鬼人の姉と弓使いの俺

うめまつ

文字の大きさ
上 下
85 / 105

85,親子の会話

しおりを挟む
貴族は俺達を部屋から追い出してこの男の間借りしてる使用人部屋に来た。

ひっぱたかれたところを撫でた。

こいつと二人でいることに嫌悪しながら。

俺が金を払って機嫌がいい。

いい息子だと喜んでる。

俺には他人だと心の中で返した。

でも人間の気持ちっておかしい。

こんなに気持ち悪いと思うのに、本当の親だと思うと誉められてくすぐったいと心がざわつく。

俺の頭がおかしくなったかも。

「まだ金は残ってるんだろ?はは、これで安心だ。お前には分からないだろうけど金のない生活は辛いんだ」

適当に頷いて黙って過ごす。

「移住、って言ってたけど大陸の奥から?」

何気なしに尋ねた。

「大陸の向こうじゃない。暮らしてたのはふたつ隣の国だ」

山の奥で暮らしていたらしい。

以前、ローラさんが話していた国だ。

遠いけどそこの分家になるって。

「あ、姉貴は鬼に拐われた」

「おや、じ……鬼人の、ロクロウが拐ったん?」

「そうだ。あいつは化け物だ。俺の嫁も被害者だ。俺は被害者なんだ」

「俺の、母さんは?」

「知らん。あいつは我が儘な女だった。嫌な女だった。子供ができた途端金がいると騒いで、お、俺の稼ぎがないって罵った。だから、」



“おろせといったんだ”



その言葉に眉をひそめた。

「あいつは何もしないくせに文句ばかり。だから俺が勤めてた花街の玄人に頼んだ。高かったのに。なのに払うつもりだった金を持ってあいつ逃げやがった」

気持ちが冷えていく。

「今は生ませて正解だ。あはは」

「……逃げた先が鬼人のところ?」

「……知らん。見つからなかった」

どうせどっかでお前を生んで死んだんだと笑った。

聞けば聞くほど気持ちが悪い。

でも確かにこいつとは血の繋がりがあるんだと分かる。

よく見れば手の形がそっくりだ。

顔立ち、体格、声まで。

今まで出会った人間の中でこいつは俺にそっくりだ。

なんの縁か親父達は俺を見つけたんだ。

それで引き取ったんだと想像ついた。

「あの時、俺の昔の姿を見掛けて」

「あの時?あっ!」

ハッとした。

親父やドリアドスさん達と飲んだ飲み屋街。

俺の腕を掴んだ男を思い出した。

「あの鬼人、あの女。鬼のくせに。あのくらいの金で足りるかよ。俺はあいつに身内を拐われて妻子まであいつらに拐われたんだ。頭のおかしな女房が何を唆したのか知らねぇが、あの鬼どもは俺を虫みたいに追い払いやがって」

支離滅裂。

生んでのたれ死んだとせせら笑ってたのに、今は親父達が拐ったと言う。

何があったのか本当に分からない。

こいつも分かってないんじゃないか?

そう思ったらため息がこぼれた。

無駄だ。

もう充分だ。

これ以上俺の頭がおかしくなる前にここから離れよう。

今も狂いそう。

叫びたくて堪らない。

どうやってこの屋敷から出ようか。

塀から屋敷の敷地が広すぎる。

吐き気と頭痛を堪えて外に逃げる算段を頭の中で思い描く。

隣でしゃべる俺に似たこの男の声が耳障りだった。

「ギルドの上級なら金回りがいいんだろ?なあ?俺はこれまで苦労したんだ。俺を楽にしてくれよ?わかったか?なぁ、おい」

こいつの声と一緒に耳鳴りがする。

辛くて泣きそう。

昨日までは幸せだったのに。

チイネェや皆と過ごして俺はずっと幸せだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...