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86,非情になれない
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「気分、わる」
二日酔いみたいな具合だ。
目眩と吐き気がすごい。
夜になったら同室のこいつはぐっすり眠った。
身支度してる間ウンともすんとも言わない。
こいつが調理場から食事を運んできたけど指輪をかざせば光った。
興味を持ってこれが何かの魔道具なら金になると指から外そうとしていたが、抜けなくて諦め、そして俺が食欲がないと言うとこいつは俺の分も平らげた。
これだけぐっすりなら睡眠薬か何かかな。
訳の分からないことがまた起きる前にとっとと出たい。
腹へったし、それなのに胃が痛くて吐きそうだし。
こんな所に一秒だっていたくねぇ。
まともな会話はどいつもこいつもする気がないんだ。
勝手に出ていくわい。
何なんだ、こいつらは。
暗い屋敷の回廊を足音を消して進む。
使用人部屋の一角で、どの部屋にも人の気る気配があるから本当に静かに息を殺して動いた。
窓から外を眺めた。
屋敷の外までは簡単。
だけどここからだ。
敷地が広すぎるし、夜は外に見張りがいる。
人がうろうろしてるのを見掛けてよく見れば私兵だと分かった。
屋敷に繋げてある見晴らしのいい櫓。
数ヵ所ある。
そこのひとつに今はいる。
ついでに俺が抜け出したこともバレたっぽい。
ランタン片手に人がわらわら屋敷から出てきた。
周囲を確認する前に外に行った方がよかったかな?
あー、無理か。
馬を出してきた。
走っても追い付かれるし、闇雲に塀を目指しても道を使っても無駄か。
ここもバレるよなぁと思い、櫓の屋根に登った。
自分が身軽なのは感謝。
屋根を伝って屋敷の天辺。
屋根と屋根の隙間に潜り込んだ。
人がうろうろする気配から怒鳴り声が増えてきた。
いたか?
どこに行った?
向こうは見たか?
俺を探してるんだろうなと察してじっと耳をすます。
ああ、最後に嫌な声が聞こえてきた。
「どこだ!おい!お前まで女房みたいに消えやがって!出てこい!」
また気持ち悪くなってきた。
頭痛い。
「バカが!このバカ息子が!産ませなきゃよかった!役立たずが!あの嫁のせいだ!鬼のせいだ!」
おろさせるつもりだったろうが。
払った金は手切れ金だ。
二度と会うかよ。
気持ちは冷めてるのになぁ。
目から涙が止まらねぇ。
気にならない訳じゃなかった。
どんな人かって。
期待がなかった訳じゃないんだ。
見も知らずの他人なのに。
あんなひどい人間なのに。
親だとわかるほどそっくりなあいつに情が湧いたんだ。
「ぐすっ、ズズッ。ひどいゴミだ」
18年前のゴミって本当だわ、チイネェ。
帰りたいわー。
今度は申し訳ありませんと泣き声に変わった。
「女房の次は息子に逃げられたのか」
あいつ、マジで俳優気取りかな。
張りのあるテノールの声がここまでよく聞こえてくるわ。
「たのむよぉ!出てきてくれよぉ!」
舞台かがったしゃべり方で罵る貴族。
騒いですがるあの男。
本音を吐く。
親なのになんで助けてくれないんだ
助けてくれ
金がほしい
助けてほしい
それだけ
残った情もさめていく情けなく泣けてきた。
マジで涙が止まらねぇ。
袖に顔を埋めて泣いた。
「くそったれ!くそったれ!これでどうだ!?」
悲鳴が聞こえた。
危ない、やめろって。
見たら自分に油をかけて死んでやると騒いでる。
出なかった。
出る義理なんかない。
認めたくない。
どうせ嘘だから。
親だけど親じゃない。
あいつには親としての感情がない。
俺だって子としての情はない。
勝手にしろ。
長い沈黙。
俺はどう逃げようかとそればかり。
「もういい。貸せ」
「え?旦那様!伯爵様!ひぃぃぎゃあああっ!」
「あっ!おい?!」
うんざりした貴族があっさりと火をつけたんだ。
「やめろぉ!」
火に炙られた姿を見て思わずお父さんと叫んだ。
二日酔いみたいな具合だ。
目眩と吐き気がすごい。
夜になったら同室のこいつはぐっすり眠った。
身支度してる間ウンともすんとも言わない。
こいつが調理場から食事を運んできたけど指輪をかざせば光った。
興味を持ってこれが何かの魔道具なら金になると指から外そうとしていたが、抜けなくて諦め、そして俺が食欲がないと言うとこいつは俺の分も平らげた。
これだけぐっすりなら睡眠薬か何かかな。
訳の分からないことがまた起きる前にとっとと出たい。
腹へったし、それなのに胃が痛くて吐きそうだし。
こんな所に一秒だっていたくねぇ。
まともな会話はどいつもこいつもする気がないんだ。
勝手に出ていくわい。
何なんだ、こいつらは。
暗い屋敷の回廊を足音を消して進む。
使用人部屋の一角で、どの部屋にも人の気る気配があるから本当に静かに息を殺して動いた。
窓から外を眺めた。
屋敷の外までは簡単。
だけどここからだ。
敷地が広すぎるし、夜は外に見張りがいる。
人がうろうろしてるのを見掛けてよく見れば私兵だと分かった。
屋敷に繋げてある見晴らしのいい櫓。
数ヵ所ある。
そこのひとつに今はいる。
ついでに俺が抜け出したこともバレたっぽい。
ランタン片手に人がわらわら屋敷から出てきた。
周囲を確認する前に外に行った方がよかったかな?
あー、無理か。
馬を出してきた。
走っても追い付かれるし、闇雲に塀を目指しても道を使っても無駄か。
ここもバレるよなぁと思い、櫓の屋根に登った。
自分が身軽なのは感謝。
屋根を伝って屋敷の天辺。
屋根と屋根の隙間に潜り込んだ。
人がうろうろする気配から怒鳴り声が増えてきた。
いたか?
どこに行った?
向こうは見たか?
俺を探してるんだろうなと察してじっと耳をすます。
ああ、最後に嫌な声が聞こえてきた。
「どこだ!おい!お前まで女房みたいに消えやがって!出てこい!」
また気持ち悪くなってきた。
頭痛い。
「バカが!このバカ息子が!産ませなきゃよかった!役立たずが!あの嫁のせいだ!鬼のせいだ!」
おろさせるつもりだったろうが。
払った金は手切れ金だ。
二度と会うかよ。
気持ちは冷めてるのになぁ。
目から涙が止まらねぇ。
気にならない訳じゃなかった。
どんな人かって。
期待がなかった訳じゃないんだ。
見も知らずの他人なのに。
あんなひどい人間なのに。
親だとわかるほどそっくりなあいつに情が湧いたんだ。
「ぐすっ、ズズッ。ひどいゴミだ」
18年前のゴミって本当だわ、チイネェ。
帰りたいわー。
今度は申し訳ありませんと泣き声に変わった。
「女房の次は息子に逃げられたのか」
あいつ、マジで俳優気取りかな。
張りのあるテノールの声がここまでよく聞こえてくるわ。
「たのむよぉ!出てきてくれよぉ!」
舞台かがったしゃべり方で罵る貴族。
騒いですがるあの男。
本音を吐く。
親なのになんで助けてくれないんだ
助けてくれ
金がほしい
助けてほしい
それだけ
残った情もさめていく情けなく泣けてきた。
マジで涙が止まらねぇ。
袖に顔を埋めて泣いた。
「くそったれ!くそったれ!これでどうだ!?」
悲鳴が聞こえた。
危ない、やめろって。
見たら自分に油をかけて死んでやると騒いでる。
出なかった。
出る義理なんかない。
認めたくない。
どうせ嘘だから。
親だけど親じゃない。
あいつには親としての感情がない。
俺だって子としての情はない。
勝手にしろ。
長い沈黙。
俺はどう逃げようかとそればかり。
「もういい。貸せ」
「え?旦那様!伯爵様!ひぃぃぎゃあああっ!」
「あっ!おい?!」
うんざりした貴族があっさりと火をつけたんだ。
「やめろぉ!」
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