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85,親子の会話
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貴族は俺達を部屋から追い出してこの男の間借りしてる使用人部屋に来た。
ひっぱたかれたところを撫でた。
こいつと二人でいることに嫌悪しながら。
俺が金を払って機嫌がいい。
いい息子だと喜んでる。
俺には他人だと心の中で返した。
でも人間の気持ちっておかしい。
こんなに気持ち悪いと思うのに、本当の親だと思うと誉められてくすぐったいと心がざわつく。
俺の頭がおかしくなったかも。
「まだ金は残ってるんだろ?はは、これで安心だ。お前には分からないだろうけど金のない生活は辛いんだ」
適当に頷いて黙って過ごす。
「移住、って言ってたけど大陸の奥から?」
何気なしに尋ねた。
「大陸の向こうじゃない。暮らしてたのはふたつ隣の国だ」
山の奥で暮らしていたらしい。
以前、ローラさんが話していた国だ。
遠いけどそこの分家になるって。
「あ、姉貴は鬼に拐われた」
「おや、じ……鬼人の、ロクロウが拐ったん?」
「そうだ。あいつは化け物だ。俺の嫁も被害者だ。俺は被害者なんだ」
「俺の、母さんは?」
「知らん。あいつは我が儘な女だった。嫌な女だった。子供ができた途端金がいると騒いで、お、俺の稼ぎがないって罵った。だから、」
“おろせといったんだ”
その言葉に眉をひそめた。
「あいつは何もしないくせに文句ばかり。だから俺が勤めてた花街の玄人に頼んだ。高かったのに。なのに払うつもりだった金を持ってあいつ逃げやがった」
気持ちが冷えていく。
「今は生ませて正解だ。あはは」
「……逃げた先が鬼人のところ?」
「……知らん。見つからなかった」
どうせどっかでお前を生んで死んだんだと笑った。
聞けば聞くほど気持ちが悪い。
でも確かにこいつとは血の繋がりがあるんだと分かる。
よく見れば手の形がそっくりだ。
顔立ち、体格、声まで。
今まで出会った人間の中でこいつは俺にそっくりだ。
なんの縁か親父達は俺を見つけたんだ。
それで引き取ったんだと想像ついた。
「あの時、俺の昔の姿を見掛けて」
「あの時?あっ!」
ハッとした。
親父やドリアドスさん達と飲んだ飲み屋街。
俺の腕を掴んだ男を思い出した。
「あの鬼人、あの女。鬼のくせに。あのくらいの金で足りるかよ。俺はあいつに身内を拐われて妻子まであいつらに拐われたんだ。頭のおかしな女房が何を唆したのか知らねぇが、あの鬼どもは俺を虫みたいに追い払いやがって」
支離滅裂。
生んでのたれ死んだとせせら笑ってたのに、今は親父達が拐ったと言う。
何があったのか本当に分からない。
こいつも分かってないんじゃないか?
そう思ったらため息がこぼれた。
無駄だ。
もう充分だ。
これ以上俺の頭がおかしくなる前にここから離れよう。
今も狂いそう。
叫びたくて堪らない。
どうやってこの屋敷から出ようか。
塀から屋敷の敷地が広すぎる。
吐き気と頭痛を堪えて外に逃げる算段を頭の中で思い描く。
隣でしゃべる俺に似たこの男の声が耳障りだった。
「ギルドの上級なら金回りがいいんだろ?なあ?俺はこれまで苦労したんだ。俺を楽にしてくれよ?わかったか?なぁ、おい」
こいつの声と一緒に耳鳴りがする。
辛くて泣きそう。
昨日までは幸せだったのに。
チイネェや皆と過ごして俺はずっと幸せだった。
ひっぱたかれたところを撫でた。
こいつと二人でいることに嫌悪しながら。
俺が金を払って機嫌がいい。
いい息子だと喜んでる。
俺には他人だと心の中で返した。
でも人間の気持ちっておかしい。
こんなに気持ち悪いと思うのに、本当の親だと思うと誉められてくすぐったいと心がざわつく。
俺の頭がおかしくなったかも。
「まだ金は残ってるんだろ?はは、これで安心だ。お前には分からないだろうけど金のない生活は辛いんだ」
適当に頷いて黙って過ごす。
「移住、って言ってたけど大陸の奥から?」
何気なしに尋ねた。
「大陸の向こうじゃない。暮らしてたのはふたつ隣の国だ」
山の奥で暮らしていたらしい。
以前、ローラさんが話していた国だ。
遠いけどそこの分家になるって。
「あ、姉貴は鬼に拐われた」
「おや、じ……鬼人の、ロクロウが拐ったん?」
「そうだ。あいつは化け物だ。俺の嫁も被害者だ。俺は被害者なんだ」
「俺の、母さんは?」
「知らん。あいつは我が儘な女だった。嫌な女だった。子供ができた途端金がいると騒いで、お、俺の稼ぎがないって罵った。だから、」
“おろせといったんだ”
その言葉に眉をひそめた。
「あいつは何もしないくせに文句ばかり。だから俺が勤めてた花街の玄人に頼んだ。高かったのに。なのに払うつもりだった金を持ってあいつ逃げやがった」
気持ちが冷えていく。
「今は生ませて正解だ。あはは」
「……逃げた先が鬼人のところ?」
「……知らん。見つからなかった」
どうせどっかでお前を生んで死んだんだと笑った。
聞けば聞くほど気持ちが悪い。
でも確かにこいつとは血の繋がりがあるんだと分かる。
よく見れば手の形がそっくりだ。
顔立ち、体格、声まで。
今まで出会った人間の中でこいつは俺にそっくりだ。
なんの縁か親父達は俺を見つけたんだ。
それで引き取ったんだと想像ついた。
「あの時、俺の昔の姿を見掛けて」
「あの時?あっ!」
ハッとした。
親父やドリアドスさん達と飲んだ飲み屋街。
俺の腕を掴んだ男を思い出した。
「あの鬼人、あの女。鬼のくせに。あのくらいの金で足りるかよ。俺はあいつに身内を拐われて妻子まであいつらに拐われたんだ。頭のおかしな女房が何を唆したのか知らねぇが、あの鬼どもは俺を虫みたいに追い払いやがって」
支離滅裂。
生んでのたれ死んだとせせら笑ってたのに、今は親父達が拐ったと言う。
何があったのか本当に分からない。
こいつも分かってないんじゃないか?
そう思ったらため息がこぼれた。
無駄だ。
もう充分だ。
これ以上俺の頭がおかしくなる前にここから離れよう。
今も狂いそう。
叫びたくて堪らない。
どうやってこの屋敷から出ようか。
塀から屋敷の敷地が広すぎる。
吐き気と頭痛を堪えて外に逃げる算段を頭の中で思い描く。
隣でしゃべる俺に似たこの男の声が耳障りだった。
「ギルドの上級なら金回りがいいんだろ?なあ?俺はこれまで苦労したんだ。俺を楽にしてくれよ?わかったか?なぁ、おい」
こいつの声と一緒に耳鳴りがする。
辛くて泣きそう。
昨日までは幸せだったのに。
チイネェや皆と過ごして俺はずっと幸せだった。
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