ふふ。怖いのかしら。手がぴくぴくしてる」

一人が騒ぐと女達が笑い、全員が興味津々になる。

「生き人形はこういうのがあるから楽しいよね、はは」

「本当ね。ほほ。ねえ?ここからここを切ってしまいましょう。大きめに、ざっくりと」

「貸してごらんよ。忘れないように僕が印をつけておこう」

「だから血は嫌だって言ってるじゃないか」

「大丈夫。印だけだ。型をつけるだけ。それに反応があると楽しみが増えるよ」

「少し抵抗するくらいが肉の締まりがあって気持ちいいからね。やろうよ。こんな感じでこう切ればこのこぶだけ取れるし跡が薄くすむよ」

ぴっ、ぴっと手のひらに十字のラインを引いた
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